40
「だからと言って!」
私は思わず叫んだ。
相手が誰だろうともう関係ない。
あまりに理不尽な物言いに我慢ならなかった。
「私達にだって家族もいるし感情もあります!
国の未来ためにただ黙って殺されろと、そう仰るのですか?
存在自体が罪だと仰るのですか?
あまりに横暴ではありませんか!」
王太子殿下が少し目を伏せて私達から視線を逸らすと、お祖母様が宥めるように私の手を握った。
「私とて何も思わないわけではない。
王家に役割を押し付けられ、玉座を狙うものに利用され、お前達に同情する気持ちもあるのだ。
しかし歴史の中でお前たちの存在はそのようなものとして出来上がってしまっている。
その力を捨てる方法があると言うのなら話は変わってくるが?」
「そのような方法は存じ上げません。
私達は一族ででこの国を出て行きます。
この国に祝福を持つものが存在しなくなれば、それでよろしいではないですか。」
「戻ってこないとなぜ言い切れる?
しかも万が一お前達が移住した国が女神の恩恵を受けてみろ。
どうなるかわかるだろう?」
「女神の守りは女神の間の御神体によるものです。
私達は祝福を捧げそれを慰めるだけですもの。
移住先に恩恵などおこりませんよ。」
「確信がない。諦めろ。」
「諦められるものですか。」
おばあさまがそう言って立ち上がるとドアが開き、2人の騎士とマリーとデュラン、そしてアルフレッド様雪崩れ込んで来たのだった。
2人の騎士はかなりの手練らしく王太子殿下の周りの騎士を薙ぎ倒し私達の退路を作って行く。
「ローズ様!お逃げください!」
その後ろで真っ青な顔をして汗を滴らせデュランに支えられてやっと立っている状態のアルフレッド様を見て私は駆け寄った。
「アルフレッド様!大丈夫ですか!?」
「アナベル嬢、ローズ様逃げてください。僕は大丈夫です。ここは何としても食い止めます!」
「皆で一緒に。」
私は首を振ってからそう言って胸元から小さな笛を取り出し、昔おばあさまに習った子守唄を吹いた。
部屋に笛の音が拡がるにつれ騎士たちは力を抜きぼんやりとした表情で目を彷徨わせる。
「あまり持ちません。急ぎましょう!」
「やはり一筋縄では行かないと思っていたが…」
苦々しげに呟く王太子殿下に背を向けて私達は部屋から駆け出した。
後ろから王太子殿下が呼び鈴を鳴らすのが聞こえる。
王宮の外に出ようとしたが、呼び鈴を聞いた多くの騎士が門の方から向かってくるのを見て私達は奥は奥へと追い込まれていった。
王宮の最奥には女神の間があり、そこに繋がる庭から外に出られるかもしれない。
廊下を駆け抜けた私達はどうにかこうにか女神の間に辿り着き、中に入ってから鍵をかけた。
ここはローズ邸と同じで祝福に包まれ守られている。
少しの時間稼ぎにはなるだろう。
私も息を切らしているが、アルフレッド様はそれ以上に辛そうに見える。
私はアルフレッド様を両手で抱きかかえて耳元で小さく歌を歌った。
「あなたは強い子、元気になるわ、痛いの痛いの飛んでいけ」
母親が病気の子供に聞かせるおまじないのような歌だ。
でもこの部屋で祝福をのせるとそれなりの効果が発揮される。
アルフレッド様の顔色が少し良くなり呼吸が柔らかくなった。
「アナベル嬢、ありがとうございます。
鳥に祝福をのせて限界が来て気を失っていたところをデュランに無理やり起こされて走ってきたものですから、情けない。」
アルフレッド様はそう言って照れくさそうに私に頭を下げた。
「少しでも回復されたのなら何よりです。良く無事でいてくださいました。」
「僕も驚きました。なぜあの独房の場所をわかったんだ?」
アルフレッド様の問いにマリーが首を傾げながら答える。
「アナベル嬢が部屋を出てすぐローズ様の使いの方がいらっしゃって案内してくださったのです。それはもう全て仕組まれたようなタイミングで驚きました。」
お祖母様は皆の無事を確認して少しだけ目尻に皺を寄せた。
「王宮にはジェンダー家並の数の人間を送り込んでいますから、王宮の中の方が外にいるより色々と動きやすいのですよ。
ここにくる前にアルフレッド様のご両親とお会いしたのでこちらで勝手に手筈を整えました。
ご両親はこちらには来ておらず、国を出るための準備を進めてもらっています。」
「ここから出られるでしょうか?」
「私とアナとアルフレッド様の祝福を重ねればどうにかなると思います。
ただ…御神体を置いていくのは可哀想で…
私達がいなくなると寂しがられると思うのです。」
「一緒に来ていただきましょう。この国にはもう不要と先ほど言われたばかりですもの。文句はないと思いますわ。」
「そうね。私も直接御神体を見たことはないから、運び出すなんて恐れ多い気がしてしまって…」
珍しくお祖母様が躊躇う姿を見て私は両手でお祖母様の手を握った。
「女神様は慈悲深い方ですもの。きっと許してくださいます。」
私はお祖母様と頷き合いながら部屋の奥にある低い階段を上り、その一番上の小さな扉に手をかけた。




