友隆の困難36
「あー……さっきの流れだと、多分、緑町さんが気付いてたかどうかって話になったと思います」
俺と恩田さんは目を合わせた。
まぁ、聞いちまうわな……全く気付かないってのは不自然だし。確かに聞いてどうこうって訳じゃない。
証拠が先に揃ってるからな。
緑ちゃんの記憶のズレがあったとして、その状態で池國になんらかの処罰があったら気持ち悪いだろう、そしてこちら側の疑問……その不自然さの気持ち悪さも払拭したかった。
だから恩田さんの質問はおかしいものじゃない。
「うん、それで?」
友隆が緑ちゃんを気に掛けつつも、なかなか言い淀むんだよな。
「……例え話ですけど、これは俺が思った事で……緑町さんを傷つけるかも……」
緑ちゃんがぶんぶんと首を横に振った。それを見て友隆は言葉を紡いだ。
「もし、自分がその立場に置かれてたら、例えば、学校で……虐められてたりした時に……多分、本人はそれ自体認めたくないっていうか……」
「会社は学校じゃないぞ」
その発言に恩田さんがスパッと返答した。
「ですから例えばで……自分が他人から嫌な事をされてるかもって思っても、まず否定したいと思います」
友隆って、そういうの分かる奴だったんだな……いや、まぁ、俺は知ってたけどさ。
「だから、緑町さんはそうじゃないって思いたかったんだと……きっと何かの間違いだって池國先輩の事を信じようと葛藤して、それでよく分からなくなったんじゃないかなって」
「そうなのか?緑町」
「ちょっと、恩田さん……」
「いや、これは富海の感想でしょ。緑町本人がどう感じたか教えて欲しい」
「……」
「……」
「……ぁの」
「……ぃ」
緑ちゃんはうなづいた。
「……」
そうだな、だから一人で抱えちゃったんだよな。
俺はどうにでもなるとか、結局解決出来るとか、本人の気持ちを考えてるつもりで、心を考えてなかったかもしれない。
「緑ちゃん……」
今にして辛かったよね、そこまで気がつかなくてごめん、とか、そんな事言えねぇよ。
頑張り屋さんだから無理してる、無理しても……大丈夫だって。
なんかそんな風に思っちゃってたのは否定しない。
けれど仕事だからさ、キツイ事も言わないわけにいかなかったよ。これを間違いだったと思ったらいけないよな。
仕事として、仲間として認めてるから言ってきた事で。俺も線を引いていた事だ。
「……」
「……」
「緑町、いいか?」
俺と友隆が何も言えずにいると、恩田さんが発する。
「……」
緑ちゃんは反応しない。
そして恩田さんもその後の言葉を紡がない。
少しの静寂の後、緑ちゃんが顔を少し上げた。
その瞬間だった。
恩田さんが立ち上がり、緑ちゃんに向かって大きく頭を下げた。
「ぇ……え?!何?恩田さん?え?」
「……」
「……」
「俺はおかしいとは思っていた。たまたま気付いたんじゃない、知っていた。けれど、どうでもいいと思ってた」
「……」
「なんで……」
「そのまま見過ごすつもりだった、けれど……」
「……」
「……」
「勝手な事だが、一緒に過ごすうちに愛着が湧いたんだと思う。お前らが頑張ってる姿を見て……」
「自分に責任があったから、糾弾した。緑町、お前が悪い事は一切ない」
そこまで言い切ると恩田さんは小さな声で、俺や友隆に謝罪の言葉を述べた。
たまたま発見した訳じゃないと、恩田さんは話した。
だから、この人は確認のために早朝から来てたんだ。
さっきピリピリしてたのも、須藤や三枝が集まれないのも。
俺は一連の流れに全て合点がいった。
「恩田さんも悪くないんじゃないですか?」
今度は言い淀まない友隆だ。突然吹いた風のように明言する。
「それ聞いて緑町さんは恩田さんが悪いなんて思います?思いませんよ?ね?緑町さん」
「ぅん、それは、そぅです〜!!」
赤い顔で懸命に、恥ずかしげにコクコクとめっちゃ早く頷くんだよ、緑ちゃんが……これまた輝く瞳で。
「結局当事者が、どう思うかが一番大事だと思いますよ。正しいとかそういうのは、自分や周囲の納得なんで」
「……ハハ、そうだな。俺らは別に道徳の授業やってる訳じゃねぇし」
「あ、それ学校じゃないって言った俺への嫌味?」
「あの、すいません。私、多分……ていうか、多分じゃなくて、気付いてました。でも言えなくて」
「うん、よく頑張ったな、緑町。本当に申し訳なかった」
「いやっ!!ちがっ……」
恩田さんと緑ちゃんはお互いに確かに半分づつ。譲りつつ、貰いつつ、渡しつつ。
ここに誤解はない。確かに分かち合う想いを俺も友隆も感じただろう。
ついぞ気が抜けたのか、俺は大きく息を吐いた。




