友隆の困難34
ん?
あ、またこの人ってば……。
「緑町さん……大丈夫ですって」
「ごめ、ごめんねぇ……私……」
もーホント、泣き方が痛々しいの!!こう、なんて言うか、泣きたくないのに頑張って泣かないようにするのに溢れちゃう感じの。
また、いつぞやに過った抱きしめて終わり……ってやつが頭に。
あー!!俺って奴はさ!!
愛の事で学習したじゃん。これってそうすればどうとでもなるとか考えるダメなやつ。
緑町さんにそう思うのは見境なさすぎだろ馬鹿!!
いや、でもさ、こう、母ちゃんも俺が悲しい時にぎゅっとしてくれて、それだけで救われたって言うか。
結論、それで『ちょろい』とか思ってやる訳じゃないんだよ!!
そうそう、そう言う事。
勿論、そんな事しませんけどね!!
俺は邪な気持ちと、幼き日の性善説の俺を戦わせていた。
で、緑町さんは、ぐっちゃぐちゃな顔なのにテキパキと会議室の電気をつけて、給湯室の扉と思しき場所を空けようとしている。
そう、辿り着きましたよ。
「開かない!開かないっ!!」
「あ?鍵かかってます?」
「いや、鍵はない、はず……」
緑町さんの涙は止まってない。本人は気付いてない感じで、ドアを押したり弾いたりしている。
「俺が開けますって、落ち着いて?」
「うん、落ち着いてるよ」
「その顔で?」
「え、なに、別に……」
いや、あなた突然泣き出してから、そのまんまですから。
「顔が……」
その言葉に、涙と一緒に出てしまった鼻水を啜った時に気付いたらしい。
突然フリーズして、両手で顔を押さえた。
「あのさ、緑町さんお手洗い……」
「富海君の馬鹿!!」
そう言い残して居なくなってしまった……
俺は呆気に取られて、代わりに握った開かない給湯室の濡れたドアノブから手を離せぬまま。
「……」
そうして居てもしょうがないので、ふっと、手を離して自分の手のひらを見た。
うーん、俺ちょっと前まで絶対こういうの無理だったんだけどな。
シャノのトイレ掃除で大分鍛えられてるわ。
とは言え、この手をどうしていいのか分からず無意味に左右に振ってみるが頼みの手を洗える給湯室の扉は閉ざされたまま。
そんな感じでどうしたもんかとしていると……椚先輩じゃねぇか。
入る前に、ドアを開けた瞬間匂いでわかる。
「香水つけ直しました?」
「コロスゾ……バカ……」
スーと、お化けのように会議室に入ってきたこの人。
この言葉に意味がわからなかった俺。
明らかに俺を睨む訳で。
「えーと、なんすか?」
「ピシャビシャの緑ちゃんとすれ違ったけど」
「あぁ……はぁ、そうでしたか」
「……話聞けたか?」
「早すぎますって、でも戻ってきますよ」
「そう言う問題か?」
「俺が泣かした訳じゃないんですけど……」
「……」
「……」
「何してんの、お前」
「えーと、給湯室が開かなくて」
「……で?」
「あー、手洗いってどこにあります?」
「近いところは女子しかねぇよ」
「えー」
「なんだよ?」
「いや、緑町さんの……鼻水??」
椚先輩がなんとも言えない青い顔で俺を見てくる。いや、多分事実だし……
そして椚先輩はやり場がなく天井に向けたままの俺の手のひらを徐にーー
「ーーきっしょ!!お前!!きっっもちワル!!」
椚先輩が俺の手のひらの匂いを嗅いだ。
多分嗅いだ。絶対嗅いだ。
「嗅ぐわけねーだろ!!様子を確認しただけ!!」
あれ、心の声聞こえた?
「何で顔近づけたし?!なに?!なに?!キショクワル!!」
「気のせいだって!!止めろ馬鹿!!」
「馬鹿はアンタでしょ!!キモいキモい!!」
「はぁ?てめぇ……誰に……」
ガチャリとドアが開く。
その音に二人で目をやると恩田さんが冷ややかな目で、入るようで入らずに覗いている。
「……」
そしてバタリとドアが閉まった。
変わる事なく会議室には俺と椚先輩だけ。
「「ちょっと!」」
入る事なく出て行ってしまったのだ。
椚先輩は鞄からウエットティッシュを俺に投げつけて、恩田さんを追っていった。
取り残され、冷静に手を拭く。
「マジで、……」
ヤバすぎんだろ色々と。




