決着の時1
「シャノ、ただいま」
必ずリビングへ繋がるドアの前に見える影。
俺の足音を聞いてやってくるのか、だいたいその辺に居るのかは分からないが……
なんだか不思議な生き物だよね。
すぐに開けてやりたいとは思いつつ、俺の部屋に入ってとにかくスーツは脱ぐ。
「あ、間違えた」
シャノと過ごしたい、早る気持ちか俺は風呂に入る前に部屋着というか、寝巻きに着替え直してしまった。
また脱ぐんなら、朝入ればいいか……なんてズボラも発揮される。
「シャノちゃん!ただいまだ!」
ァオ〜!ァン…ニャ
リビングへと入り、俺は足に纏わりつく毛玉に癒しを感じつつ手を洗って餌の準備だ。
「あ、痛っ……」
突然何かを踏み抜いて俺は足の裏をめくった。
ころりと落ちるシャノのキャットフードのカケラ。
「シャノ、ちゃんと食べろよ。お前が齧ったやつだろコレ……」
俺がそのカケラを見せると、シャノはフンフンと……
「もうバッチィね。新しいご飯食べような」
俺は頭を撫でるとそのカケラを台所に投げて、いつものやり取りをした。
随分と慣れた……というか戻ってきた一人暮らしを改めて感じる。全自動的に運ばれてくる飯はない。
そりゃ、当たり前の事だ。
その飯にありがとう、とかいただきます、とか感謝する事がなくなった代わりに猫のお世話が増えて大変って訳じゃないが……。
「彼女っていいもんだったな……」
ポツリとついて出た言葉。
世話を妬かれたいのが男の性ってか?
愛が居ない寂しさは、シャノのお陰で打ち消されてる。
ただ、
「……面倒くせぇだけなんだよ」
俺はソファーで寝転びながらスマホを弄った。
メモリの整理……そんな名目で俺は不要な写真やメールをどんどんゴミ箱へ移す。
定期的にそんな事は行っていたが、手がつけられずにいた履歴。
未練がましく残していた訳じゃないが、意識的に消さなきゃやってられない程でもなくて。
ただ、最近は容量の上限のお知らせがちょくちょくやってくる。
最新へのアップデートもされないまま放っておかれたスマホ。このアップデートにもメモリは必要なんだよな……。
「……」
最近のシャノの写真の多さに驚いた。
おそらくコレが最近の容量圧迫の原因なのだろう。
子供の頃、動物園で物珍しい写真をカメラで撮っていたように、変な格好をする猫が面白くって……つい。
遡っていくと愛との写真はそう多くは無かったが、俺は脳死で消去していった。
そして一枚の写真で俺は手を止めた。
多分、シャノがやってきてまもなくの頃。
愛がシャノを抱えて、俺を無理やり画角に収めたスリーショットだ。
スマホを持っていたのは……俺、なのだろう。
顔はシャノに付かないように、どことなく嫌そうじゃん、俺。
フッとその頃の事を思い出して俺は笑みが溢れる。
そしてチェックを入れて消去した。
「……」
「シャノ、お前俺ん家でいいんだよな?」
シャノはキャットタワーの上でパタパタと尻尾を振った。
「……ちゃんと返事しろよな」
俺はきっと……どこかで愛とシャノを切り離したかったのだろう。
だから唐突に写真の整理なんて始めてさ。
「あー!!早く決着つけてぇ!!」
俺はスマホを放り投げて、ソファーから立ち上がった。
そして発作を収めるようにキャットタワーのシャノを揉んで顔を埋めた。
顔を上げると、シャノは迷惑そうにフス……とため息を吐く。
俺はまた、馬鹿な事をやってると我に返り顔についた毛を洗いに台所へと向かった。




