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翌朝目が覚めるとそれなりに身体は回復していた。
食べて寝れば元に戻るのは若さの特権だ。
僕はベッドから体を起こし腕を伸ばして肩を回した。
今は何時くらいなのだろうか。
部屋に時計はないし、小さな窓からは太陽も確認できない。
朝食が用意されていないところを見るとまだ早い時間なのだろう。
体を起こし軽く動かしていると階段を上がってくる靴音が聞こえた。
メイドが朝食を持ってきたのかと思ったが、靴音は複数あるし、どうやらちがうようだ。
格子扉の方を見つめて息を潜めていると、そこに現れたのは2人の騎士を連れた美丈夫だった。
その人こそ、昨日王にジェンダー家廃絶を強く主張していたこの国の王太子である第一王子殿下だった。
この国の王家は代々黒い髪と金の目を持って生まれてくる。
しかし現王の一粒種である王太子殿下は全ての色素を母親の腹の中に置いてきてしまったと言われるほど色素の薄い赤ん坊だったらしい。
唯一の王家との繋がりは右目にだけ現れている金色の瞳のみ。
当初そんな王太子殿下に対する風当たりは強かったものの、文武両道で眉目秀麗でもあった王太子殿下は成人するや否やどんどん味方を増やしていき、現在の地位を確固たるものにしたと聞いている。
髪もまつ毛も肌も雪のように白く、左目と唇には血の色を写し、金色の右目は長いまつ毛の下でイエローダイヤモンドのように光をゆらめかせている。
男ですら見惚れるほどの美しさだ。
一呼吸置いたところで我に返った僕は慌てて膝をついて礼をとった。
王太子殿下は騎士を下がらせ、格子扉の向こうにただ1人立ち僕に相対した。
「良い。ボーデン家のアルフレッドだな。単刀直入に聞くが、お前ジェンダー家の秘密について知っているだろう?」
「…!何のことでございましょうか。」
「惚けるな。お前たちの動きを見てそれ以外考えられるか。しかし調べても王弟との繋がりは全くみられなかった。何を企んでいる。」
「企など…私はただアナベル嬢と友人となった縁でローズ様に目をかけて頂いているだけでございます。」
「は!まだ言うか!ローズ殿があの邸にいくらアナベル嬢の友人だからと何度も招くはずなかろう。
父はお前がローズ殿に取り入ったと考えているようだが、ローズ殿はそのようなタマではないからな。恐らくお前をローズ殿が取り込んだのだろう。
もう一度聞く。お前達は何を企んでいるのだ。ローズ殿はお前に何を話した。」
王太子殿下は腕を組み指でその腕をトントンと叩きながら僕を睨みつけた。
「私達は何も企んでなどおりません。
王も私とジェンダー家の繋がりを大変気に掛けていらっしゃいました。
ジェンダー家がそのように重要な存在ならば、王家が取り込めば良かったではないですか。中途半端に放置して近付くものがあれば牽制をするなど私には理解しかねます。」
尊大な態度と決めつけたような物言いに少しイラついて思わず反論すると、王太子殿下はこれ見よがしにため息をついた。
「お前は馬鹿か?私達王族の死因で1番多いものはが何か知っているか?
事故や病気を除けば殆どは身内からの暗殺だよ。
皮肉な事に私達にとっては血の繋がった身内が1番の敵なのだ。
その身内にあんな力を持ったものを引き入れてみろ。
混乱するのが目に見えているではないか。
王家だけではない。
あの家がそれなりに権力を持った貴族と繋がる事は私達にとって懸念事項にしかならない。
だから早くあの家を潰すべきだと何度も申し上げたのに、父上は女神だか何だか知らんが目に見えない存在を信じ切って動かない。
これまでは弱小貴族や商家としか繋がろうとはしていなかったから見逃していたが、ボーデン家は流石にこちらとしても動かざるを得ない。」
「家を潰すなど!彼女達は何もしていないではないですか!私達ボーデン家とて二心など持っておりません!」
「何をしているしていないではなく、力があるかないかが問題なのだ。その存在がある限り火種になりうるし、血族から力が出る可能性があるのならばあの家を残しているうちは懸念は消えない。
私は以前よりこの主張を変えていないし、ローズ殿もご存知だろう。
それ故にお前を取り込んでどうにかしようと考えたのではないか?」
「…王太子殿下は私に何を仰りたいのですか?」
「これ以上あの2人に関わるな。
ボーデン家の力で私の邪魔をしようとするな。
そうすれば祝福を知っているだけのお前を消そうとは思わない。
ジェンダー家の祝福を利用して何かを企めば真っ先にお前を殺す。
ここに話に来たのは私の慈悲だ。
お前が優秀だという噂は聞いている。
将来はこの国のために励め。」
王太子殿下は言いたいことを言ってこちらの返事を聞く事なく去って行った。
2人に関わらない事で2人の身が守れるならばそうしよう。
しかし2人に関わらずジェンダー家が抹殺されて行くのをただみていろと言うならそんな事出来るわけないじゃないか。
しかし昨日と今日の王太子殿下の話を聞く限りでは、王太子殿下は王としての素質をお持ちなのは間違いない。
頭は回るし、行動力もある。
言っている事だってあながち間違いではないのだ。
少々気が短いようには見えるが、王太子殿下こそ味方にしたい気がする。
現王が実権を握っているうちは大丈夫だとしても、今のままでは王太子殿下が王になればジェンダー家はどのみち潰されてしまう。
ここまでの情報を整理するため、僕はペンを持ち便箋に書き込んでいった。
①王弟は昔から王位簒奪を企んでいて、アナベル嬢とローズ様の力を利用しようとしている。近々本格的に動くと思われる。
②王は少々日和見主義で王弟もジェンダー家も守りたい。
③王太子殿下はどちらも排除したい。排除するためにこれまでも何かしらの行動はとっている様子だ。
ジェンダー家が権力のある者と繋がりを持つのを嫌がっている。
話をするなら王太子殿下だが、ローズ様の意見も聞きたい。
しかしローズ様とボーデン家の接触は王太子殿下の逆鱗に触れそうだな。
昨日の手紙で2人の保護を頼んでしまっている。
急いでデュランに伝えなくては。
僕はペンを置き再びソファに身を預けた。




