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翌日、まだ朝も早いうちに、とりあえず日を改めてまたローズ邸に伺う約束をし、僕はボーデン家まで送り届けてもらった。

マリーとデュランには僕からことの次第を話す許可をもらっているが、いつ、どのタイミングでどのように話せばいいかまだ心が定まらない。


ローズ様の用意してくれた馬車が門の前に到着するや否やマリーとデュランが玄関の扉から飛び出してきた。


「坊ちゃん!大丈夫なのですか?」

「具合悪くなったってどうしたんだよ!やっぱり俺が護衛についてけば良かった。アルを置いて帰ってくるなんてアイツらほんと役に立たねーな。」


2人とも我先にと話しかけてくる。

申し訳ないとは思っているけれど、2人の優しさにやっぱり心が暖かくなり、頬が緩む。


「心配かけてごめん。プロムで少し飲み過ぎてしまったみたいで。」


「気をつけろよ、もー。昨日は本当に心配したんだぜ?」


「少しやつれて目の下にクマも出来ていますね。今日は、ゆっくり休んで下さいね。」


デュランは口を尖らせて僕の後ろに立ち、マリーは困ったような顔で僕の横を歩く。

きっと倒れないか心配なのだろう。

2人はきっと、何があってもずっと僕の味方だと心の底から信じる事ができる。


「大丈夫だよ。全然元気なんだ。まだ酒が残っているようだから少し寝ようかな。」


僕は安心させるように微笑みながら2人の腕を軽く叩き、部屋へと戻った。


昨日はほぼ徹夜だったから確かに身体も頭も重たい感じがする。

ベッドに横になるとすぐに瞼が重くなり、僕は意識を手放した。


「…アル……アル…」

可愛らしい女の子の声が僕を呼んでいるのが聞こえる。

デュラン?

デュランの声じゃないな。

父上?母上?

誰だ?


ハッと目が覚めると窓から差し込む光はもう昼過ぎである事を示していた。

何か夢を見ていたような…

思い出せないな。

昨日は色々衝撃的な話を聞いたから、その影響だろうか。


深く眠れたようで頭はスッキリとしている。

2人に話をする前に自分自身の頭の中を整理しておこうと、僕は机に座り紙とペンを取り出した。


・僕の祝福について

・アナベル嬢が僕に興味を持った経緯

・アナベル嬢とローズ様の祝福について

・ジェンダー家の存在とその役割

・王家と祝福について

・御使という存在と予言について

・今後どうするか


話すことはたくさんあるな、と軽くため息をつく。

しかも今後どうするかなんて全く予測がつかない。

アナベル嬢とローズ様に僕の力を見せる約束もあるし、早いうちに話してしまった方がいいだろう。

僕は紙を折りたたんでポケットに入れローズの部屋へと向かった。


ローズの部屋をノックすると、ローズがいつものようにするりと素早く出てきて扉を閉めた。


「坊ちゃん、お目覚めになられたんですね。ご気分はいかがですか?」


「別に元々気分が悪かったわけではないから大丈夫だよ。マリーとデュランに話があるんだ。その前にマリー、部屋の中を見せてくれるかい?」


「…!しかしこの部屋は…!」


「わかってるよ。僕の昔の絵が飾ってあるんだろう?見たいんだ。」


「ご存じだったのですね…でも大丈夫なのですか?」


「気を遣ってくれているのはずっと知っていたよ。大丈夫だから見せて?」


「…わかりました。」


マリーがゆっくりと扉を開くと中には壁を埋め尽くすように僕の絵が飾ってあった。

ほんの幼い頃の落書きからそれなりに技巧を凝らした風景画まで、僕が覚えていないようなものもたくさんある。

懐かしい気持ちでひとつひとつゆっくりと見てまわっていると、僕の目から雫がこぼれ落ちた。


「坊ちゃん!」


「ああ、マリーごめん。心配いらない。思い出したんだ。大好きで、楽しくて、幸せだったって事を。

僕は絵を憎んでなんていないんだ。そんなことどうしたってできなかった。」


「坊ちゃん…」


「大丈夫。もう大丈夫なんだ。ありがとう。今までも、ずっと、ありがとう。」


マリーの目にも涙が浮かんで今にも溢れそうだ。

部屋を出てからハンカチを渡し、マリーの手を引き僕の部屋に向かう。

いつものようにデュランにも声をかけ、僕の部屋でお茶を用意してもらった。

3人でお茶を飲み、お菓子を食べ少しプロムの話などをして、本当にいつも通りだ。


僕はカップを置き、組んでいた足を解いて軽く拳を握り膝の上に置いた。


「マリー、デュラン、話があるんだ。この話を聞いてしまったら、秘密を抱えることになってしまう。

それは重たい秘密になるかもしれないし、一生付き纏うものになるかもしれない。それでも僕の話を聞いてくれるかな?もちろん断ってくれても構わないんだ。」


マリーもデュランも同じようにカップを置き、居住いをただして僕の方に向き直った。


「何言ってるんだアル。聞くに決まってるだろ。俺は一生お前を支えてくって剣に誓ってるんだ。」


「坊ちゃん、どうぞ。」


そう言った2人の表情は一切の迷いがなく透き通っているようだった。


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