決着の時4
「……………み」
「……のみ」
「……富海!」
俺はハッとした。
誰かを呼んでいた声、それは俺ではない誰かに宛てたもの。そう思ってしまっていた。
「はい、富海……俺です」
顔を上げると恩田さんが笑っている。
ん?どういう状況だ?
「お前の本気は分かったから、今日は帰んな。ミスももう取り戻せてるだろ」
気付けば課に残っているのは俺と、恩田さん。
そして椚先輩の三人だけだった。
「……」
「どした?」
「いや、ちょっと……進めておきたくて……」
恩田さんはハーと溜息を漏らし、首を振った。
「仕事は夏休みの宿題じゃねぇぞ、早く終わらせたからって、その先安泰にはならねぇよ」
椚先輩だ。うん、まぁ、言わんとしてる事は分かりますよ。
「ハイ……」
「富海はホント、どうしちゃったの?」
恩田さんは俺でなく、椚先輩にそう聞いた。
「女絡みですよ」
「マジで?須藤の冗談じゃなかったわけ?」
「…………」
「いや、反論がないと俺も困るんだけど……」
からかってるつもりが、そうじゃないと困るって?それの何に困るんですか?
「……まぁ、そうですよ」
「うん、そうか、まぁ……頑張れよ」
恩田さんは本当に申し訳なさそうに、俺と視線を合わせずにそう言った。
「はい、頑張ります」
「まてまて、恩田さん真面目なんだから、誤解するだろ」
「誤解じゃないです、俺はメスの事で頭が一杯です」
「ちょっと、富海……女性をメスって言うのはさ」
「恩田さん、猫の話です」
すかさず椚先輩が突っ込みを入れる。別にボケで言った訳じゃないけどな。
「猫ぉ?!」
「……まぁ、はぁ、そうですよ」
「……」
「……」
「事情は……わからないけどさ、うん、そうか」
「こいつに動物の悩みって意外でしょ?」
「うん、いや、他意はないよ?」
「……はい、帰りますね。お二人は緑町さんの件で残ってるんでしょうからお邪魔でしたね」
「いや、お前は知ってる側だから……別に構わないんだけどさ」
「……友隆、平日有給使うか?」
「……」
俺は途中から帰り支度をしながらなんとなく、会話をしていたに過ぎない。
だが椚先輩のこの提案だ。
「また何か知ってて、隠してたらぶん殴りますよ」
「いや、そうか……いや、フツーに考えたらさ?えーと、弁明が長くなるんだが……」
「冗談ですって、アンタは大体知ってるんだからさ」
「……」
「ま、渡に船かもしれないんで、後で相談させて下さい」
「おー、気をつけてな」
「はい、お疲れさまでした!!」
俺はパッと鞄を取ってその場を後にした。
そうだな、今詰めたってしょうがねぇよ。どうなるか分からねぇんだ。無理したらコンディション悪くなるかもしれないし。
仕事は仕事でフツーにやんないとな。
ちょっと、二人に聞いて貰いたい気もしたけれど、それはなんの解決にもならないさ。
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「椚さん、俺ひとつ気になるんですけど……」
「はい、なんでしょうか?」
「富海がたまに、椚さんに向かってアンタとかお前とか言うじゃないですか……あれは、許していていいんですか?」
「あー、それはすいません」
「椚さんにそう言いたくなるのも分からないでもないんですけどね」
(それはどういう事よ……)
「……いや、別に隠す事でもないか」
「え?」
「あいつ、大学の後輩なんですよ。後輩っつーか、かなり仲良くて」
「は、へーぇ……」
「……最初はちゃんとしてたでしょ?」
「成程、なるほど。いや、そうですね、随分装ってた期間長かったよね」
「すいません、恩田さん。まぁ、俺もアイツも線引きしてるつもりだったんですけど自然とそうなっちゃって……俺も気をつけますよ」
「そっか、へーじゃぁ富海のポカにも心当たりあったわけね」
「まぁ……」
「へー」
「……」
「……」
「因みに、相手は俺の幼馴染……」
「へぇーー!!凄いね、ちょっと面白そうだね!」
「……恩田さん、聞き出すの上手いっすね」
「いや、椚さんの口が軽いんじゃない?」
「……駄目ですよ、友隆にはくれぐれも」
「言わないからさ、今度教えてよ」
「なんすか、意外とそういうの興味あるんすか?」
「いや、アイツの弱味は知っときたいじゃない」
「ちょとぉ、恩田さん……」
「ハハ……こういうの嫁といい話題なんだよね」
「……まぁ、三人でね」
「ホント、椚さんはいい先輩だね」




