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「ローズ様、本日の昼食のメニューはこちらでよろしいでしょうか。」


「…いいわ。これで準備してちょうだい。デザートはもう一品あってもいいかもしれないわね。」


私は朝食後のハーブティーを楽しみながら、侍女のアンが差し出してきたメニューを確認して、「今日は私が何か作ってもいいわね」と少し頭を巡らせた。


アナはこの邸によく来る方ではあるが、学園を卒業してからは忙しいのか今日の来訪は実に半年ぶりで、これまではひと月に一度以上は来ていたことを考えるとかなり長い時間会っていなかったような気持ちになる。

邸の者達も同じ気持ちだったのか、昨夜訪問を告げる手紙を受け取ってからは皆浮き足立って少し気配が騒がしい。


今朝からメイド達はあれやこれやと動き回り、装飾の花や小物は若い女性が好みそうな華やかで可愛らしい物に変えられている。

いつもならば年寄りの多いこの屋敷の食事は野菜と魚がメインの食材であるのだが、先ほどのメニューにはアナの好む肉やバターをふんだんに使ったボリュームのある料理が記されていた。


去年、夫がなくなってからようやく喪が明けたというのに、イマイチ浮上しきれていなかったこの邸の空気が華やぐのは私にとっても喜ばしい。

私は先代の女神の祝福を受けた大叔母様が亡くなってからはずっとこの邸で暮らしているし、私が死んだらアナがここで暮らすことになるだろう。

代々の女神の祝福の力を包み込んできたこの邸はやはり明るい雰囲気の方が似合っているのだ。


「お祖母様、ごきげんよう!お久しぶりです。」


アナはノックをした後元気よく部屋に入ってきて私の背中に手を回した。

私はアナを抱きしめ返しながら私の若い頃にそっくりな孫娘の銀色の髪をそっと撫でる。


「アナ、ごきげんよう。元気そうで何よりだわ。みんなあなたが来ると聞いて楽しみにしていたのよ。」


「まあ、私も楽しみにしておりましたわ。最近はなかなかこちらに伺う時間が取れなくて寂しく思っておりましたもの。」


「ふふふ。それにしても今日はまた急だったわね。何かあったのかしら?」


そう尋ねると、アナは私から身体を離し困ったように眉尻を下げた。


「ええ…お祖母様、人払いをお願いしてもよろしいかしら?」


この言葉で私は女神の祝福絡みの話だとピンと来た。王家に何か無理なことでも要求されたのだろうか。

メイドにお茶とお菓子を用意させてから人払いをすると、アナは言葉を選びながら口を開いた。


「お祖母様はボーデン公爵家のアルフレッド様をご存知ですか?」


「レイモンド様の1人息子ね。会ったことはないけれど優秀な息子さんがいらっしゃるというのは聞いているわよ。」


「先日アルフレッド様にお会いした時に瞳にオーロラの光が見えたのです。」


「…!どういう…?」


アナは順序立ててこれまでの出来事を話し始めた。

幼い頃に絵を見た時に不思議な体験をしたこと。

その体験を再びした事で作者がアルフレッド様であると考えたこと。また、その絵からは女神の祝福の気配を感じたこと。

お会いする機会があったので軽く祝福を乗せた演奏をしたところやはり共鳴してオーロラの光が発現したこと。

しかしアルフレッド様は祝福を抑圧しているようであり、その影響が出ているかもしれないということ。


「なるほどね。ジェンダー家以外に祝福が現れることなんてあるかしら。

アナが最初に絵を見た時は祝福は感じなかったの?」


「はい。その時はわかりませんでした。」


「その時アナはもう祝福を受けていたのよね?」


「私は4歳で祝福を受けておりますので、その時にはもうそれなりに色々感じられらようになっていたはずですが、突然の事なので気が付かなかったのかと。」


「感じられない程度の祝福でそこまで強烈な体験をするかしら。」


「私には分かりませんが、お祖母様なら何かお気付きになるかと思い伺いましたの。

女神の祝福を受けたものはその欲求に抗うことはできないはず。抑圧し続けていれば命を削りますわよね?」


「そうね。命を削り正気を失うと言われているわね。」


「我が家以外に女神の祝福を受けた者がいるならば何もわからず苦しい思いをしているでしょう。しかしことこの件に関しては王家への報告も必要になってくるでしょうし、私はどのようにアルフレッド様に関わるのが良いのかわからなくなってしまって…」


「そうねぇ。下手に関わってこちらの秘密を明かしたけれど勘違いでしたと言うことも無くはないでしょうし…王家の秘密も絡んでくるし、そうなると少々面倒な事になるわね。」


私達はお互いに頭の中でぐるぐる考えを巡らせたが、何せこのような事は今までの記録にも書かれていない。

確信が持てないことを王家に報告するわけにもいかないし、ボーデン公爵家に働きかけたとて、女神の祝福は忌避されるものとされているから素直に認めるか甚だ疑問だ。


女神の祝福に纏わる様々な事を詮索されないようにと祖先と王家が作り上げた御伽話がより現状を複雑にしている。


実際女神の祝福は詮索してはならないものではあるが、別に忌避されるようなものではないのだ。

ジェンダー家にしか発現しない前提であるから今まで問題はなかったが、もし他家に生まれていたら必死に存在を隠され公にされることはなかったであろう。考えると眩暈がした。



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