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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
緩やかな修羅場

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独壇場、恩田

「富海は流石ですね、周りがよく見えてる」



 俺と恩田さんは、飯の前にいつものベンチで話を始めた。


 飯とドッキングしたかったが、結局この話をしておかないと呑気に食い物を喉に通せない。


 どちらからという訳でもなく、自然とそうなったんだ。



「今日は外回り関連も緑町だけですからね、あいつなら充分出来ますよ」



「そうか、そうですね……」



「……で、恩田さん朝は」



「朝はね……なんか、どこから話そうか?頭では整理してたんだけど」



「はい……」



「いや、俺って普段単独業務でしょ?緑町の事は気付いちゃいたけど俺には無関係だって思ってて。」



「はい」



「いや、違うね……えーと今朝の経緯ね」



「……すいません」



「何で謝るの?別に椚さんからプレッシャー感じて言い直してないから」



 いや、図星。結論から教えて欲しいって顔に出てたんだろうな。この人はホント、大人だよ。楯突いてすいませんって感じるトコです……。



「ある日ね、緑町のタスクチェックがあったんだよな、俺添削は直添削しないからさ……コピペが残ってて」



「それ、二度手間だから一応、禁止してます」



「都度の効率化を図ったら、そうだろうけどちゃんと見返して欲しいからさ……」



「……」



 うん、概ね同意ですよ。これをやっていいのは恩田さんに限りだけどな。


 自身の業務を滞らせる事なく、指導に付き合うって事。つまりは期日に仕上げるまで見守るんだから大変な事だ。



「で。見つけちゃったのよ、俺が緑町の仕事と思って添削した文書」



「それが池國担当になっていたと……」



「改めて仕上がったものなんて、担当しか確認しないじゃない?引き継ぎや続行の見返しでさ」



「はい」



「俺、今日椚さんの叔父さん……社長に会いましたよ」



「うわっ!!何時に来たんすか?」



「お年寄りは朝が早いって本当だね」



「うちの会社は社長出勤が最も早い会社ですからね」



「警備員さんしか居ないと思ってたんだけどね、会社でしか確認出来ない資料読み込むのにさ」



「……」



 俺はここで胸が締めつけられた。


 事なかれ主義、そんなに頼っちゃいけないなんて考えてたんだからさ。とんだ眼鏡違いだよ。



「それで発見したんだよ、池國が言い逃れ出来ないぐらいの証拠を」



「……」



 だから、当事者目線で押し付けてたって話じゃなくて仕事を盗ったとまで言う事が出来たんだな。



「後で証拠……事実確認はお願いしますね」



「恩田さんの話を疑う余地ないんですけど」



「そこは、ちゃんと目で見ないとさ」



「はい、仰る通りです……」



「悪い、昼休憩どうかな……ちょっと言い訳させて欲しい」



 俺はこくりと頷いて、恩田さんの目を真剣に見た。



「俺はさ……真面目に、覚えて損のない業務は緑町に限らず後輩に極力ふってたんだよ」



「はい」



「ぶっちゃけチェックめんどくせーし、俺がいる間に相互扶助にはなり得ないと思ってたからさ」



「……」



 ドライっすね、そう思いつつも俺は頷くだけだ。



「でもやっちまったなーって思った」


「関係ないって思ってるくせに、教えてやるどこかいい先輩であろうとしてたんだよ」



「……」



「そうやって、教えてやってるつもりで緑町のキャパ溢れさせたんだ」



「いや、それは……」



「溢れた瞬間は関係ない。注いだ奴ら全員の責任だよ」



 恩田さんはフッと笑みを溢して自嘲しているようだった。そして直ぐに俺に向き直る。



「俺はお前らみたいに身内ノリで常時面倒見れないからな。仕事は仕事で割り切ってる」



「……」



「どうあれ緑町が辞めるんならそれもしょうがない」



 まぁ、確かにそうだ。止めきれない事もある。緑ちゃんの気持ちを矯正するなんて事は考えられないさ。



「でも、責任の一端があると思うから……思ったからさ、今朝なわけで」



「あの、本当に……」



 俺は恩田さんの存在にとにかく救われた。


