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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
緩やかな修羅場

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友隆の困難29

「椚先輩、池國がーー」



「や!!ややや、違います!!違いますから!!」



 突然電源が入った池國さんに、俺はなんだか可笑しくなってしまう。



「何だってんだよ……朝から」



 椚先輩は肩やら首やら回しつつ、自分のPCの電源と今日も不在……課長のPCを立ち上げた。


 そして俺の方をチラリと。


 見るな見るな、俺を見ても分からないって。


 その俺の様子から判断したのか、椚先輩も現状の把握に戸惑っている。



「椚先輩!」



「いや!違います!!」



「まだ何も言ってないだろ!」



「違うんで、誤解されるんで!!」



「あーまてまて、分かった。二人共一度黙って」



「……」



「……」



 負けず劣らず、椚先輩も重低音を出して恐いな。


 でも恩田さんとは毛色が違う。椚先輩のはパラメーターの問題で多分寝不足だ、この人。



「まだ朝、始業前……今始業だ。一日……」



「……」



 椚先輩は話しつつ思案しているようで言葉が途切れる。けれども先の『黙って』が効いているのか二人共々主張はしない。


 

「友隆、ちょっとタスクコントール入れてくれよ」



「はい、了解す……え?」



「ちょっとこっち来て」



 俺は呼ばれるがまま、課長のデスクに向かうと肩を押されてそのまま座る形になった。



「普段俺がやってるようにすればいいから、これな。須藤は二時間置き、三枝は……」



 淡々と普段課長や椚先輩が行なっている業務の説明をされる。



「分かったか?」



「え、戻らないんすか?」



「そら、内容次第だろ」



「……」



 俺の方でなく、恩田さんの方でもなく、椚先輩は確かに池國先輩の方を見据えて言った。



「椚さん、緑町は?」



「あー今日直行の仕事行って貰ったから」



「そうですか」



 恩田さん、役者だ。流石っす。それ、ここで聞かないとちょっと変だもんな。椚先輩の作戦というか、今日の話し合いの予定では恩田さんは把握してるはず。


 でも知らない前提をちゃんと守ってる。



「じゃ、先行はどっちがいい?」



「ぇ……」



 思わず抜けた声を池國先輩が出す。



「どちらでも構いませんよ」



 そして余裕の恩田さんだ。


 対照に、そろりと手を上げる池國先輩。



「じゃ、恩田さんからな」



「なんでっ!!」



「分かったよ、池國からな」



 流石管理職の器、課長代行の椚先輩だ。


 こういう冗談を交えて周囲の緊張をも解してくれる。殺伐とした空気の換気。


 こういう処は素直に尊敬しますよ。



「そんな、熱い視線送るなよ友隆」



「送ってません、俺は自分の仕事巻くんで早くしてくださいね」



 あ、これ、いつもの俺じゃん。



「じゃ、いくぞ池」



「は、はい……」



「……ったく、さっき来たばっかなのによ」



「すいません……」



 ぶつくさ言う椚先輩の後を、ソロソロと池國先輩は着いて行った。



 完全に見送った所で、周囲からキーボードの音が徐々に聞こえ始める。


 そら、仕事に集中出来るはずもなかったですよね。


 俺は椚先輩から振られたタスクコントールの業務の確認をしてから自分の仕事に着工した。



「富海、PC変わってやろうか?」



「え……」



「俺のPCでログインしろよ、課長のデスク行ったり来たりすんのちょっと近いぞ」



「あ、いいんすか?」



 恩田さん、それよりさっきの話が聞きたいです、でも今じゃない事はわかってます。


 お互い目配せして通じるものがあった。


 何より先程とは打って変わって、いつもの穏やかな『恩田先輩』がそこには居た。


 俺は安堵共に頭を切り替えて仕事を始めようとしたところで、俺を呼ぶ声が……。



「富海君、さっきの……」



 三枝。


 そう、三枝。



「三枝、ごめんね、聞くのは富海じゃないよ」



 すかさず割って入る恩田さん。


 

「……俺は富海君に」



「今、気にしてもしょうがないよ。確認し終わって、緑町さんが話してくれるまで待とう」



「……うん」



 俺が三枝をやり込めると恩田さんがパーっと嬉しそうな顔を向けてくる。


 俺も釣られて変な笑みを向けてみた。


 ……この辺は相性なんだろうな。三すくみの関係みたいな。


 俺は全然平気なんだよ。話の通じない奴だってよく愚痴の対象になってるが、俺はそんなコミニケーションに困った事はない。


 いい奴だよ、ちょっと緑町さんに盲目だけど。


 あ、椚先輩の恋敵だったわーどっちもどっちじゃん?


 嫌われ具合からすると三枝優勢か?



