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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
緩やかな修羅場

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決着の時3

「シャノ、シャノシャノ……」



クゥ……



 俺は床にベタっと落ちているシャノを揺すった。


 ーーどうやら眠いらしい。


 触れるとキュ、とかム……とか短く声を出して目は開けてくれない。



「知らんぷりかよ、シャノ」



 とっくのとおに迎えた就寝時間的なもの。


 愛とそんな長話ししてた訳じゃないが、眠れるわけがなかった。


 どうしたらいい?


 なんて言えばいい?


 それこそ猫の代金か?


 貰って来たとは言え、椚先輩いわく買ったら高い猫だっていうじゃん。


 イグアナか?


 馬鹿、そんなくだらない事でどうこうなる話じゃないよな。


 ……誠さんに相談するか?


 いや、あの人は自分で解決するしかないって……俺もそう思う。


 だって、これから一緒に過ごすのは俺だ。俺自身なんだから。


 こんな時、シャノに選んで貰えたら、言葉が話せたんなら。



「シャノは愛ちゃんと暮らしたいにゃー!!」



「……」



 俺は首を振った。話せちゃったら、愛と暮らしたいって言いかねないだろ。


 話せなくて良かった……ってか。


 いや、それじゃ俺のエゴじゃん。


 法律的にはどうなんだ?猫は物か?


 ダメだな俺、シャノと間違いなく暮らしていきたい。


 十数年と暮らす、世話をするその覚悟もある。


 愛はどうだ?確かに行き詰まった時、また捨てるんじゃないのか?


 そんな事になったらシャノが可哀想だろ。


 

「シャノはやっぱ、友隆がいい!」



「友隆、すきっ!!」



「……」



「…………俺、酔っ払ってるかな」



 時計を見ると明日が怖い。


 とにかく寝なけりゃならないじゃん。


 ここから離れよう。床に溢れたままのシャノを掬い上げて、俺はソファーに寝かし直した。


 シャノはデロンと微動だにしない。


 けれども、プークー息をしているのは確かに聞こえる。


 外の音がないこの時間。シャノの寝息だけが聞こえる。


 

「…………」



「シャノ、おやすみ」



「……」



「……」



 俺はそっと電気を消して、自分の部屋へと引っ込んだ。





**********






「富海!いい加減しろよ!」



ーーーーやべ、久々の富海呼びだ。



「すいません…………」



 俺は謝った。だが、申し訳なさ五割、心ここにあらず……全てに集中出来てない今の俺。



「友隆、お前のミスは色んな意味でヤバいんだよ。誰も気に掛けないから気付けない、ウェイトがデカい分取り戻すのもキツい」



「ハイ……」



「自分のポジションの重大性を考えてくれ、頼むから」



「ハイ……」



 分かってます……分かってるんです。


 椚先輩は怒りというより……どんよりとしていて、若干、青ざめてる。


 ホント、申し訳ありません。



「……恩田さん、緑ちゃん借りてもいい?」



「は……」



 その言葉に恩田さんは怪訝な顔、いや、明らかに嫌そうな顔をした。


 それは緑町さんの仕事の変更が嫌というより、俺に対して何なんだという感じ。



 俺は俺で気まずいと言うか、何と言うか……耳を塞ぎ逃亡したい気持ちだ。



「あのさ、富海、お前が珍しいとは思うけど……ちょっと意味わかんないから」



「ハイ……」



 恩田さんからも釘を刺されて、いよいよだ。


 そして、ご指名のあった緑町さんの声も聞こえてくる。ここまで殺伐としていると流石に直接聞いてはこないわけで。



「富海君、どうしたんだろう。体調悪いのかな……」



「緑町ちゃん、そんなん……」



「なんですか?心当たりがあるんですか?」



「ーーそんなん女絡みに決まってるでしょ!!」



「えっ……?!」



……いや、違います。


違いませんけど。


 須藤先輩と緑町さんの話は途中からヒソヒソ話でもなんでもなくなっていた。



「富海、どうするよ」



 一瞬呼び名が戻ったが、恐怖の苗字呼びが繰り返される。



「……あの、恩田さんすいません」


 俺はまず真っ先に通るデスクに居る恩田さんにぺこりと頭を下げた。


 そして椚先輩の元へ行く。



「申し訳ありません、次、ミスしたら帰ります。なのでもう一度だけチャンスを下さい」



「わかった、わかった。定時まで頑張れよ」



「はい」



 俺は短く返事をして席に戻った。


 ミスを取り戻さなければ……なにやってんだ俺は。



「恩田さん、すいません大丈夫でした」



「だってよ、緑町」



「はい……」



 俺によって振り回した人達の声が聞こえる。


 目を瞑り、集中する感覚を。


 シャノ、仕事の時にお前の事は考えまいとしていた。


 それが違う、俺、お前の為に仕事はちゃんとやんないといけないんだよ。


 愛によってお前がもし、捨てられちゃったら?お前だけじゃ生きていけそうにないじゃん。


 お前は多分、人としか生きられない猫だろ。


 地域猫とは違う。俺、勉強したもんな。


 須藤先輩、今日はありがとうございます!女絡みって言われて……性別メスのシャノをいの一番に考えましたから。


 そこまで想いを巡らせて、俺は目を開けた。


 ざわついている、全くの無音じゃない。


 キーボードのカタカタ音。椚家先輩が指示出しをする声。緑町さんの唸る声。


 いつも聞こえている音が、確かに聞こえた。


 よし、大丈夫!大丈夫だ。


 今の俺は間違いなくいつもの俺。


 ぼんやりしてない、してないぞ。


 ちゃんと周りの音が聴こえているから、ちゃんと周りが見えている。



『頑張れ〜友隆君!』



 ひっそりと俺の名前を呼ぶ声、下の名前で呼ぶのは椚先輩ぐらいなのに。


 俺はその声の主を探したが、緑町さんと目が一瞬合っただけで……


 俺はグーサインをとりあえず出してみた。


 すると緑町さんは両手でグーサインなんかを返してくれてさ。多分、緑町さんよな。声、女の人、緑町さんだけだしね。


 

「…………」



 やっぱ、緑町さんはうちの課にいてくれないとね。


 ホント、緑町さん、辞めなくて良かった。


 俺も頑張りますから。


 緑町さんは無理しないでね。


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