26
ローズ邸から帰るとすでに日も暮れていたが、珍しく領地から戻ってきた両親に誘われ3人で夕食をとることになった。
最近色々な事がありすぎたので、両親と食事をするのは楽しみだ。
急いで食堂に向かうとすでに2人は席に着いていてメイドが前菜を用意しているところだった。
「アル、久しぶりね。元気にしてた?」
母上が嬉しそうに目を細めて僕に向かって小さく手を振った。
母上は見た目も若々しいが仕草や言動も幼いところがある。
しかしその変わらない仕草に今は嬉しくなり僕も席につきながら微笑み返す。
「父上、母上、お久しぶりです。お二人ともお変わりないようで安心しました。」
サラダが並べられたところで、父上は落ち着かない様子で顎を触りながらゴホンと空咳をした。
「アル、早速だがお前、ジェンダー家のアナベル嬢と、その、懇意にしているのか?」
「まあ!あなた!早速過ぎますわ!こういう話はゆっくり聞かないとアルだって照れてしまうじゃない!」
そう言いながらも2人とも期待に満ちてギラついた目で僕をじっと見ている。
「…」
突然のことに言葉を失いポカンとしていると畳み掛けるように2人が話し始めた。
「アナベル嬢が頻繁にこの屋敷に訪れていると聞いたわよ!やっぱりプロムがきっかけでお付き合いしているの?」
「アルもアナベル嬢もちょうどいい年だし、やはり結婚を前提にしているのだろうな?婚約は早めにした方がいいのではないか?」
「いつまでもマリーと結婚すると言っているものだから心配していたけれど、ようやくアルも大人になったのねぇ。」
「アナベル嬢は兄がいるから嫁に来てもらうのは問題ないだろう?先方へのご挨拶もあるし、まずは私達に紹介しなさい。」
黙っていると話がどんどん進んでいく。
「ま、待って下さい!僕たちはそのような関係じゃありません!!」
僕が慌てて口を挟むと、今度は2人がポカンとした表情を浮かべた。
「じゃあどういう関係なのだ。」
「その、良い友人、です。」
そういうと今度は2人揃ってしたり顔でニヤリと笑った。
「そうか、良い友人、なのだな。」
「良い友人、なのね。」
絶対に何か勘違いをしているに違いないが余計なことを言うと話が拗れるのがわかっている。
2人の顔を見ていられなくて僕はがっくりと項垂れたが、それに対してすらも2人から嬉しそうな気配を感じる。
僕は聞こえよがしにため息をついてサラダをつついた。
「勘違いなさらないで下さいね。」
一応釘を刺したが、2人の表情は変わることはなく「大丈夫」と返事が返ってきた。
絶対に大丈夫じゃない。
「そういえば、ジェンダー家とボーデン家は同じ公爵家ですが、父上は交流を持たれていらっしゃるんですか?僕は最近までアナベル嬢と会話をしたことすらなかったものですから。」
「そうだな。国の重要な式典などでお会いして話すことはあるが、親しいというほどではない。
そもそもジェンダー家は特殊なのだ。領地経営はしているが、政治の中枢に一族は関わっていないし、他家との交流も積極的には行っていない。少々謎めいた家というのが共通の認識だな。実は王家の傍流だとか、陰の仕事をしているとか色々な噂はあるが、気にすることはない。私達は受け入れる覚悟はあるぞ。」
「…いや、そうではなくて…」
勘違いが補強されてしまったようだが、外部から見たジェンダー家についての印象をどうしても聞いておきたかった。
以前ジェンダー家を排除しようとする動きがあると聞いた事が引っかかっていたのだ。
公爵家という立場はそれなりに大きい。
1人2人なら暗殺でも良いだろうが、家門をとなると、少しずつ周りの評価を落としたのち何かしらの罪を被せらせる方法を取る可能性が高い。
今の父上の話しぶりからすると、ジェンダー家の立場が脅かされている様子はないから、すぐに何か問題が起きることはなさそうだ。
僕にとってアナベル嬢とローズ様はすでに大切な存在になってしまっている。
愛とか恋とかではないけれど、できる限り守りたいし、いつまでも良い関係を続けていきたいと思う。
「そういえばアル、来週王宮で開かれる舞踏会にお前も出席しなさい。学園も卒業した事だし皆にそろそろ顔を覚えてもらわなくてはな。」
「舞踏会ですか。かしこまりました。」
「アナベル嬢にパートナーをお願いするのよ?」
「それはちょっと…」
「まあ、なぜ?」
「アナベル嬢は兄上が大層過保護だそうで舞踏会にはほとんど参加させてもらえないと以前おっしゃっていました。」
「まあああ!そんな中アルの卒業プロムは出てくださったのね!」
母上が感激したように両手で口元を抑える。
そう、あの卒業プロムはローズ様に協力していただき監視の目を掻い潜って参加してもらったのだった。
その後は女神の祝福絡みの問題があったため、きちんとお礼をするのを忘れていた。
ジェンダー家の絶対権力者であるローズ様の鶴の一声でアナベル嬢は僕の指導をしてくれることになったが、それ以外の外出や舞踏会などはおそらく不可能だろう。
改めてそう思うと何だか少し残念なような寂しいような気持ちが一瞬胸を掠めた。




