友隆の困難40
合間で脱線しながらも、須藤と三枝は緑ちゃんの現状を理解してくれて、かつ言い含める事が出来た。
池國の事は後に分かっちまう事かもしれないが、今、全員に説明する必要はない。
むしろそれは仕事において明らかにノイズだ。
憶測を纏った噂話で、様々な疑心暗鬼に陥るだろう。
面倒事は緑ちゃんにお願いすればいい。
そんな気持ちが課の共通認識になってたんだから、いつ自分が糾弾されるとも限らない。
そうなると自身を改める余地なく……ともすると緑ちゃんが攻撃されていたかもしれないんだ。
だからこそ多数派の認識を変えて、はっきりとこちらに引き込まなければならなかった。
時には都合のいい嘘を信じたくなるだろう。
少しでも自分の関わっている事で、それが不利になるようなら、どうしても嘘が魅力的に見えちまう。
今日呼び出した須藤と三枝は、明らかな証拠を見ているからな……池國が出まかせ言おうと、それが噂になろうと。
こいつらは、はっきりと否定してくれる。
都度、緑ちゃんの顔が浮かぶだろう。
適当な事もきっと言わないさ。
「ーー今日の人選は成り行きも含めて正解だったな」
「椚先輩、俺なんかを信頼してくれたんすね〜」
「須藤、お前は緑ちゃんに負い目があったのと……」
「それは、知らなかったんす!!緑町ちゃんいつもホント、ごめんね!!俺ちゃんと覚えるよ!!」
「いやいや!!そんな……須藤先輩の頼まれ事は複雑じゃないんで……」
「そういう問題じゃないよ、緑町さん!」
須藤も緑ちゃんも、三枝まで必死だ。
まてまて。
「須藤は何を言っても実力者だからな。売り上げへの貢献面を見ると、正直目を瞑らざる負えない部分もあったよ……で、お前はかなり尊敬を集めてる」
「ぃえーーーい!!」
ここで、おふざけなのか友隆と須藤がハイタッチをかます。
だから、そのノリが駄目なんだって……。
「まぁ、という訳で須藤の影響力はデカいからな。はっきりと導いておきたかった」
須藤は鼻をちょいちょいと掻いて満足気にする。
そして、なにやら打って変わって三枝が目を輝かせていた。
「……」
最初お前はやめとこうかって俺は思っちゃったんだぞ。
「……三枝は緑ちゃんの相方だからな。今後、誤解があったらいけない。お前が緑ちゃんの味方なのは分かるが、方々に無用な争いを起こしかねなかったからな」
ムスッとしないでくれ……これでも言い方選んではいるんだよ。
「とにかく、緑ちゃんを裏切らないって信用が一番厚かったて事だ」
最後の一言を添えると三枝は分かりやすく、ぱーっと明るくなった。
結構素直なトコあるのな。ちょっと可愛く見えたわ。
「うん、いつもありがとう、三枝君……」
「いや、いや、こちらこそ……」
「椚先輩俺は?」
蚊帳の外というか、まぁ友隆は確かに別枠だよな。
ぶっちゃけこの件に一番遠い立ち位置にいた筈なんだが……巻き込まれたというか、巻き込んじまったってだけで。
「富海君は、私を支えてくれてたから……ね」
「……そうですか?」
俺が、ちょっと間を開けたが為に緑ちゃんから、友隆に素敵な言葉を掛けさせてしまった!!