「ーーやべ」



 俺はこの課で一番集中出来てないと気付いて、つい声が漏れてしまった。





**********





「なんか、仰々しくないっすか?」



「ん?そうか?わかんねぇけど、お前が慌ててたからな、人目が無い方が良いだろ」



 俺は池國を連れて面接室に普段は使われている、少し隔絶された部屋に来ていた。



「すいません……」



「おー」



「……」



「……」



「……」



「……あ?」



「え、ぁーどこから話したらいいのか……」



「んー、お前の話は信じるよ。信じるけど一応な、嵌めるつもりもないから言っとくぞ」



「はい!」



「課長のIDからは各々のタスクは見える化されてる、だからうっかりでも嘘になるような事、そう捉えかねない事は言わないで欲しい」



「……」



「そんな、つまんないことで俺も疑いたくないからさ」



 そこまで伝えて俺はどうぞと、手のひらを出して言葉を待った。



「……」



「……」



 池國から言葉は紡がれない。


 俺は平常心のつもりだ、怒りを乗せてて聞いたりしてないはずなんだよ。


 でも、何も言わない。



「……」



「ぇぇーと……」



「……」



「……ぇー」



 ……やべぇ、俺今このテーブルぶっ叩きたい気分だわ。


 落ち着け、落ち着け。



「池、わかんねぇけどさ、やっちまった事はしょうがないんだよ。今、変えられることじゃない」



「えと……それは……?」



「いや、知らねぇよ」



「……はぃ」



「どうするよ、恩田さんの話から聞くか?」



「いや!!それは!!」



「おう!話せ!!」



「あー!!あぁぁー!!」



 俺はノリで同じテンションで返したが、池が叫びはじめて驚いた。


 髪をワサワサっと掻いて、頭を横に振っている。



「……」



「ぅー……」



「……池、ぐに?」



「緑町がぁ、仕事できないんでぇ……ハァ……俺の仕事をぉ、教えてただけなんすーぅ……」



「……」



「ハァ……ぁー」



「それで?」



 俺は怯まない、一瞬ビビったが動物的な戦いをしたとて池國に負けそうにはなかったからだ。


 んーでも。友隆は俺より大分小振りだが、あいつはじゃれた感じ強かったよな。


 負けが過るくらいに……池の戦闘力はどうだ?中肉中背、スーツ着てるからわからんな。


 でも俺よりは……そもそもタッパが違うからな。


 そうは喧嘩も売られもしなきゃ……あーいや、友隆は例外な?


 いやー負けない、負ける要素がないわ。


 俺は目を細めて、池國の肉体をジロジロと観察してしまった。


 結論、立たせてみないとわからんな。


 そんなどうでも良い事を俺は考えていたが池國には違うように見えたらしい。


 

「そんなぁ……椚せんぱ……睨まないで、くださーよーぉ……」



「……」



 俺はフーと強くため息を吐いてしまう。


 ダメだ、恩田さんから聞いて細く説明させりゃよかった。


 俺は後悔にかられつつも、コイツとの時間を有意義なものにすべく言葉を考える。



「いや、池、言い訳しないのは凄いことだぞ」



「……ぅうー」



 まだまだ動物だな、こいつ。



「なんかやっちまったって思ってんだろ?そんなお前を怒ったりとか、叱ったりとかじゃない、恩田さんとも働き続けるし、緑町とも働き続けるんだ。今、教えてくれよ?」



「……」



「な?」



「俺の、案件、緑町に振りました……仕事覚えてもらうのに……でも、おん、恩田さんは俺が、緑町の、しごと、しご、しごとを盗ったって……」



 ーー怖い中年だな。


 男が子供のように泣きじゃくってる感じじゃん。いや、涙は出てないのに、この嗚咽だけ漏らしながら話す様子が……



「恐怖なんだが〜」



「はぇ?」



「そうか、じゃぁチェックも池がやってたんだな?」



 俺はつい出た……というか、ワザと出してしまった言葉を無かった事にして話を進めた。



「…………」



「ん?」



「……」



「ちゃんと習得の為の指導してたんだよな?」



「……」



「聞こえないぞ、なんだって?」



「ぇ〜…………」



「うん、それで?」



 俺はエスパーではないが、池國が何か発言している程で相槌を打つ。



「……してまぇん」



「ん?」



「してませ……」



「あ?」



「して、してますん」



「……」



「それ、緑ちゃんに仕事押し付けてたよな?」



 おっと、感情が載ってしまった。



「緑町に仕事押し付けてたのは事実か?」



 俺は言い直して、こればかりは池國のはっきりとした返答を望んだ。



「……」



「答えないなら、そうだと捉えるぞ」



「…………」



「そうなんだな?」



 池國は首を縦にも横にも振らない。正直肯定してるのと同じだ。


「……」



「池國……お前、緑町に直接、」



「は…」



「直接仕事が出来ないって言った事は?」



「…………ます」



 言葉尻だけを聞いて俺は勢いよくテーブル叩いていた。


 緑ちゃんが自分は仕事が出来ないと自認するに至った経緯。正直、ある一面だけ彼女が強気ってのは解せないんだよ。


 昔は違ったから。皆んなのお世話を焼くお姉さんポジションだった。


 有能な奴が入ってきて、打ち砕かれた部分もあったかもしれない。


 けれど、それだけで緑ちゃんがああも仕事が出来ないから仕方ないと思い込んでしまった理由。


 それはコイツだ。


 コイツだろ。



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