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僕達は皆ビアンカに御使の力を返す事をすぐに決断した。

ビアンカに力を返した後はもう誰もこの力を引き継ぐことはなくなる。

力が無くなればジェンダー家の存在を認めるようなことを王太子殿下が言っていたので、ちょうど良かったくらいだ。


だけど、僕達に力が無くなったことやこれからもう現れなくなることを証明することが出来ない。


「どうしたらいいだろう。」


僕が首を捻るとローズ様がどこから取り出したのかクッキーをビアンカの前に差し出しながら、ふふふと笑った。


「王太子殿下は確実に感じられる人ですよ。隠しているだけです。私達がビアンカ様に力の譲渡をするところを見せれば納得するはずです。」


「でも王太子殿下だけではなく全ての人にその事を知らしめたいですよね。」


「その方が今後は生きやすくなるわね。」


「とりあえずここを出てローズ邸に戻りませんか?

奥様や旦那様も心配しているでしょうし。」


デュランの言葉に僕たちは立ち上がった。ローズ様の手のものとアナベル嬢の笛に加えビアンカもいる今脱出は難しくないように感じられた。


僕達は女神の間を出、一列になって来た道を門に向かって歩いて行った。

その時にはもう走る事も戦う事もする必要はなかった。

ローズ様の送り込んだ騎士がある程度王宮内の騎士たちを抑え込み、アナベル嬢の笛の音が通り道にいる使用人の意識を飛ばし、ビアンカの巻き起こす風が僕たちを取り囲んで誰も近寄ることが出来なかったのだ。


門を出て少し行くと父と母の用意した馬車が待っていて、シェリル嬢とキースが出迎えてくれた。

僕達は追われている身とは思えない程悠々とローズ邸に辿り着いたのだった。


ローズ邸に着いてから僕達は2通の手紙を書き、それぞれに送った。

一通は僕の両親へローズ邸に来るように伝えるもの。

もう一通は王太子殿下に祝福の力を無くすことが可能となりそれを国民皆に示すのでもう少しだけ猶予を欲しいと願う物だ。


両親は手紙を受け取ってすぐにローズ邸にやってきた。

2人は僕を見るなり、両脇から僕を抱きしめてきた。

いつも貴族らしく余裕を崩さない2人が取り乱し、泣いているのを初めて見る。


「ああ、アル!無事でよかった!生きた心地がしなかったわ!」


「怪我はしていないか?大丈夫なのか?」


暖かい想いが溢れんばかりに伝わってきて、2人の愛に僕まで目の奥が熱くなる。


「父上、母上、ご心配おかけしました。色々と手を回していただきありがとうございます。」


「アルが生きていればそれだけでいいのよ。国も身分も捨てる準備はできているわ。」


「疲れただろう。お前は少し休んで後は私達に任せなさい。」


「そういうわけにも行かないのです。父上と母上にも知恵をお借りしたいことがあるので…」


2人にこれまでの事を説明しようとした時、執事が思いもよらない人物の来訪を告げに来た。

それはまさかの王太子殿下だった。

ピリッとした空気が流れ僕達は身構えたが、ローズ様はゆったりと構えて執事に王太子殿下を通すように伝えた。


「この邸には私達に害意を持った者は近寄ることすらできないはずなの。おそらく問題ないわ。

アルフレッド様の手紙を見て考えを変えたのだと思うわよ。」


そうして部屋に入ってきたのは王太子殿下ただ1人だった。


「王太子殿下…いえ、もう王様ですか。

私たちが言うのも何ですが、流石に護衛もつけず1人というのはどうした事ですか?」


父が驚いて尋ねると、王太子殿下は嫌そうに鼻に皺を寄せて肩をすくめた。


「護衛も騎士もアホほど連れてきたさ。

しかし皆途中で逸れていってたどり着いたの私一人だ。

相変わらずこの邸は厄介極まりないな。」


「なるほど…して、何故こちらへ?」


「手紙では肝心な事がさっぱりわからなかったからな。直接聞きにきたのだ。詳しく説明しろ。」


僕は気を取り直して、両親と王太子殿下に一から説明していった。


話終わると王太子殿下は目を閉じて天を仰ぎ、深く溜息をついた。


「そうか…御使が世界を変えるというのはそういうことだったのか…」


「そういう事とは?」


「御使が天に帰ったら世界全体を見守り導くのだろう?

今まではわが国にしか届かなかった恩恵が世界に届くようになるのだ。

まさに世界が変わることになる。」


「確かにそうですね。でもその予言がいつなされたのか…

僕は知らないし、こんな事になる未来を見越した誰かがいたとしたらすごい人物ですね。」


「そうなのか?まあ過去の事を確認する術はないがな。」


「王太子殿下、いえ、王様、それで、ジェンダー家は力を持つものはいなくなります。存在はお許しいただけるのでしょうか。」


「そうだな。問題ないだろう。

ただ、その御使の力を返すとか言うパフォーマンスを私も利用させてもらう。

神秘的な光景を見せる事で私の即位を吉兆と国民に認識させることができる。

来月即位式を行うのでその場で行ってもらいたい。」


王太子殿下の提案は予想外だったが、しばらくビアンカと過ごす時間をもらえるのはありがたい。

祝福の返上はいくらでも演出できそうだ。


「かしこまりました。」


僕が頭を下げると、ローズ様が口を開いた。


「王様、ジェンダー家は今までこの力があるからこその公爵家でした。

力をなくす以上爵位は返上させていただきたいと思うのですが。」


「必要ない。ローズ殿の政治力は相当な物だ。

今までは他家との交流を控えてもらっていたが、その必要もなくなる。

今後はジェンダー家は公爵として中央で政治に関わってもらう。」


「うれしくないですわね。」


「諦めろ。有能な人間を手放すわけには行かない。」


そう言って王太子殿下は帰って行った。


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