友隆の困難27
「……」
「あー疲れた……緑町さん仕事辞めたいってよ!シャノ!!どうする?!」
俺は通話終了の文字を確認して叫んだ。
シャノはキャットタワーで声に反応しているようでチラッと片目を開けている。
「シャノシャノ、シャーノ!!」
吹っ切れたかの如く、シャノの元へ行き首元を摩った。
「……」
シャノはただゴロゴロと喉を鳴らす。
「……やぁねぇ、俺ってば」
一過性の発作を収めて俺はソファーにボスリと座り込んだ。
ーーそっか……もう辞めたい所まできてたんだな……緑町さん。
「……」
俺はどうしても愛と重ねてしまって、緑町さん自身の気持ちの理解に追いつかない。
辞めたからったら、辞めたらいいっていうのは愛が彼女だから言えたこと。
でも、辞めたいって思うのなら……
それは仕方ないんじゃないか?
そうどこかで思ってしまう。
「誠さんに連絡する?」
俺はチラッとシャノを見てこう言った。
シャノは尻尾をパタパタと振る。
「しないしない、緑町さんの気持ち勝手に話せねぇよ……それって、なんか裏切りじゃん」
どうかな、そんなことないかな。
でも仕事を辞めるってのは、簡単に言えない事だから……周囲に伝われば伝わるほど言った通りに意思を固めなきゃいけなくなるような気がするんだよ。
「どうしたもんかね……」
「……」
そうだよ、俺には何の力もないけれど緑町さんの現状は変えなきゃいけない。
そのために俺の出来ることをやろう、例えば……三枝を育てるとか?
恩田さんに根回しするとか?
そんなよーな事か?……後、須藤先輩はPC業務からっきしだけど営業強いから。
その方面で緑町さんには……うーん、それじゃ見合わねぇか。
後出しで聞いちまったけど、須藤先輩のポンコツは局所的なものだから、比重が全然違う。
営業のが圧倒的に重い。
PC業務が人並みまできたら、我が課のスーパーエースにもなりえるよな。
そう言う面があっての甘えというか、許容されていた部分と言ってもいい。
椚先輩も須藤先輩に習得確認するなんて言ってたけど……今更だ。
「あー……なるようにしかならねぇ……」
俺は身体をソファーに倒し、スマホの履歴を意味なく弄った。
プライベート用のスマホ。
直近は椚先輩とのやりとりばかりだな。
社用も殆ど椚先輩ばかり。
使い分ける意味あるかって感じ。
「……」
ある期間を置いて遡ると、並ぶのは『瑞江 愛』この名前ばかりだ。
家と職場の往復で、関わる人は愛ばかり。
「ーー俺って結構、隔絶された生活してたんかね?」
シャノに問うても答えはないさ。そうだよ。
「……」
っても、同僚ってだけだからな……緑町さんや他の人達ともっと関わっていれば何か違ったか?
時折見逃す程度に、緑町さんの名前も出てくる。
ーーちょっと気を配れば変わったか?
俺に何が出来たって言うんだろうね。そこは椚先輩じゃなきゃ。
そう思って、動かなかったのかもしれない。
けれど緑町さんが頼りたかった人……俺?とか考えるのは拡大解釈かな。
「でも、やっぱり頼りたそうな感じはしてたよな」
「な……」
俺は変に思考を巡らせたせいで、このまま寝付く事も出来そうになかった。
シャノを見ると大欠伸。くるりと尻尾を畳んで目を瞑る。
「んーちょっとお酒飲んでもいいかしら?」
シャノはピクッと耳を動かした。
「いいよね、明日に響かない程度にさ、そんで酔った勢いで……いや、誠さんに連絡はしないよ?」
最早酔っ払ってるんじゃないかってくらい俺の思考は行ったり来たり、要点を得ない。
そういや愛からいつ連絡が来てもおかしくないよな。
そっちの方面にも俺は備えとかなきゃいけないんだよ。
シャノが居なくなって……マジの独り言は辛いじゃん。
俺はなんだかんだ、シャノを手放した時の未来も考えてしまうんだ。
「あーやべ、」
「俺、緑町さんの事もう頭から消えてたわ」
そんな器用じゃないだよ。
器用は椚先輩の担当で。
そんな事を考えていると、電話が鳴る。
椚先輩……
俺は何となく、電話を取るのに躊躇した。
なかなか切れないコールにいよいよ通話ボタンを押そうとした所。
電話は切れた。
ホッと、安堵。そんな気持ち。
けれども椚先輩からの連絡は何も緑町さんの事ばかりじゃない。
俺が取りかねたのは、緑町さんから連絡があった事を白状しそうだったからだ。
「愛の事だったらどうすっか……」
そんなんで、かけ直そうとすると今度はメールが到着する。
俺はおそるおそる要件を知るべくメールを開いた。
するとなかなかの長文。おそらく電話に出なかった時に用に予め打っていたものなんだろう。
「なんだ、緑町さんの件だ」
なんだって事はないけれど、俺にとって大きな腹積りが必要なのはやっぱりシャノの事。愛の事だ。
「…………」
「ーーそうね」
椚先輩も悩んでいる様子だった。
俺がバラすまでもなく、緑町さんが辞めたいと考えている事も察していたんだろう。
だからこそ、対応が慎重になる。
そうじゃなけりゃ、あの場で当事者吊し上げて終わりだったのかもしれない。
「結局、内内で緑町さんを守る感じか……」
俺は椚先輩から当然の如く超解決的な案が出るものだと思っていた。
がっかりなんて思ったら失礼だよな。思い込んで見切り発車しないのが大人の対応だろう。
『緑ちゃんが、辞めるって先制攻撃してきたら友隆が二人きりで話し合うよう誘う事。』
「って、なんじゃこりゃ……」
既にね……さっきお止めしましたからね。やっぱ見えてるもんが俺とは違うみたいだ。
「あー、話してぇわ。抱え切れねー!!」
俺はそう叫ぶだけ叫んで、ソファーでバタついていた。




