友隆の困難22
夜も更けて……って十九時ですよ〜
どうして誰も帰りませんか〜
定時から二時間過ぎてますよ〜
俺は明日の仕事もかなり盤石だ。
終わらせるのは不可能だが終日手付かずでも取り纏まるね。
つーか、もう集中が切れた。
シャノが腹空かしてると思うと、とっとと帰りたい。
普段なら平気で帰るけど今日、椚先輩残して帰るのおっかねぇもん。
今から悶着が起こらないとも限らないので。
誰に言い訳しているのか。
俺はスーツの裾についた、シャノの毛を発見してくるくると弄んだ。
「……」
前はこんな事にイラついてたもんな〜。
毛の一本二本、可愛い贈り物じゃん。
「……」
ダメだ。
帰ろう。
俺はPCをシャットダウンして、わざと音を立ててキーボードを拭いた。
帰るアピールね。
「明日外回りの予定入ってるやついるか?」
「……」
「……」
椚先輩の声にパチパチっと各々タスクを確認してる。
明日の事ぐらい把握してるんだから、すぐ返事出来んだろーが。
ダメだぞー逃げられないからな。明日はあれだ。
あれ、そう、食器が粉砕されて床にばら撒かれる。
……それは俺の話か。
「明日の外回りはありません、帰ります、お疲れさまでした、お先に失礼します!」
「おートモ、お疲れ、俺もそろそろ帰るかな」
いつもの椚先輩だ。
アンタが帰るなら、俺も安心だよ。
「椚先輩……あのー明日は……」
「おう、外回りはないな!残業多いヤツは早く帰れよ!」
「……はぃ」
椚先輩、性格良すぎるよな〜分かってて聞くんだから。
俺は課の扉に手をかけて、フッとつい笑いを溢してしまう。
扉を閉めようとすると後ろから影が。
「……お疲れさまです」
もう、支度終わったんかい。
鞄を持って椚先輩が来たのでドアが閉まり過ぎないように手を添えて、結局二人で課を出た。
「友隆、色々助かったわ」
「いーえー」
「緑ちゃん大丈夫だった?」
「まぁ、今更って感じ」
「そうか……シャノピー何時にご飯?」
「……駅前のコーヒーぐらいなら」
椚先輩は俺の頭をくしゃくしゃっと触ってきた。
「なんすか」
「ウチのトモは賢いなーと」
普段なら腹に一発入れてるところだろう。
今日は、そんな気は起きないです。
椚先輩も色々大変だってよく分かってるつもりですから。
しっかし、午後からはジェットコースターだったな。
長いようで……あっという間にすぎた一日。
駅前のコーヒーショップで腰を据えるまでに情報共有をする。
「緑町さん演技だって気付いてたって」
「ほんと?ソコだけは心配してたわ」
「でも泣かしたのは事実じゃないっすか」
「あー、ほらすぐ泣くじゃん?」
「すぐ泣く緑町さんのせいにするんです?」
「好きな女の子泣かす覚悟が俺にはあるんだよ」
「うわー迷惑な大義名分」
「やめろよ、あの場では最善だと思ったんだって……」
「……緑町さんにも問題ありますからね」
「……いや、うん、そうかな」
「泣かした人は言えませんけど」
「……」
「冗談です……」
「いや……難しいよ、そうせざる負えない環境が悪い、なんて言い出したらさ」
「仕事ですもん、どこで線引くのかは……お任せしますよ」
「そら、課長にやってもらわんとな。俺が線引きしたら緑ちゃんだけチートになっちゃうよ」
「泣かしたくせに?」
「やめろよ、うちの課は学級か?」
「あー今日は動物園かと思いました」
「おまえ、椚学級とかどこぞで言ってただろ?」
「やべぇじゃん、どこでバレたんすか」
「バカ、うちの課の恥を晒すんじゃねぇ」
そうこう言いながらも男二人で歩くと駅前なんて一瞬だ。
コーヒーショップは、この時間に殆ど客はいない。
入店するとただオレンジの光が暖かく、人気のなさが休息するに最適だ。
「友隆ホット?」
俺はこくりと頷く。
「喫煙席座っといて」
「ウス」
俺は二階の喫煙席の窓際、横並びの一人席を二つ確保した。
向かいに座ると脚が伸ばせねーだの何だの言うんだよ、あの人……。
そら、身長は高い方だよ。
突然近いとビビる程度には。
「……」
やだね、付き合いが長いとこう言う事まで考え始めるんだから。
俺は外の景色を見ながら、癖で内ポケットを探っていた。
こりゃタバコ……買わないとキツイよな。
「友隆サンキュー」
後ろを振り返り見ると、なにやらコーヒー以外も載せてるじゃねーか。
「ファミレスのが良かったんじゃないですか」
「いや、喫煙出来ないじゃん」
「……まぁ、そうね」
カチャリとテーブルにトレーを置いて、俺にコーヒーとパッケージ入りのクッキーをくれた。
「これ一枚いくらなんすか?」
「150円くらいじゃね?」
「ふーん……いただきまーす」
俺がパッケージを破り、クッキーを口に運ぼうとしたところだ。
「あー脚が伸ばせねぇ」
「チッ……アンタ、どこ座ってもそう言うんで」
「え、そう?」
「あ、美味いっすねこのクッキー」
「脳が糖分欲してんだよ」
「そうかも〜」
「さっき舌打ちした?」
「さぁ?何のことですか」




