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前世3

毎日満ち足りて幸せに暮らしていた私だが、気になっている事があった。

この世界は災害が多すぎるのだ。

大きな地震が来れば家は崩れ、台風が来れば畑が流れる。大雨が降り続く事もあれば日照りが続き雨が全く降らない事もある。

だからこそ人々は貧しく、生きて行くのが精一杯な状況は変わらない。


私がこの世界をしっかり守り導くようになれば安定するのだろうか。

もうすっかり私はこの世界を大切に思っているし、そろそろここを離れて本来の立場に戻るべき時期なのかもしれない。

そう思ってはいるもののアルフレッドやサンやベガのそばを離れがたく、私はずるずるとこの世界に留まり続けてしまった。


そんなある日かつてないほどの大きな災害がこの世界を襲った。

立っていられないほど地面が揺れ、火山は噴火して溶岩を流し分厚い火山灰が降り注いだ。

多くの人が死んだが、生き残った人々も家を無くし、食料もなく途方に暮れていた。

不幸はそれだけには止まらず、今度は大雨が降り注いだ。

降り積もった火山灰が土砂となって流れ出し、森を潰し、川を埋めた。

そこに残ったのはただ赤茶けた大地だけだった。


曲がりなりにも私は御使の力を持っているので、アルフレッドもサンもベガも怪我もせず逃げ延びる事ができた。

とはいえ家も畑も流され食糧もほとんどない状況では生きるのは難しい。

一家は王都に向けて移動する事になった。

王都ならばまだ被害も抑えられているだろうし、避難民への援助も行われているかもしれないからだ。

しかし王都までは遠く、まだ幼い子供を連れての移動は非常に困難を極めた。


途中わずかに生えている草を食べ、稀に現れるネズミや小鳥を私が捕まえたりもしたが、皆どんどん痩せ細っていく。

アルフレッドはどんな時もサンと私に食べ物を優先して分け与えたが、サンもいよいよ栄養失調で乳が出なくなった。

ベガの泣き声がどんどん弱くなり、見ていられなくなった私は禁忌とされていた御使の力の譲渡をアルフレッドに行った。この世界を離れて私が力を使うとしても、ベガを助ける為には間に合わないと思ったのだ。


私はこの世界では力のほとんどを封印されているが、譲渡を行えばその封印の1割ほどは解放される。

それによりアルフレッドは生命を作り出し、飢えから解放される事ができるだろう。

その代償として私は御使として天界に戻る事は出来なくなり、この世界全体を上から守る事は不可能になってしまう。

譲渡はアルフレッドすら知らないうちに行った。

その瞬間、天界との繋がりが断たれるのを感じ私は身を引き裂かれる思いがしたが、同時にこの家族の命を守ることができたという安堵と満足感が胸に広がった。


アルフレッドは手先が器用でよく私やベガにおもちゃを作ってくれていた。

その時も、命の灯火が消えそうなベガを慰めるために、小さな兎を土塊から作り出した。

最後の仕上げに丸い尻尾をお尻につけると、兎は一度強く光って動き始めた。

ああ、譲渡は成功しているし、アルフレッドは上手く力を使えそうだ。

私はホッとしながら驚いているアルフレッドに駆け寄り兎を咥えた。

アルフレッドは驚きながらも私の口から兎を受け取り、しばらく触ったり眺めたりしてから、手早く捌いて火を起こして炙り始めた。

肉を焼いている間アルフレッドは首を傾げながら再び土塊の兎を作り始めた。

出来上がった兎はまた光を放ち動き始める。

アルフレッドは何度も何度も兎を作り、それを捌き、肉を焼き、私やサンだけではなく近くにいる人々に配ってまわった。


アルフレッドは更に土塊から牛やヤギも作り出した。

乳の張った牛やヤギはたくさんのミルクを出した。

そのミルクを薄めながらベガに飲ませて時間を稼いでいるうちに、サンはまた乳を出せるようになった。


アルフレッドは動物だけではなく、土塊を器用に削りながら植物も作り出して行った。

御使の力で作り出された動物も植物も強い生命力を持ち、すくすくと育っていった。


赤茶けた大地でそこだけがオアシスのように命の輝きに溢れるようになり、当然ながらそこには次々に人々が集まってくる。

アルフレッドは寝る間も惜しんで土塊をこねて様々な生物を生み出して行った。

アルフレッドにもサンにもベガにも笑顔が戻り、私もまた幸せな気持ちに浸っていた。


ある夜のこと、草を集めて作った寝床で丸くなっていると、アルフレッドが私の横に腰を下ろしていつものように私の頭を撫でながら言った。


「ビアンカ。この不思議な力はお前がくれたんだろう?なんて言うか、同じ物をお前から感じるんだ。お前はずっと俺たちを守ってくれていたんだな。」


それからアルフレッドは私のおでこに口付けをして、「ありがとう。」と笑った。

アルフレッドの笑顔は初めて会った時とこれっぽっちも変わらず、私は御使である私がいなくとも、アルフレッドがいればこの世界は大丈夫なんじゃないかと漠然と思った。

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