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両親との夕食の後、僕は今後の人生について考えを巡らせていた。
僕が公爵家を継ぐことになったならば領地経営の他に政治の中枢に関わる必要が出てくる。
僕の希望としては大切な人達と穏やかな日々を送る事ができればそれで満足で今以上に権力や財を得たいとは思わない。
まだ両親の庇護の元、責任のない立場だからそう思うのかもしれないが…
もし自分が国を動かす権力の一端を担い、守るべき存在が増えたならば、欲が出て来る事があるのだろうか。
想像しようとしてもこれっぽっちも浮かんでこない。
やはり僕はたまにこっそり絵を描いて、祝福の存在を隠しながら領地でデュランやマリーと過ごす事が1番の幸せのように感じられる。
余計な揉め事に巻き込まれないためにも目立たず、言われた仕事のみを淡々とこなしていれば、才がないと見なされて放って置いてもらえるだろうか。
これまで懸命に剣にも学問にも取り組んできたのに少し残念な気もするし、父上が出来の悪い息子を持ったと周囲に貶まれる事を考えると申し訳ない気もするが、ずっと先の未来まで見据えた時、僕が目を付けられない事がボーデン家を守る事に繋がるはずだ。
そして、今まで考えが至らなかったが、アナベル嬢に対して両親が勘違いするのももっともだと思う。
ローズ邸にはお忍びで行っていたが、アナベル嬢はただ遊びに来るという体でうちに通ってもらっていた。
年頃の男女が定期的に会っているのだから、側から見れば付き合っていると思われても仕方がないだろう。
僕はいいとして、アナベル嬢には悪いことをしてしまった。
少し2人との付き合い方も考えなければならないかもしれない。
そうは思うが、僕にとって同じ能力を持つ2人は今や何物にも変え難い大切な存在となりつつある。
どうしたら良いだろうか。
そんな事を頭の隅で考えながら僕は眠りについた。
翌朝、まだ起き上がる気にならずベッドの中で微睡んでいると、マリーとデュランが慌てたように僕の部屋へ入ってきた。
デュランならいざ知らず、普段なら僕がドアを開けるまで決して部屋へは入ってこないマリーの行動に驚いて一瞬で目が覚める。
マリーが少し青ざめて震えているのを見てこれはただ事ではないと慌てて身体を起こして2人に向き直ると、マリーは両手を胸の前で組んで強く拳を握りしめながら僕に視線を合わせた。
「坊ちゃん、大変でございます。王宮からの使者が見えられて…」
マリーがどう伝えるのが良いか迷った様子で言い淀むと、デュランが後を継いだ。
「たぶん、穏やかな奴じゃない。衛兵が来てる。もしかしたらお前の力がバレたのかもしれない。」
祝福についてバレたかもしれない?
そう考えると一気に血の気が引いて指先が冷たくなるのを感じる。
暑くもないのに背中を汗が伝って落ちる。
どこで?
ローズ邸に通っているのが見つかったのか?
王家の情報収集能力を侮っていたのかもしれない。
それともアナベル嬢かローズ様のどちらかに何かがあって僕にたどり着いたのだろうか。
呆然とする僕の肩をデュランが両手で掴み軽く揺さぶった。
「しっかりしろ、アル。まだわからない。でも用心に越したことはない。とにかく気をつけろ。絶対に迂闊なことを言うな。するな。お前1人で王宮に来るようにとのお達しだ。俺はついていけない。」
悔しそうに顔を歪めて吐き捨てるようにそう言ったアルに向かって僕は小さく頷いた。
「わかった。すぐ支度をする。」
安心させるために笑顔を作ろうとしたが、顔が強張って逆に泣きそうな顔になってしまったかもしれない。
アルは眉間に深く皺を寄せ一度ギュッと目を瞑ってからもう一度僕を揺さぶった。
「何かあったら絶対に助けに行く。何があってもお前の事は俺たちが守る。必ずだ。」
横ではマリーがデュランの言葉を肯定するように、目に強い光を浮かべて僕を見つめている。
僕は徐に立ち上がって机の引き出しから一枚の絵を取り出した。
昨日アナベル嬢に見てもらいながら描いた絵だ。
その絵はハガキ2枚分程の大きさで、金色の麦の穂が風に靡いており、その金色の海を1人の男と白い犬が泳ぐように歩く絵だ。
「アルフレッド様の祝福の力は絵に宿りますから、私の音楽やお祖母様の料理のように消えてしまう事がないと思うんです。
実際に私は以前、アルフレッド様が過去に描かれた絵から祝福を感じましたから。
一度のせた祝福がずっと続くのであれば、アルフレッド様の描いた絵には様々な可能性があるはずです。」
アナベル嬢にそう言われて、今の僕に出来る限りの調整をしながら祝福をのせた絵だった。
その絵にのせた祝福は『護り』と『絆』。
それが発現できるかは微妙なところだが、もしもの時に少しでも2人の役に立てばとデュランに手渡す。
「これを。お守りだと思ってなるべくずっと持っていて欲しい。すぐに支度をするから、下で待っていてくれ。」
2人が部屋から出ていくのを見送ってから僕は急いで身支度を整えた。




