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マリーに14度目のプロポーズを断られた次の日から、僕は学園でプロムのパートナーを探すことにした。
クラスメート達とは普通に仲良くしていたつもりだが、プロムのパートナーとなると話は違うようで、なかなか相手は見つからない。
「キャサリン嬢、プロムは誰かともう約束はされていますか?」
「い、いえ、いえいえいえ、いえいえいえいえ、失礼します!」
「ユリア嬢、プロムは…」
「ヒッ!め、め、めめめめめめっそうもございません!」
一応下調べをして相手がいないらしい令嬢に声をかけるも、皆引き攣った表情で去っていってしまう。
なんなら誘う前に断られる始末だ。
仲良くしていたと思っていたのは自分だけで実は嫌われていたのかもしれない。
こんなに人望がない自分に次期公爵など務まるのだろうか。
暗い気持ちで家に帰りベッドに横になる。
少し落ち込んでしまったのか、いつもより身体が重たく感じて食欲も出ない。
「坊ちゃん、具合でも悪いのですか?」
こんな時に真っ先に気が付いてくれるのはやはりマリーだ。
「マリー、大丈夫だよ。なかなかプロムのパートナーが見つからなくて少し疲れただけなんだ。」
「まあ。きっと坊ちゃんがあまりに素敵だからお嬢さん方は皆さん照れてしまわれるのね。
こんな時の為にデュランがいるのですから、もし坊ちゃんがお嫌でなければ、あの子に紹介してもらうのが良いのではないかしら。」
「そうだね。こんな事でデュランの手を煩わせるのは申し訳ないと思っていたのだけど、情けないことに僕ひとりではどうにも力不足な物だから。」
「坊ちゃんは相変わらずお優しいですね。そして、何事も自分の力で取り組もうと努力する姿勢はとてもご立派です。
でも今回のことに限らず、ひとりで出来ることには限りがありますから、誰かに頼るというのも時として必要な場合もありますよ。
坊ちゃんの頑張り屋さんなところは長所でもあるし欠点でもありますね。」
マリーは、ふふ、と優しく笑ってチョコレートを一粒渡してくれた。
「疲れた時には甘い物と相場が決まっていますから。」
マリーは子供の頃から僕が泣いていたり落ち込んでいたりするとチョコレートを一粒食べさせてくれた。
甘いミルクと苦いカカオの風味が舌の上に広がって消える頃には僕の心はいつも少しだけ軽くなっていた。
家庭教師に怒られた時も、デュランと喧嘩した時も、木の上に登って降りられなくなった時も、誕生日に両親が仕事で帰ってこなかった時も、そして、夢を諦めたあの日も。
少しだけ元気になった僕は早速デュランの元へと向かった。
「デュラン、ちょっといいかな?」
「おう!アル!どうしたんだよ。」
「プロムのパートナーがなかなか見つからなくて困ってるんだ。誰か紹介してもらえると有難いのだが。」
「あー…だろうねぇ。ちょっと探してみるけど、誰でもいいの?好きなタイプとかないの?」
「好きなタイプはマリーだ。プロムの相手は誰でもいい。」
「了解〜。」
「ところでさっき、だろうねって言ったよな?
デュランは僕が、きっ、嫌われているのに気がついていたのか?」
なるべく平気な顔でさりげなく聞こうとしたのに噛んでしまった。
こういうところが僕の情けないところだ。
「アルは全然嫌われてないよ。むしろすごい好かれてるから。ただ、まあ、なんていうか…みんな色々事情があるからさ。パートナー選びって難しいんだよ。
なに、落ち込んでたの?」
デュランはふざけた様子で僕の肩を抱いて顔を覗き込みながらニヤリと笑った。
表情は全く違うがブルーの目とその奥の優しい光はマリーとデュランはそっくりだ。
「そ、そうか…
別に落ち込むというほどでは…
では面倒をかけてすまないが、よろしく頼む。」
マリーもデュランも僕の気持ちを浮上させるのが本当にうまい。
2人にはいつまでたっても敵わない。
2人ともいつまで僕のそばにいてくれるのだろうか。
僕が努力して立派な公爵になることが出来れば、いつまでも一緒にいてくれるだろうか。
自分でも子供のようだと思うが、いつもそんな気持ちが僕の胸を締め付ける。
僕は失う事が怖いのだ。