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前世

「ルーラ、あなた、ちょっと人間の世界を中から見ていらっしゃい。」


ある日私は女神様にそう言われてひとつの人間界に落とされた。

女神様によって作られた私は、日々女神様の言いつけをこなしつつ修行をしていたが、それが最後の修行なのだそうだ。


女神様の足元には四角いキューブのような形でいくつもの人間界が並べられている。

キューブごとに世界が違っていて、人々の気質や能力、文化、文明、気候や景色、存在する生物とあらゆるものが違う場合もあれば、似通っている場合もある。


一つのキューブが作られて中の世界が発達してくると、女神様はそのキューブを守り、監視するために私達のような御使を作り、その世界にあてがうのだ。

ひとつのキューブにひとりの御使がつきそれぞれが受け持つ世界を導いて行くのだが、手に負えない状況になってしまったら女神様に相談してキューブを壊してもらうこともある。

その時はもちろん私達御使の存在も壊されることになる。


私達は元々作られたものであるし、壊される事に抵抗はない。

でもキューブをすぐに壊す判断をされるのは女神様の本意ではないようで、各々が見守る世界に一度どっぷりと使って愛着を湧かせようと人間の世界に落とされるのだ。


人間の世界に落ちた私達はそれほど大きな力を持てないし、タイミングによっては人間自身の手で壊されてしまうこともある。

その場合、その世界は守るものを失い早々に破滅するか、女神様が自ら壊したりする。


人間界に落とされた私は小さな犬の姿をしていた。

口を開いてもワンとかキューしか出てこない。

多少の力はあるが今のところ使う必要はない。

この世界では犬は人の心に寄り添う"相棒"らしく、犬が虐げられることはほぼないだろうとこの姿を選んだ。


仔犬の姿で丸まっていた私を見つけたのが彼だった。

「こんなところでどうした?捨てられたのか?」

彼は私をひょいと抱き上げて胸の中で頭を撫でた。


彼の胸の中は暖かく、身体からは香ばしい匂いがする。

ふんふん鼻をひくつかせると、彼がポケットから何かを取り出した。

「お前、鋭いなー。腹減ってるのか?これ食べれるか?」


地面に私をそっと下ろし、目の前にパンのかけらが置かれる。

別に私は食べ物を食べる必要などないのだが、折角なのでもらうことにした。

食べている最中も彼はニコニコしながら私の頭を撫でている。

私は早くもこの世界を少し好きになってきていた。


パンを食べ終えた私を彼はまたヒョイと抱き上げて歩き始めた。

「うちで一緒に暮らそうな。帰ったらミルクも飲ませてやるからな。」

私は尻尾を振りながら彼の顎をぺろぺろ舐めた。

「くすぐったいよ!可愛いなぁ。」


しばらく歩いて辿り着いたのは集落のハズレにある小さなぼろ家だった。

家の前には畑が作られていて青い葉を茂らせている。何か野菜でも作っているようだ。

私を家の中に連れて入り、彼は奥の台所からミルクの入った皿を持ってきた。

家の中には必要最低限のものしかないし、皿も欠けていておそらく豊かな生活を送ってはいないのだろう。

ミルクをぴちゃぴちゃ舐めている間もやはり彼は私の頭を撫でている。

「名前を決めなくちゃいけないな。うーん…綺麗な白い毛並みだから、お前の名前はビアンカだ!」


ミルクの皿から顔をあげ「わん!」と声を上げると、彼は嬉しそうに笑った。


「俺の名前はアルフレッド。よろしくな、ビアンカ。今日からお前は俺の家族だ!」


その日から私とアルフレッドの暮らしが始まったのだった。

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