15
昨日は少し考え込む様子だったアナ様はひと晩寝てスッキリしたのか、朝も早くに起きて朝食も美味しそうに召し上がった。
本日は先先代の奥様であるローズ様のお屋敷に伺うとの事だったので、滞在はそれなりに長い時間になるだろうし、もしかしたらお泊まりになると言われるかもしれない。
私は手早く訪問の準備を整えて、ローズ様にお渡しする花束を庭師に作らせた。
ジェンダー公爵家に代々使える我が家はしばしばジェンダー公爵家の秘密に触れる事がある。
女神の祝福に関してもそうだ。
祖父は執事、叔母は現在侯爵夫人であるカメリア様の侍女であり、祖母はローズ様のお屋敷に勤めている。母はアナ様の乳母で私はアナ様の侍女だ。
このような環境で何も知らずにいる方が無理というものなのだ。
女神の祝福は私達には見えることはない。
しかしその存在を感じることはある。
ただ、私達は余計な事を知ってはいけない。
気が付いても知らぬふりをしなくてはならない。
おそらく昨日の様子からして、アルフレッド様と女神の祝福には何かしらの関与があり、アナ様はそれをローズ様にお伝えしに行くのだろう。
ジェンダー公爵家では公然の秘密である女神の祝福だが、他家に現れたという話は聞いたことがない。
これはジェンダー家特有の能力なのだと聞かされてきた。
アルフレッド様はどのような存在なのだろうか。
女神の祝福は創り上げた物に命を与えるという。
現在公爵家でこの力を授かっているのはアナ様とローズ様のお二人だけだと思われる。
おそらくアナ様は音楽でローズ様は料理だ。
私はそれは素晴らしい才能だと思うが、稀に国を揺るがすような事が起きるため公にはされていないらしい。
しかし、ジェンダー公爵家を公爵家たらしめているのもまた、おそらくこの能力のおかげであり、アナ様もローズ様も時折王家に呼ばれて出かけてゆく。
王宮内で私達は待機を命じられるため、何をしているのかはわからないが、重要な何かだろうということは察することができる。
「シェリー、お待たせ。行きましょうか。」
「はい、アナ様。」
アナ様と私は馬車に乗り込んだ。
アナ様は頻繁にローズ様のお屋敷に伺うので勝手知ったる道を馬車は迷いなく進んで行く。
4歳から6歳までの2年間をローズ様のお屋敷で過ごしたアナ様にしてみたら里帰りのような物だろう。
乳母である母も、幼い頃からアナ様と育てられた私もこの2年間だけはアナ様とは離れ離れになっていた。
家を離れる時はグスグスと可愛らしく泣いていたアナ様が、帰ってきた時にはすっかり背も伸びて言葉使いも淑女のようになり、美しさには磨きがかかっていた。
久しぶりの再会にはにかむ私に、アナ様は変わらない黒真珠の瞳を輝かせながら「またシェリーと過ごせるのを本当に楽しみにしてたのよ。」と笑った。
その日以降私は全てに優先してアナ様のことを考え、お仕えしてきたのだ。
「今日のお花はケイトウなのね。おばあさまは赤系の花を好むからお喜びになられるわね。」
「ちょうど綺麗に咲いておりましたので。あまり華やかではございませんが、ローズ様はそのようなお花も愛でられていらっしゃるので大丈夫かと。」
「そうね。お祖母様は薔薇とか百合とかよりも野草のようなお花の方が好きなのよね。
でも昨日のボーデン公爵家のダリアは素晴らしい物だったから、今度株を分けていただこうかしら。お祖母様にも見せて差し上げたいわ。」
「デュランを通してお願いしておきます。ボーデン公爵家は薔薇は門外不出で独自の品種を育てていると聞いていますが、ダリアならおそらく大丈夫だと思いますよ。」
「そうだと嬉しいわ。花の盛りが終わる前に分けていただきたいわね。」
「ダリアは11月くらいまでは咲いておりますから、焦らずともよろしいですよ。」
「そうなのね!そんなに長く楽しめるなんてますます素敵ね!」
そんな話をしているうちに馬車は目的のお屋敷に到着した。




