決着の時5
俺はポップコーンの袋を抱えてソファーに横になっていた。
抱えるほど愛しいポップコーンという訳じゃない。
テーブルの上に置いておくだけで危険なカサカサ。それがこの手の菓子なんだよな。
「シャノ、ポップコーンてお前のご飯に似てる気がするんだけど……」
フス……
「そんな事ないね、お前のご飯のが美味しいよ……多分」
「……」
シャノはソファーとテーブルの間で伸びていて手をダランと落とせば、くすぐる事が出来た。
クゥ……ミ
触れるとちょっぴり音が出る。モアモアの生き物。
気付けばいつも、そばに居る。ただ居てくれる、可愛いヤツ。
「……無理無理、無理だって」
シャノを引き渡すなんて出来ないよ。
俺は目まぐるしく過ぎていったシャノとの日々を思い起こしてばかり居る。
正直、こんなに猫という生き物が面白くて愛しいものだと思わなかった。
慣れない世話が面倒とか、大変とか、そんな事はどうでも良くなって……コイツがとっても素敵な生き物だって思い始めるのにそう、時間は掛からなかったよ。
丸っこくて可愛いのにスゲェ身体能力を持っていて、性格は意地汚いくせに、黙ってそばに居てくれる。
なんか、やわらかいし。あったかいし。
「うげっ」
突然腹にドシンと感じる重み。
「……一発で飛び乗るのはやめろや」
シャノは俺の腹に乗っかりグルグルと、猫特有の音を奏でている。
そろりと触るとパタパタ足が仕舞われていく。
このプラモデル感が堪らないな……。
俺はポップコーンの袋を空にして、テーブルの上のノートパソコンの下敷きにした。
「はぁ……」
溜息が出る。不安や、焦燥。どう切り出すか、もし、頑として愛が譲らなかったら……。
シャノが可愛くてたまらないと思うほど、募る想いがあった。
けれどもシャノの振動が俺の身体に伝わってきて、不思議な安心感がもたらされている。
「……なんか、うるさいよ、シャノ」
フフ、と溢れる笑み。
ホント、どうにかしないとな。
**********
謹慎を言い渡されて、今はコンビニと家の往復だけ。
駅から徒歩2分。
超駅近のマンション。
俺が組んだローンのマンション。
あと何年、残ってるんだか……憂鬱な家。
このままこの駅の電車に乗ることもない。
椚に相談しようにも、あれっきりだ……。
ちょっと可愛い女の子と遊んだだけだって。
お金に困ってるっていうなら多少援助したくなるのも仕方ないんだよ。
家で猫と遊んでるだけの嫁にも小遣いやってるんだ。
なにが、浮気だ不倫だ、援助交際だのってな。
あの子は別に今時のパパ活女子でもなんでもないんだよ。
そんな低俗な連中と一緒にしてくれるなって。
あの子はさ、病気になって、会社を辞めることになってさ。不安で不安で仕方なかったんだよ。
だからこそ俺もあの子には色々してあげたいって思ったんだ。
いい子を助けたいって想う気持ちは不純でもなんでもないっての。
それをギャーギャー喚いて、会社に言うってどうい
う事だよ?俺が職を失って困るのはお前だろって!
あーバカ嫁が……。
絶賛家庭内別居中の俺は、自分の飯は自分で用意しなけりゃならない訳で。
空気の悪い家からもなるべく離れたかった……。
けれど、許されている外出は駅のコンビニ。この程度だ。
「いらっしゃいませ〜」
明るい女の子の声がする。夜遅くまでアルバイトか……。ま、このコンビニは駅の終電と共に閉まるんだろうから、もうすぐ帰れるんだね。
俺は時間を気にしつつ、適当な弁当や酒をカゴに放り込んでレジへと向かった。
もう少し時間を潰したい気もするけれど……。
いやいや、腹が減って出てきた訳だからさっさと帰るんだよ。
それにもう直ぐ終電なんだから。
打ち込みを終えた品物を袋詰めして貰って。
自動釣り銭機で精算をする。
「ありがとうございました〜」
俺はその言葉に何気なく顔を上げた。
「…………サキ?」
「えっ?!」
「サキちゃん!!」
うっかり俺は大きな声を出してしまった。
人違いじゃない。
髪型は少し違う気がするけれど、なんて事だ……やっぱりサキちゃんだ。
「え?え?え?なに?なんですか?」
「サキちゃん、覚えてるでしょ?」
俺はサキちゃんの目を見据えて、必死に聞いた。
何で否定するんだよ……俺、ずっと……ずっと。
「サキちゃん、俺、今ね……」




