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アルフレッド様がもしかしたら倒れてしまうかもしれないとは思っていた。
でも実際に顔色をなくしソファに倒れ込んでいるアルフレッド様を見ると罪悪感が湧いてくる。
お祖母様と話し合って決めた事とはいえ少し強引すぎただろうか。
執事を呼びアルフレッド様を横に寝かせ、外で待っている護衛と御者に、「アルフレッド様が体調を崩してしまい、この邸に今晩は留まっていただくことにしましたのでお帰りになられて結構です」と伝えてもらった。
御者も護衛も戸惑っていたそうだが、明日しっかりこちらで護衛をつけて送り届ける旨を説明してどうにか帰ってもらう事ができた。
この邸のベテラン執事はそのような交渉で人を丸め込むのが大層上手い。
執事も御者も帰って怒られないといいけれど、と考えながらアルフレッド様の顔に目を落とすと、長い金色のまつ毛がわずかに震えており、時折眉を顰めている。
「いい夢は見ていないでしょうね。」
眉尻を下げてぽつりと呟くとお祖母様が私の肩に手を置いた。
「かなり乗せたのよ。わからなかったから。」
そう、パイにはお祖母様の祝福の力が強く乗せられていた。私ですら引きずられそうになるくらいに。
「お祖母様はどう思われまして?」
「何かしらの祝福を授かっているのは間違いないわね。しかも私達よりずっと強い…強いというより…」
お祖母様は向かいに座ってゆったりとした仕草で紅茶を飲み、しばらく考え込んでから、独り言のように口を開いた。
「もしかすると授かるというより宿しているのかも…」
「宿している…?」
意味がわからずお祖母様の方に目を向けると、お祖母様はここではないどこか遠くを見るような表情をしてこめかみを指で押した。
「この方はその身に女神の力を宿した御使なのかもしれないわ。」
「御使?」
「私達祝福を受けているものは自分で作り上げたものに力を乗せて特別なものへと変えることができるでしょう?
それを王宮の奥で祀られている女神の供物にすることで女神の力を借り、魔物や天変地異、疫病なんかも防ぐ事ができているわね?」
「はい。そのように認識しております。」
「ただ、私達の力は相手の感情を強く揺さぶって支配する事もできるから、悪用しようと思えば大変なことになるわ。」
「そうですわね。私達の存在は王家にとっては首元の刃になり得る力を持つ。
けれど女神の力を借りるためには消すわけにはいかない。
だからこそ政に携わる事もなく特に何も成し遂げなくても公爵家としての地位と財産を与えられておりますのよね。」
「その通りよ。私達にこれと言った役割もなく他の貴族との交流も最低限なのは私たちに力をつけさせたくない王家の意向でもあるの。」
「はい。存じております。」
「今から話す内容は本来ならアナが私の後を継ぐ時に伝える話よ。」
お祖母様はそう言い置いてから続けた。
「御使の力は私達のものとは違って御伽話にあるように本当に生命を与える事ができると言われているわ。
御伽話では白い犬の姿で語られているけれど、本来力を持っていたのはその犬の姿をした御使で、御使がその力を青年に分け与えた事で青年は兵士や兎を作る事ができるようになっていたの。
だから御使が青年に愛想を尽かして天に帰ってからは青年の力はどんどん弱まって力を使うためには周りや自分自身の生命力を利用しなくてはならなかったの。
それが周りを狂わせたり死なせたりした原因ね。」
「…。」
「そして次に御使が現れた時女神はその力をもって『世界を新しく造り替える』と予言されているのよ。」
「!…どういう…?」
「はっきりとはわからないけれど、今ある世界を滅ぼすして御使の力で新たな生命を生み出すのではないかと考えられているわ。」
「そのような力をアルフレッド様が…?」
「まだ可能性でしかないけれど、ジェンダー家以外にこのような強い女神の気配を持つものが出たとなると…」
「私達は…っ」
女神の祝福を授かった私たちは世界が滅びる時に人側に立つのか女神側に立つのか。
そもそも本当に世界は滅びてしまうのだろうか。
アルフレッド様はこれからどうなっていくのか。
きっとそんな疑問を投げかけてもお祖母様だってわからない。
言葉にする事ができず口をつぐむと、私の気持ちを察したかのようにお祖母様が微笑んだ。
「確かな事は何もわからないわ。でもアルフレッド様が目を覚ましたら全てをお話ししましょう。
流石にアルフレッド様もご自身のことを話してくださるはずよ。」




