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デュランに相談して3日もしないうちにプロムのパートナーが決まった。

僕があれだけ頑張ってもダメだったのに、デュランに任せた途端スムーズに事が運んだ。


相手はジェンダー公爵家の令嬢でひとつ年上のアナベル嬢だ。

公爵家同士だし去年まで同じ学園にいたので面識はあるが、学年が違うため交流を持ったことはない。

背は高く細身で、銀髪にグレーの瞳。色は抜けるように白く雪の妖精のようだとクラスメイトが噂しているのを聞いたことがあった。

確かに美人だが、整いすぎていて近寄りがたい雰囲気がある。


それにしても、と学内にしか目を向けていなかった自分の視野の狭さになんともいえない気持ちになり壁に頭を打ち付けたくなる。

やっぱりまだまだだな、とデュランの見ていないところで僕はこっそり唇を噛んだ。


「こういうのは誰も文句を言えない相手にしないとダメなんだよ。」とデュランは言っていたが、誰が誰に文句を言うというのだ。

デュランは時々意味不明だが、パートナーを引き受けてくれたアナベル嬢に恥をかかせるようなことだけはないようにしなくてはと思う。


デュランにパートナーが決まったと聞かされた翌日、僕とアナベル嬢は学園近くのカフェレモーネで顔合わせをすることになった。

カフェレモーネは白を貴重に黄色の差し色を配色した可愛らしい内装で、広さもあり個室もいくつか用意されている。

学園の生徒はよくこちらの店を利用しており、レモンやオレンジなどの柑橘類を使用したスイーツに定評があることから、特に女子に人気がある。

僕とデュランはカフェレモーネの個室を予約して、約束の時間よりも少し早めに店に入りアナベル嬢の到着を待った。


テーブルの上に飾られた黄色いチューリップの花を眺めながら、デュランといつものように他愛もない話をしていると、店員が「お連れ様がいらっしゃいました」とアナベル嬢と侍女を案内してきた。


「お待たせしてしまったかしら。」


「いいえ、僕が早くに着いてしまっただけですから。」


僕は素早く立ち上がって、アナベル嬢の白く小さな手を取り椅子に座らせた。

学園を卒業してからは会うこともなかったので1年ぶりくらいになるが、アナベル嬢は相変わらず美しく、輝くような銀色の美しい髪を背中に流して、グレーの瞳を面白そうに細めた。


「こちらは私の侍女で乳姉妹のシェリルといいますの。ご一緒させて頂いてもよろしい?」


「もちろんです。僕も従者と一緒ですので。乳兄弟でデュランと申します。シェリル嬢、どうぞ。」


僕は慌ててシェリル嬢にも手を差し出した。


僕達高位の貴族は1人で出歩くことはまずなく、常に護衛をかねた侍女や従者を連れている。

時と場合によっては数人の護衛も含めてちょっとした団体のようになることもままあり、彼女が侍女を連れてきたのはいたって普通のことだ。

とはいえ侍女や従者は主人の後ろに立ち、居ないものとして扱う事が多い。

わざわざ侍女を紹介したというのは、侍女としてではなくシェリル嬢個人として同席を求められたと言うことなのだが、これは珍しい事だ。


僕にとってデュランは大好きなマリーの息子で大切な幼馴染であるので、僕達の関係性は主従という感じではないのだが、一般の高位貴族はもう少しきっちりとした線引きをして使用人に接することが多いのだ。


