友隆の困難25
あーやべ、なんか全然帰る気起きねぇ……
まーじで今日は疲れたよ。
腰が重い。
帰路の道中が長すぎるって思っちまう。
「……」
友隆にタバコやっちまったの失敗だったな。
もう少し考え事すんなら今必要だったわ。
ま、しょうがねぇよな。
ーーそんな事を考えていると電話が鳴る。
「……」
恩田さんだ。
「はい、椚です。お疲れさまです」
『お疲れさまです、椚さん今大丈夫ですか?』
「はい、どうされました?」
『あの、緑町の件なんですけど……申し訳ありませんでした。緑町にも連絡したんですが、電話には出なくて』
「……」
『もしもし?椚さん?』
「あ、いや……すいません。恩田さんは別に悪くないというか問題ありませんよ」
『ハハ……いや、やっぱり椚さん相手だとさ』
「三枝の件、ありがとうございました」
『あぁ〜アイツ!ヤバすぎね?!』
はい、ビジネスタイム終了のお知らせです。
「分かった?そうなの!!恩田さんマジでナイスでしたわ〜」
『話が飛躍して俺マジでどうして良いのか分からなくなりましたよ!!』
「すぐ話がとっ散らかるでしょ?」
『そーなの!あ、椚先輩、あれ演技でしたよね?』
「まぁ……全員にバレる感じでした?」
『いや、俺は椚先輩が富海に仕事振ってるの分かりましたから。他のメンツはそんな余裕なかったんじゃないかな?』
「流石!恩田さんは我が課の最後の砦!」
『あーで、緑町の件は富海から聞きました?』
「大丈夫みたいですから……」
『そっか、良かった……あの子、頑張って欲しいですよ』
俺は恩田さんのこの言葉に安堵した。
きっとこの人なら協力してくれる。
そう思えるような言葉、感情を電話口から感じた。
「あの、恩田さん。緑町が仕事押し付けられてるのって……」
『あぁ〜そうだね、何かそんな感じはするけど?仕事そんな速いほうじゃないしね、大変だよ多分』
「……」
『何?そんなに深刻な感じ?!』
「俺、恩田さんは信頼してるんで言いますけど」
信じきれてなかったんで、確認したとは言えませんけど。
『…………マジ?』
「はい、ヤバいでしょ」
『……俺が言おうか?』
俺は驚いた、事なかれ主義と思っていた恩田さんが火の中に飛び込んでくれると言う。
いや、社歴を考えると恩田さんからして恐いものはないのだろう。
ぶっちゃけ自分で完結出来ない事はないから、周囲とのやりとりも不要な訳だ。
緑ちゃんに振ってた仕事も、どっちでもいいスタンスのもので自分でやっても充分間に合う程度のもの。
単純に業務習得の為に与えてるレベルのものでしかなかった。
「結論、緑町も変わらないといけないって思ってて」
『あー……それはそうだね。出来ない事は出来ないって言わないと結果迷惑だからね』
これは友隆と同じような見解だろう。俺も本質的には同意なんだけどさ。
緑ちゃんが悪い訳じゃないって庇いたくて仕方がない。
やっぱバイアスかかってるよな……恋は盲目的な。
「で、ちょっと話し合いがしたいんだけど」
『特定の人物だけでしたいって事?』
「話が早くて助かります」
『三枝は?』
えーやっぱ三枝はいるの?俺は話拗れそうで嫌なんだけど……ってこれもバイアスかかってんのかな。
『話ややこしくなりそうなんで、出来れば……』
呼びませんと言おうとしたところで。
『あーいや、三枝は必要か?緑町の事は分かってて貰いたいよな、育成担当だし』
元々は友隆の育成担当だったが、仕事効率が良すぎて育成に充てがうのが勿体ないと。
結果、三枝と揉めない緑ちゃんが育成担当になったんだよな……。
あ、そん時の三枝との関わりで、良いやつって友隆は評価なのか?あいつ本当わかんねぇよな〜。
基本、トモは爬虫類だからな。
「考えときます」
『ところで明日殺伐とする予定?』
「あーいや、そのつもりだったんですけど……」
『……難しいね、須藤は休むかもって』
「は?アイツは関係ないでしょ」
『ごめん、俺が話しちゃったんだよ……椚先輩が帰った後さ、あの発言はヤバすぎるって』
「……」
関係ないわけじゃないが、そこじゃねぇってとこに飛び火しちまってる。
『あ、呼び出して二人きりで話したから!』
「もう、ホント流石としか……俺が呼び出して二人きりになったら、ヤバいっすね」
『ちょっと裏来いよ的な?』
「そうそう」
恩田さんは色々安定してるな。
話しててホッとする。
こんな風に冗談めかして、真面目な話も出来る大人なんだよ。
『まぁ、明日は空けとくよ、あと須藤を引き込めそうだったら引き込んどくね』
「……すいません、俺が言うと多分萎縮するんでアイツ」
『そうだね、椚さんは何を言っても社長の甥っ子だからさ恐れる部分はあるよ』
「マジで俺に何の権限もないんですけどね」
『わかってるよ、そういうの振りかざしたりしてるわけじゃないしね。いつも皆んなの取りまとめ助かってるよ』
「ウス……」
『あ、でもホントにコンプライアンスは気をつけてね、富海も言ってたけど』
「はい……」
『じゃぁ、お疲れさまです!明日よろしくお願いします』
「はい、こちらこそ、失礼します」
切ったスマホを眺めて、俺はため息を吐いた。
恩田さんは想定以上に援護してくれるようで驚いたが……こりゃありがたいね。
「……」
皆んな、何だかんだ気付いてはいるんだよな。緑ちゃんへの仕事の押し付けは。
けど、自分だけじゃないと思ってなのか、補佐業務なんて適当に振って良いって思ってるのか。
罪悪感なんて持つまでもなく、当たり前のように振り投げてる。
俺は疲労の溜まった目頭に自然と手が入った。
「……」
あ、ヤベ……帰って資料作成と緑ちゃんに直帰の仕事通達しておかねぇと。
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「シャノ、ごめんな!!」
大変だ、遅くなり過ぎてドア前の出迎えがない。
俺はそのままリビングへ入り電気をつけシャノを探した。
「……」
ソファーで腹を出して寝てやがる。
「シャノ、ただいま」
そう声をかけ、俺が腹をちょこちょこっと触るとくるりと丸くなってダンゴムシのように身体が閉じる。
電気がついて眩しいのか目を覆ってる。
その様子に俺は何とも言えない気持ちになった。
良かった、シャノ……
部屋も特に異常はない。
スツールが倒れて猫じゃらしがはみ出てるが、もういつもの事だ。
この片付けをする前に飯をやってやらないとと思い、俺は戸棚に手をかけた。
キャットフードを持ち上げた瞬間、シャノは既に足元に……
アォ……ァ〜〜
「なんだよ、あくびしながら……眠いなら寝てろよ」
「お前、別に俺の帰りを待ってる訳じゃないのな、出迎えがなくて寂しかったぞ」
アン……ニャ
「そうかそうか」
何が『そうか』なんだか。
「シャノも寂しかったにゃーってか?」
「……」
俺はセルフビンタをかまして、餌やりとトイレ掃除をすませて風呂へと向かう。
俺はもう、この頃には緑町さんから連絡が入るという事をすっかり忘れてスマホは放り投げていた。




