決着の時6
「いや、人違いで……」
「サキちゃん、どうしたの?もう俺とは関わりたくない?」
「……」
「……サキ…」
「ごめんなさい、アタシ、本当に分からないんです」
「ーーーーそうか」
「すいません、勘違いだと思います」
「そうか、そうか、うん……ごめん」
「……ごめんなさい」
「……」
驚いた……今の、鮎川さんじゃん……。
ガールズバーで働いてた時のお客さん。
どうしてもお金が足りなくて……結構お金使ってくれてたし、ちょっと相談したんだよね。
何年も経ってたのに鮎川さんの連絡先は変わってなくて、相談に乗ってくれた……。
ホント、気前が良くってさ、人畜無害って感じだったから全然警戒してなかったわ。
今の、もしかしたら失敗だったかも……。
マコにぃから言われた、男を便利グッズに見てるとか……そんな事ないって言いながら一番最初に浮かんだヒト……。
連絡先消して、それで終わりだって思ってたし……。
そもそもくれるって言われて……アタシ……。
鮎川さん、何て言おうとしてたんだろ。
マジでヤバかも……わかんないけど。
アタシはカウンターに肘をついて頭をくしゃくしゃと掻いた。
「……どうしよ、」
「瑞江さん、大丈夫?」
「…………あ、別に……」
つい、声が漏れていた。先輩から声が掛かる。
「あのさ、見てたから……」
「………….いや、本当に大丈夫です」
「なんか、ストーカー?」
「……いや、ホント、大丈夫なんで……」
「本当に?帰り送ってこうか?」
アタシはこの言葉に目を見開いた。これだから男はさ……って、あーまた、悪いとこ出てる。
そういうとこ……。でも仕方ないじゃん、アタシはそうしなきゃ生きてこれなかったんだよ。
「ホント、すいません。大丈夫です、レジ締め、片っぽ始めますね」
アタシはにっこり微笑んで、先輩に返した。
出来ればここで務めたい。だってマコにぃと選んだとこだから。もう裏切っちゃいけないんだよ。
それに、アタシはシャノちゃんを迎えなきゃいけないんだからさ。
シャノちゃんはアタシの支えになってくれるよ。
その為にペット可の物件も探して貰ってさ。
「……あの。さっきのお客さん、また来たらアタシ隠れても良いですか?」
「……うん、ホント大丈夫なの?店長に言って時間変わってもらう?」
「いえ、別に……えーと」
隠れても良いか聞いといて、何でもないって言うのは通らないよね……馬鹿だね。
私が口をもごもごとしていると先輩は察してくれたらしい。
「……いや、色々あるよね。もし、俺で良かったらいつでも相談には乗るからね」
「…………すいません」
あたしは何の言い訳も出来ずに素っ気なく謝った。
どうしよう、誤解っていうか何かヤバいことやってたって思われたら。
……ううん、これっきりかもしれないし。
「先輩!ホント、だいじょぶなんで!」
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません、なんて言おうとした瞬間ーー
レジの回収したお金をぶち撒けてしまった……。
頭が真っ白、それでも正に無心でお金を拾い集める。
……何やってんのあたし〜!!
「すいません!すいません!」
先輩もしゃがみこんで慌ててお金を一生懸命集めてくれる。カウンターの隙間に入ったお金を拾う為に顔を床に着けて……。
お客さんが落としたりして、隙間に入っちゃったら普通にそうする。
けれど、あたしのせいでそんな事をさせてしまうのが申し訳ない。
あたしも同じように、頭を地面に這わせて捜した。
お金を取り、起き上がった先輩は埃のついた100円玉をはらいいつつ困った顔を向けて言う。
「あー……瑞江さん、締め作業は俺がやるからさ、店内の掃除してきてよ」
「……ハイ、すいません、ほんと……」
「もしお金が合わないと帰れなくなっちゃうからさ、あっ!えっと責めてるんじゃなくて、仕事滞るから……」
「申し訳ありません!急いで掃除してきます!」
「まだ、お客さん来るかもしれないから、対応もよろしくね」
「ハイ!!」
あわあわと、掃除用具入れに向かいモップを装備する。先輩は釣り銭機にお金を再度流し込んで確認しつつ、まだ床を捜していた。
その様子を見てまた掃除用具入れを開ける。そして横にかかっていた小さいハタキを先輩に差し出した。
「ありがとう、」
はっきりとこちらを見ていた訳じゃない先輩の手が、ふっと当たる。
他人の肌にあたる事が何か気まずい。
……こーゆーのが良くないじゃん、自意識過剰。
そんな事を思いつつ、出そうな涙を堪えてあたしは床の掃除を始めた。