「緑町ちゃん意外とモテモテだね」
やめてくれ、須藤。
俺は思わず腹が立ったが、そうだよ。
下から二番目に人気のアイドル的な。
ん、なんか違うな……まぁ、いいか。
「須藤先輩、冗談はやめてください……」
「いや、冗談じゃないって!椚先輩は緑町ちゃん大好きだから!!」
「何言ってるんですか?からかわないでくださいね」
「えー!俺事実を述べてるだけだけど?!」
「しつこいです!」
「もー、なんだよ……そんなプリプリすることかな?」
「須藤先輩、今ならまだ間に合うかも……」
「え?なに富海?」
「いや、冗談だって言えば……」
「……」
「…………」
「なんか、怖いぞ……いや、冗談だよ?緑町ちゃん」
「そんなこと分かってますから!」
再び強く緑ちゃんに返されて、須藤は友隆の顔を見た。
そして何とも言えない表情をしている。
俺は多分、青ざめてたと思う……
**********
「第二部が結構長くなっちまったな……」
「本当に申し訳ありません」
「いや、ごめんね……そう言うつもりで言った訳じゃないから」
「いえ…….本当に、あの、椚先輩、富海君……須藤先輩も、三枝君も……ありがとうございます」
緑ちゃんは椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。
そして、やっぱり……涙が浮かんでる訳で。
「俺、恩田さんに叱られちゃったよ……うん、いつも緑町ちゃんにばかり負担掛けてたと思う。すいません……」
「いや、ホント……私がぁ〜」
「緑ちゃん、止めよう。もっと自分が悪いって、何でも思っちゃうんでしょ?」
こくりと緑ちゃんは頷いた。
「あの、それで言い辛いんですけど、緑町さん、俺が不甲斐なくて……」
「ややっ、違うからぁ三枝君まで……」
「こりゃ三枝は緑ちゃんの上を行ってるぞ、愉快な仲間たちは緑ちゃんに感謝してるだけだから」
「……はぃ、本当に……ぁりがとう、」
何だろうね、優しさに触れるほど泣けて来ちゃうって状態なのかな。
あんまり泣いては欲しくないけどさ……こいつらが緑ちゃんを想う気持ちを知って俺も泣けてくるよ。
まぁ、悲しい涙じゃないっていうのは分かったけど。
それでも心配になるでしょ。
「皆んなで生き物の森でもやる?」
友隆がまた唐突に……
「緑町ちゃん、毎日ログイン義務にしそうだね」
「それもそうですね、やめましょう、やっぱやらないっす」
「私、生き物の森やってるけど……」
「そうなんだ、面白いの?」
「うん、なかなかタヌキがネコにならなくて……」
「緑町さん、ネコになるのはキツネですよ?」
「えっ?!そうなの?!」
「はい、キツネもただのキツネじゃなくて、タヌキモドキっていう種類の……」
「…………はい、もう帰るぞお前ら」
「げっ!!もうこんな時間?!」
「須藤予定あったのか?」
「いや、今日九時からレンガの家を建てる約束してて……俺レンガ集める係で」
「……あぁ、それもゲームの話か」
「わっ!三枝君すごいね!このキャラ見た事ない!!」
「このネコは特殊スキルがあってトッケイを2.5倍集められるんですよ」
「お前らやめろ、帰るっつーの」
「「はい」」
また、唐突だなと思った友隆の発言から、緑ちゃんのメソメソタイムは回避された。
もうこれ以上今日は話す事はない。
趣味の話はさ、ちょっと落ち着いたらまた……この緑町派閥で集まりゃいいさ。
「すいません、俺先に出ます。電車の時間が丁度いいんで」
「おー、友隆ありがとうな」
「あ!富海君私も……」
「いや、走るんで。緑町さん、お疲れさま」
「うん、ありがとうね!!ほんと!!」
ぺこりと友隆は会釈して颯爽と消えていった。
「俺らも帰るからな、片付けて全員で出るぞ」
「引率の先生だ」
「須藤、椅子を畳め。しっかり元通りにしろ」
「了解です、椚先生!」
「三枝、先輩の手伝いはしろよ」
「あ、すいません……」
「三枝君、キツネモドキありがとう〜」
「いえいえ、紅葉の季節の時にクマの穴を探すと見つかりますよ」
「えー!知らなかった……タヌキばっか集めちゃったよ……」
「タヌキもレアがいますからね、育ててみないと分からないのが生き物の森の醍醐味ですよ」
「そうだね、そうしてるうちに愛着湧いちゃって……」
「おい、お前らいい加減にしろよ」