 感謝してもしきれない、そのお礼をどう言っていいのかただありがとうございますなんて言えなくて。



「それも含めて……


 ………申し訳ありませんでした」



 最敬礼をする恩田さんの頭頂部を俺は見てしまった。


 他人の(こうべ)なんてそう見るもんじゃない。


 俺はドキドキとも、ハラハラともわからない胸の鼓動を感じた。



「いや……謝んないでください」



 事実を確固たる形で明らかにしてくれたんだ。


 先輩、同僚、課としてこんなにも力添えしてくれる人はいない。


 だから、だから。



「仕事を停滞させたのは俺の責任です……富海にも迷惑かけました。池國の仕事は俺が深夜残でもなんでもしてやります」



 そう言い切り、恩田さんは申し訳なさを含んでいるのに……爽やかな顔つきに見えてしまう。



 もう、俺が反論出来る余地がない。



「……じゃぁ、半分お願いします」



「いや、半分を椚さんがやる必要もないです」



「いやいや、俺午前中あいつとずっと話してた訳じゃないんで」



 あちゃー……これをバラすつもりはなかったんだが。



「……え」



「いやー、ちょっとあの雰囲気の課に戻ってタスクコントローラーしながら自分の仕事と池國の仕事はできなかったんで」


「別室で仕事させてもらいました」



「……………ひでー!!」



「だから恩田さんが友隆に迷惑かけたっていうより、俺がやらんでいい事やらせただけなんで」



「いや、いや!……でも結局発端は俺なんで!!」



「ちょっと友隆の能力値の棚卸しも兼ねてたんで……」



「富海が一番のとばっちり被害者じゃん……」



「そうかも……」



 俺と恩田さんは顔を見合わせ、笑いが堪えられなかった。



「ーー俺もさ、同じ世代に富海みたいなのいたら、もっと仕事への向き合い方変わってたかもしれません」


「は……」



「うちの課は寄せ集めっていうか、ちょっと特殊じゃないですか」


「何でも屋を集めて詰めた感じで、同期以外の社歴もよくわからなくて」



「まぁ、そうですね……」



「なんか、そういう育て方は同意しかねますけど……富海みたいに色んな人から期待されてたり、俺も期待する側だったらさ」



 恩田さんは口を開けたまま飲まれずにいたコーヒーを喉に流し込んだ。



「恩田さん辞めるんすか?」



「……コッワ、今直ぐじゃないけどなんでそう思ったの?」



「いや、後輩が相互扶助になり得ないってくだりとか。長く腰を据えるんならそんな言い方しないかなって」



「嫁んとこの家業継ぐかもしれないんで」



「……」



「でも、すぐにじゃないけど。別の道が先に見えてるってだけ」



「そうすか……俺はドライじゃないすけど、恩田さんが辞めるってときに引き留めはしないですよ」



「ん……」



「……」



「それぞれの道だな。そんで、出来ることは全てやってさ」



 俺は再び頷くばかりで言葉を挟めない。



「周りの力借りるのも、借りる力があるってことだし」



「ま。後は頼みましたよ」



「はい……」



 俺もほったらかしていたコーヒーを一気に飲んで、恩田さんに手を出すと空の缶を渡してくれた。


 ゴミ箱にそれを落としつつ、時間を考えると飯は食えそうにない。



「後で、コンビニのお使い頼みます?」



「あー……俺それあんま好きじゃないけど」



「まぁまぁ……」



「俺が買ってから戻りますよ。椚さんは富海に必要ですからね」



 俺はその言葉にぽりぽりと頭を掻いた。



「緑町来たらなんていいます?」



「池國いないの喜びますかね?」



「いやー単純になんかあったって察しちゃうんじゃないですか?」



「はは、そうね。この問題はまだ序章ってことね」



 そうだ、解決じゃない。なんか起こった事がデカすぎて……もう。



「あ、椚さん」



「はい?」



「椚課長が決まったら俺に最初に教えてよ」



「…………情報通っすね」



「そりゃ、社歴はあるからね」



 あっけらかんと、投下される言葉に俺はたじろいた。ここで怯むと勘繰られちゃうよな。



「あー……不可抗力で先に知っちゃうやつがいても、許してくださいよ」



「ハハ……課長の身に何が起こっているのやら」



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