友隆の困難20
「緑町さん、紅茶飲み過ぎじゃないですか?」
「えっお手洗い行ったから大丈夫だよ!」
「……そんな事聞いてないんですけど」
「あぁ〜そうだね!確かに!」
うーん、俺が変な事を聞いたのか?そう捉えるのが普通なのか?
緑町さんをトイレに行くよう促した訳じゃないんだけど。
いや、そんな事はどうでもいい。
とにかくだ、言うべき事。
「……あの、椚先輩の言い方……すいませんでした」
「えー!!なんで?!富海君が謝ることじゃないじゃない!」
「いや、えーと、俺が緑町さんの仕事勝手に入って、なんかややこしくなって……」
「違う違う!一瞬本当に間違えちゃったのかと思ったんだけど、すぐに気がついたし!」
ホントかなぁ……気付いてたんなら、なんか違和感ありましたよ。とは、言えないけど。
俺も俺で伝えたい事がうまく言葉になってない。
「えっと、緑町さん……」
「……ちょっと、私が話してもいいかな?」
「あっハイ、すみません……」
「あのね、椚先輩が演技してるって気付いたのはさ、いや、半信半疑だったんだけど……」
俺はこくりと頷いた。
「……とも、富海君が止めなかったからさ」
「え」
「あーゆーとき、富海君ぜっったい止めてくれるから。何か言いたげに見てたじゃない、それで……」
「……」
「で、富海君が私の仕事入っててくれた事も考えると、多分……仕事押し付けられてるって言うか、えーとね、そうじゃないんだけど」
「いや、押し付けられてるって表現でいいと思いますよ」
「……うん、そうだよね、そうなんだけど、そうじゃないって思いたいじゃない……」
あーそっか、こりゃ配慮に欠けてたね。虐められてるって人がいたら、そうじゃないって本人は否定したいもんな。
「あの、言い方すいません……」
緑町さんは首を横にぶんぶんと振る。
「でね、そうじゃないかなって……えーと、演技かなって気付いたんだけど、なんか、こう、悲しくて、涙が勝手に……」
また目がうるうると……俺はテーブルの紙ナプキンに手をかけたがーー
「ハンカチ持ってますね」
チラッとこちらを見て、何故だか緑町さんは手にしていたハンカチをしまい込んだ。
「ありがとう」
「あ、はい」
謎のやり取り。緑町さんは俺が一度渡しそびれた紙ナプキンに切り替えて目元をちょんちょんと触っている。
「……」
「ごめんね、仕事戻らなきゃね」
「はい、そうなんですけど……」
俺はポリポリと頭を掻いた。この状態で緑町さんを残してフツーに戻りづらいよな。
「三枝君、心配だし」
「確かに……」
「一応、誤解しないようメールしとくから」
「助かります、でも、追い詰めたのって結果、椚先輩だったんで」
「ううん、私が悪いの分かってるんだー……結局、引き受けた仕事ほったらかしてるし」
「椚先輩に報告してない人のは、やらなくていいんじゃないすか?」
「……そんな事、出来ないよ」
「……」
「ずいぶん、改めたつもりだったんだけどね」
笑顔を向けてくる、痛々しい程……無理をしているって……かける言葉が見当たらない。
「明日、ちゃんと出勤するから!大丈夫だから!」
「…………はい、じゃぁ、戻ります、ね」
「ホントにごめんね、ありがとう」
「すいません、緑町さん」
俺はこれ以上顔を見ないように、席を立った。
もう、本人が望んでない。
俺は行くべきだ。
「あ、これ!」
俺は忘れかけていた……猫の絵柄の缶に入った飴。
思い出したら起死回生。
そんな気持ちで差し出した。
「……」
緑町さんは確かに捉えている、けれど受け取ろうとはしない。
やべ、すべったかな……。
緑町さんは口元に手を当てて微動だにしない。
「あーすいません、飴なんですけど」
緑町さんからは、今日一番ボロボロと涙を溢している。
溢してる、うちの締まりの悪い蛇口みたいに……。




