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連れて行かれたのは王宮の奥にある小さな部屋だった。装飾も何もなくただ一段高い場所に豪華な椅子が一脚置かれている。

僕は身体を改められて持ち物をチェックされた後、その椅子に向かい合った形で膝をついて礼をとるように言われ、そのようにした。


部屋まで迎えに来たのは例の騎士1人であったが、塔の下にはさらに2人の騎士が待機しており、3人に囲まれて王宮に入ったところで騎士の数は5人になった。

この部屋についてからも僕の後ろには5人の騎士が並んで立っておりかなり物々しい雰囲気になっている。

僕はひたすら自分自身に冷静になれと言い聞かせながら頭を垂れて拳を握っていた。


少しすると部屋の扉が開かれ誰かが入ってきた。後ろの騎士たちが一斉に動いた気配がしたので、王が入ってきて騎士たちが礼をしたのだろう。

皆、微動だにせず王の言葉を待つ。


「頭をあげよ。」


王が重々しく発したのを受けて、僕は膝をついたまま顔をあげた。

式典などで遠くから見たことはあったが、近くで見ると為政者故の迫力がすごい。

艶々とした黒い髪に黒い髭、ギラギラ光る金色の目は猛禽類を思わせるもので、精気が漲っている。

がっしりとした体つきは騎士に見劣りしないほどであるし、52歳と聞いていたが5歳も10歳も若く見える。


椅子に座った王はこちらを見据えながら、ゆったりとした姿勢でわざとらしい笑みを浮かべた。


「ボーデン家のアルフレッドだな?此度は急な呼び出しに驚いたであろう。すまなかったな。」


「滅相もございません。」


視線を下げてさらに深く腰を折る。

何も言うな、デュランにもローズ様にも言われた言葉を胸に刻む。

王はわざとらしくひとつ咳をしてから話を続けた。


「実はな、我が王家とジェンダー家には深い繋がりがあって…

いや、他の貴族家とももちろん深いつながりはあるのだが、ジェンダー家には王家の宝物をひとつ預かってもらっておるのだ。

先日その宝物が盗まれたと報告が上がってな。

調べたところ、宝物を保管していたのはローズの邸でそこにお主が度々出入りをしていたと言う証言を得たのだ。

あの宝物は王家にとっても重要な物であるから、今その行方を必死になって探しているところなのだ。」


「左様でございましたか。」


「うむ。お主、何か聞いたり見たりしたものはないか?」


「申し訳ございませんが、その様な話を聞いたこともそれらしき物を見たこともございません。」


「そうか。では尋ねるが、お主はなぜローズ邸に出入りをしておったのだ?」


「はい。先日の卒業プロムでアナベル嬢と交流を持つ機会がありまして、そのご縁でローズ様の邸に伺いご挨拶をさせて頂きました。

アナベル嬢はローズ様を大変お慕いしていらっしゃいますので、それ以降アナベル嬢と共にローズ様の邸でお茶をいただく事がございました。」


「それだけか?」


「それだけでございます。」


「お主とアナベル嬢はどのような関係なのだ。」


「良き友人にございます。」


「婚約などは?」


「そのような話は出ておりません。」


「ジェンダー家は特殊な存在であってな。婚姻は王家が認めた相手ではないと成すことができぬのだ。それは知っておったか?」


「存じ上げません。」


「そうか…。」


王は何か考えるように髭を撫でながら足を組んだ。


「疑っているわけではないのだが、宝物が見つかるまで其方を解放するわけにはいかぬのだ。

不便の無いように計らうゆえしばらくあの塔に留まるように。」


「承知いたしました。」


下げた頭の向こうで王が去って行く気配を感じながら僕は頭の中で考えを巡らせていた。


おそらく宝物が盗まれたと言うのは方便だろう。

そして僕に祝福があることは全く想像もしていなさそうだ。

どこからか秘密を知った僕が祝福を持つアナベル嬢とローズ様に近付いて、その力を使って何か問題を起こすかもしれないとでも考えたのか。

しかし僕が2人の力を知っているかどうかも把握できていないから、あのような嘘を持ってあのような聞き方しかできなかったのか。

もし僕が本当に何も知らなかったなら余計な情報を与えることになってしまうものな。


最悪の事態では無かった。

しかし宝物云々の話を騎士の前でもっともらしくしていたのが気になる。

もしかすると、宝物を紛失した罪なり罰なりをジェンダー家に押し付けて家を潰すつもりなのかもしれない。


そうなると僕はただ大人しく口を噤んで塔にいればそのうち解放されるかもしれないが、アナベル嬢とローズ様の身には危険が迫っていると言うことにならないか?

それを全て見通した上でローズ様は僕に『何も言うな、自分も動く』と言伝したのか。


僕は2人に危険が迫っているならば素知らぬふりなんてする気はない。蚊帳の外なんて真っ平御免だ。


ひたすら頭を働かせていると、背後から騎士に声をかけられて腕を引かれた。


「では、塔までお送りいたします。」


言葉遣いは丁寧だが、やはり扱いは罪人へのそれで、塔の部屋には鎖も鍵も付けられた。

幸い部屋の前には監視はいない。

夕食の時間まで人が来ることもないだろう。

僕は机に座りペンを取った。

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