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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
緩やかな修羅場

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友隆の困難21

「あの、すいません……」



「やだ……ごめんね、ごめん……」



「……」



 緑町さんは先程のように目元を触るだけじゃなく、大きく手で顔を拭った。


 涙が手に弾かれて飛んでいく。


 俺はこんなにも泣いている人を見たことがあるだろうか……どうしていいのか呆然とするばかり。



「富海くん、あの、違うの……」



 何が?俺はこれを渡してパッと居なくなるつもりだったのに。


 未だ差し出した物を受け取ろうとはしてくれない。



「すいません、迷惑でしたね?」



「違う、違うの……」



 ブンブン勢いよく、首を振り緑町さんは否定する。


 とにかくどういう状態なのか教えて欲しい。


 俺……なんかヤバい物出したわけ?


 困り果てて缶を引っ込めると、緑町さんの声が上がる。



「欲しい、欲しいから……ちょっと、待って、ごめん!」



「はい」



 俺は静止した。


 そして、鼻水をかみ涙を拭い、頬に手を当てる緑町さんをただ観察する。



「……これ、どうしたの?」



「えっと、ホラ……俺彼女と別れたじゃないですか。その時、緑町さん心配してくれたのに……なんて言うか」



「……」



「なんか、冷たくしちゃったっていうか、失礼な態度取って……」



 緑町さんはそこまで聞くと鼻を啜りながら、ようやく受け取ってくれた。



「……」



「……」



「……可愛い」



「飴ですけど……」



「……」



 緑町さんは缶に描かれた猫を撫でるようにして、見つめる。


 もうこれは、ミッションコンプリートだよな?


 つーか、余計な物出さなきゃよかった。



「ありがとー……」



「……じゃぁ、そう言うことで」



「……うん、ホント。嬉しいから……大事にする」



「飴なんで、舐めてください」



「うん、そうだね……」



 俺をぐしゃぐしゃな笑顔で見る緑町さんは、ちょっと可愛かった。


 

「じゃ、明日」



「うん、お疲れさま、またね」



「はい、気をつけて帰ってください」




「ーー富海君!夜、連絡してもいい?」



 ?



「椚先輩が適任ですけど……なんか俺に出来ることがあれば」



「……じゃぁ、椚先輩の相談!」



「はい、分かりました」



 それだけ言い残して俺は、足早にコーヒーショップを出て行った。


 緑町さんは確かに笑顔だったと思う。


  最後は取り繕うような感じじゃなくて、きっと大丈夫だって思えるような……満面の笑みってやつで見送ってくれた気がする。


 するってだけだけど。


 俺は腕時計に視線を落として、頭を切り替えた。





**********





「戻りました!」



「富海、後で報告しろ」



 椚先輩、業務内容の事じゃなくて緑町さんの報告でいいんですよね?


 俺はそんな事を考えつつも、スリープしているPCを動かした。


 俺の帰宅の遅さに誰も突っ込んで来ない……まぁ、結局のところ泣いて出てった人の後を追ったという事実があるもんな。


 それを考えると速くも遅くもないんじゃね。


 と、三枝、三枝……



「……」



 うん、よく分からん。


 いつも通りかな。


 敢えて話しかけることもないし。


 俺がタスクを再び確認すると緑町さんの案件の担当名が承認と共に『富海』に書き換えられていた。


 うーん、まぁ貰ってもいいけどね。

 さて、俺のタスクを進めますか。


 ……と、思ったら俺のタスクが一つ減っている。



「椚先輩」



「一つ緑町のタスクに切り替えたから」



「あ、そうですか……」



 一気にやること減ったじゃん。


 もう定時で帰れる程度のタスク配分に戻った。


 緑町さんに振り替えられた案件って、外回りじゃなかったっけ。特に引き継ぎもいらない感じだったよな?


 あーまぁ、そう言うの確認して振り替えたんでしょうね。


 でも若干重いでしょ。


 俺が椚先輩にメールを送ろうとすると、椚先輩から届いてる。



『資料作成はこちらでやります。


 明日は直行で外回りに出す予定。


 働けない様子だったら報告ください。


 明日の分のタスクは極力終わらせる事。 』



 ふむふむ、緑町さんを外回りに出してその間に話し合うつもりか?


 大丈夫です。無理してでも必ず来るタイプ……いや、それが良くないんですけど、多分大丈夫な感じ。


 明日は仕事にならないって?俺は関係ないって言ったらマジでキレられるんだろうな……。



「……」



 俺はハーと重い溜息を吐いて、メールの返信を打つ。



『了解しました。


 ご想像の通り明日は出勤出来そうです。


 急務の仕事はありませんので、


 他調整も可能です。』



……周囲のカタカタカタカタカタ圧迫がすげぇもん。


 緑町さんに振り投げてた仕事の当てがなくなって焦ってんじゃねぇかな。


 そんな事を考えていると今度は俺のスマホが振動する。



『緑町に振ってたやつの仕事は入らなくていいぞ』



『へい』



「……」



 うーん、それなら緑町さんに振り替えられた資料作成を俺がやってもいいんだけど。


 俺がやるのってご好意でしかなくて椚先輩がやるのは責任者権限だもんな。


 課長はホントどうしたんだろうね。


 椚先輩いるから、問題ないけど。



「富海、富海……」



 振り向くと、まーたアナタですか。



「なんですか?」



「関数がさ……」



「……」



「椚先輩」



「ちょちょちょちょ!」



 椚先輩は、課長のデスクのPCと自分のPC2台使いで仕事をしてる。


 普段の席からはやり取りは見えないのだが、課長デスク側を叩いてる時は丸見えだ。


 椚先輩は、一瞥したが首を振って動かない。


 こーゆーのはやれってね。



「椚先輩なんでもないです!」



「……なんでもあるから。富海の手ぇ煩わせんだろ」



「はい、すいません……」



 余計な言い訳するから、一言飛んで来るんだぞ。何も言わなきゃ良かったのに。



「先輩、フォーマットの設定って普段どうしてるんです?」



「え、緑町ちゃんにやってもらってる」




 ヒヤリ……背筋が凍った。



 この人天然か?


 今日、起こった事を少しも理解してない。


 今、どういう状態か感じる心が全くない。


 俺は椚先輩の方を恐る恐る見た。



「……」



 あり?無反応じゃん。



「なに?富海?」



 先輩は空白の時間にキョトンとしてる。



「いや、気のせいです。どこが壊れてるんです?」



「友隆ぁ!!」



「ハイ!!」



 椚先輩の声に驚いて俺も条件反射で返事をした。

 しっかり怒ってんじゃん……。



「教えなくていい、一先ず直して」



「いや、でもまた……」



「覚える気があるなら、もう覚えてるだろ」



 もーそんな言い方して〜


 いるでしょ、課にひとりふたり、そう言う人。


 関数壊しの先輩の様子を見ると俯いてる。


 そりゃそうだ、なんも言えねぇよ。



須藤(すどう)、今マニュアルと動画送ったから」



「ーーえっ!!はい!!それわぁ〜……」



「来週理解してるか確認する」



「な、なな何曜日にですか?」



「もう今!今出来ないといけない事だろ?日にちを欲しがる立場じゃない」



「はい!すいません!」



 俺はこのやり取りの間に関数を直して席に戻る。



「……あ、富海?直してくれたの?」



「反応するようにはしたんで、数字は自分で入れ直して下さい」



「はい」



 頭が痛い……これじゃ学級というより、もはや動物園だ。


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