シェリル嬢は手を取る前に軽くだがとても綺麗な礼をしてにっこり微笑んだ。


「シェリルと申します。以後お見知り置きを。」


背が高くほっそりしたアナベル嬢と対照的な小柄でややふくよかなシェリル嬢は焦げ茶色の髪の毛に薄い金色の瞳で顔立ちも可愛らしいが目を引くほどではない。

しかし鈴のような声は耳に心地よく佇まいや仕草は丁寧でとても美しいものだ。

シェリル嬢は僕の手を取り席に着くと、アナベル嬢と顔を見合わせて微笑みあっている。


2人の様子にアナベル嬢とシェリル嬢の為人が垣間見えて僕はすぐに2人に好感を持った。

普通ではないことだが4人一緒に席につき紅茶とケーキのセットを注文する。


「シェリー、何にする?私オレンジのタルトかレモンのムースのどちらかで迷うわ。」


「アナ様、私がレモンのムースを頼みますから、アナ様はオレンジのタルトを頼まれては?そうしたら2つとも食べることができますよ。」


「それでいいの?シェリーが食べたいものはないの?」


「私が食べたいものがレモンのムースなのです。」


「まあ、ふふ。嬉しいわ。」


2人が和やかな様子でメニューを覗きこんでいるのはとても微笑ましい。

これならばプロムのパートナーとして良い関係が築けそうだ。


僕はガトーショコラ、デュランはグレープフルーツゼリーを注文した。


程なく運ばれてきた紅茶に口をつけてから、僕はアナベル嬢に深く頭を下げた。


「アナベル嬢、この度は急な申し入れを受けていただきありがとうございました。」


「とんでもございませんわ。アルフレッド様のプロムのパートナーなんて光栄です。学園の女の子達は卒業生の私にアルフレッド様を奪われたと大層悔しがっているのではないかしら。」


「いえいえ、パートナーが全然決まらず本当に困っていたのです。僕のような者の相手を務めさせてしまいシェリル嬢には大変申し訳ないのですが、ご迷惑をおかけすることだけはないように務めますのでどうぞよろしくお願いいまします。」


「まあ、本当に聞いていた通りだわ。ご自身の事をわかってらっしゃらないのね。アルフレッド様のパートナーを迷惑と思う女性なんてそうそうおりませんことよ?わたくし、この話を聞いて嬉しくて飛び上がってしまったわ。」


アナベル嬢は心優しい女性のようで、僕に対しても細やかなフォローをしてくれる。

整いすぎて近寄り難いと思っていた顔は表情をコロコロ変えて、ハキハキと話す彼女に冷たい印象は一瞬で消え去った。


「ところでアナベル嬢とデュランはどういった繋がりがあったのですか?」


さすがのデュランも全く伝のない相手に声はかけないだろうが、アナベル嬢との接点は思い浮かばない。首を傾げていると、デュランがゼリーを掬っていたスプーンをペロリと舐めてから僕の方に向けた。


「そう言うところだよ?アル、シェリー嬢に会ったことあるからね?」


「えっ!学園でか?」


「まあ、学園でもすれ違ったりはしてたと思うけどさ。シェリー嬢、うちの兄貴の婚約者だから。去年の感謝祭の時に公爵家に2人で挨拶に来てたの覚えてないかなー?」


「!!」


確かに去年デュランの兄キースが婚約をして、感謝祭の時に挨拶に来ていたのは覚えている。

あの時はマリーが母親の顔で嬉しそうに2人と話していたのだが、正直マリーしか見ていなかったし、プロポーズのことで頭がいっぱいだった。

そもそも父とマリーが目的で、僕に会いにきたわけではないので、挨拶をしたくらいだろう。覚えてないけど。


「し、失礼な事を…」


「いえいえ、お気になさらないでください。私、印象に残るタイプではありませんもの。キースも私もアナ様やアルフレッド様のように人目を引く容姿ではないですから。」


シェリル嬢は悪戯っぽく笑い、アナベル嬢は隣で小さくぷはっと吹き出した。


「シェリーは可愛いけど、アルフレッド様ですもの、仕方ないわよ。」


2人はまた目を合わせて笑い合っていて、デュランは呆れ顔で残りのゼリーを食べ始めた。

背中に汗が伝うのを感じる。

こんな失礼な人間の相手はできないと席を立たれても仕方がなかったのだ。

アナベル嬢とシェリー嬢の心の広さに救われたが、次はないようにしなくては。


「そういう訳では…本当に失礼しました。」


「人間関係の構築も仕事の一環だからね。アルはこれから気をつけてよね。」


デュランの言う通りだ。

言い返す言葉もなくて僕はがっくりと肩を落とした。






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