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アルの話を聞いて俺は膝から崩れ落ちそうになった。

こんなにずっと一緒にいたのに、俺は何も知らなかったんだ。

その事実に打ちのめされそうになる。


確かに昔は、アルはよく絵を描いていたし画家になると話していたのも覚えている。

でも気がつくとアルが絵を描くことはなくなり、勉強や剣に精を出すようになっていた。

俺は単にアルが領主になることを意識するようになったからだと思っていた。

絵を描くことは子供の趣味だったのだと。


たまに暗い表情をする事もあったけど、そりゃあ人間なんだから辛い事だってあるし悩む事だってあるだろうと深く踏み込んだことはなかった。


まさかアルにそんな事が起きていたなんて。

絵を描く事がアルの真ん中にある大切な事だったなんて。

それを手放したアルはどれだけ悩み、迷い、戸惑っただろう。

俺は自分の観察力の無さに絶望して自分を殴ってやりたくなった。


そんな俺の様子に気が付いたのだろう。アルは柔らかく微笑み、俺に言い含めるように話しかけた。


「デュラン。デュランが居てくれて本当に助かったんだ。デュランが何も知らないからこそ、その態度や言葉を素直に受け止める事ができたし、ずっと救われてきたんだ。

もしデュランが僕の祝福を知ってしまっていたら、お前の言葉は同情や憐れみなのだと穿って受け取ってしまっていたかもしれない。」


俺は俯いて唇を噛み締めた。

そんなはずあるわけない。

アルは自分で思うよりもずっと優しい。

そして強い。1人で全てを受け入れてしまえるほどに。

だけどそんなアルが全てを打ち明けてくれたんだ。

今度こそ、アルのことは俺が守ろう。

俺はそう決意を新たにして顔をあげた。


目を合わせてニヤリと笑い合うと、そこにはもういつもの雰囲気が戻っていた。


「それにしても女神の祝福も御使とやらも初めて聞くことばかりで急には理解できませんわね。

ただ、坊ちゃんに危険があると言うならば話は別です。坊ちゃんが幸せに暮らせるようにするのがマリーの役目でございますから、そのためにはどんなことでもいたしましょう。」


母さんも珍しく厳しい表情になって祈るように両手を組み合わせている。


「俺だって何だってやるさ。でも正直何をすればいいのかわからない。どうしたらいいんだ?」


「何もしないしどうもしないよ。僕もわからない事だらけだし、まだ混乱してるんだ。焦らずにひとつずつ確かめていくしかないと思う。」


「旦那様や奥様には話さないのか?」


「父上や母上は立場もあるし、今話しても王家と僕の間で板挟みになってしまうと思うんだ。いつかは話すかもしれないけれど、今打ち明ける気はない。」


「坊ちゃん、奥様も旦那様もどんな事があっても坊ちゃんの味方ですよ。たとえ王家に逆らうことになっても坊ちゃんをお守りくださるはずです。」


「わかってるよ、マリー。だからこそなんだ。せめてもう少しはっきりしてからでないと。」


「余計な事を申しました。」


「いや、ありがとう。」


僕達は夜が更けるまで話し続けた。

それは今回の問題についてだけではなく、子供の頃の出来事や、噂話、今年のワインの出来についてなどあちらこちらに飛び回った。


笑ったり、怒ったり、切なくなったりしながら、俺は何か心の中に暖かい光が灯ったような気がしていた。


「もうこんな時間…夕食を摂るのを忘れておりましたわね。2人ともお腹がすいたでしょう。」


母さんが言うまで忘れていた空腹感が思い出した途端に主張しだして腹が鳴った。


「確かに。すっかり忘れていた。今から何か用意してもらうのも申し訳ないな…」


アルが言うと、「私が何か作ってまいりますわ。」と母さんが部屋を出て行った。


2人きりになると、俺はアルに向かって頭を下げた。


「アル、本当に何も気が付かずすまなかった。」


「その話はもう終わっただろう。もしデュランがそこまで繊細な性格だったら今回の話も内緒にしてたよ。」


「全部話せとは言わない。ただ、抱え込むな。何があっても俺はお前を守る。守らせて欲しい。」


俺の正直な気持ちを伝えると、アルは少し照れくさそうな顔をした。


「ありがとう…うん。ありがとう。」


「ところで明後日、ローズ様の邸に行くんだろう?それは俺と母さんも一緒に行って構わないのか?」


「もちろんだよ。そのために今日この話をしたのだから。その日は僕は絵を描くことになってるんだ。

最後に絵を描いた時に、とても…とても禍々しい物が出てきてしまったから、今回ももしかすると、嫌な気分にさせてしまうかもしれない…」


言葉を選びながら話すアルは不安気に瞳を揺らしている。


「大丈夫だ。俺たちがいる。それにそっちのプロのアナベル嬢とローズ様もいるんだろ。絶対に大丈夫だから。」


「任せる。」


「任された。」


そう言って俺たちはまた笑い合った。



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