後輩の三枝side
「富海はどこまでいったんかね?」
「なんか、一瞬戻って来ませんでした?」
「俺は見えなかったなーー」
「……」
「椚先輩、緑町さんへの当たりがおかしいと思います。課長代行だからって……」
「……ボクちゃんは黙ってろよ、いつも空気だろ」
「……この…」
「何だよ」
「椚先輩!!やめてください!!おい、ちょっと来い!!」
「何ですか?僕は間違った事言ってないです!」
俺は椚先輩に食ってかかった三枝を課の外へ連れ出した。
「何なんですか本当に!!」
三枝は俺の手を振り解き、眼鏡を掛け直す。
「あのさ、さっきのは椚先輩の演技だから」
「演技?!そんなわけないでしょう?!緑町さん泣いてましたよ!!」
瞬間、ガチャリと課のドアが開いて、椚先輩が覗く。
パタパタと手を振り、同時に首も振る。
はい、すいません声が響いてるんですね。
それだけやって、すぐに引っ込んでいく。
三枝は明らかな敵意を向け、椚先輩を睨みつけていた。
「ちょっと来いよ……マジで仕事立て込んでのによぉ〜!!」
俺は焦りと、こいつの始末を付けないと、どうにもならない気がしてとにかく話をしようと思った。
富海みたいに空きのミーティング室まで俺は把握してねぇよ……。
課から出たものの、どこで話を付けていいかも分からない。
こう言う役目買って出た事ないからな。
俺って結構ボンクラだよなぁ……
喫煙室に連れていくか悩んでいると、三枝が声を発する。
「一階下に、休憩室あるんでそこでいいですか……」
「え、そうなの?よく行くの?」
「あそこ、人来ないんで」
「へー…….ぼっちコミニュティがあるんだ」
「……」
「いや、悪いな!ハハ……」
「何がおかしいんですか?」
「……うん、まぁ、コーヒー奢ってやるからさ」
「結構です」
ぐぎゃぁ〜!!こいつ、ホント可愛げないよな!先輩に対してなんでそんな事言うんだよ!
素直に奢ってもらえよ100円200円!!
「僕の事見下してますよね?」
「まてまて、休憩室に行ってからにしようよ」
「……」
三枝は階段の踊り場から俺を先導して、休憩室と思しき戸を引いた。
「えっ?ここ?」
出立ちが休憩室に見えない。
俺は念の為表札みたいなものを探すと、確かに休憩室の文字が見えた。
三枝が中に入りパチリと電気を付けると四畳半程度の広さの壁沿いに椅子が三つ。
テーブルは折り畳まれて立てかけられていた。
広げたら室内はもうパンパンだ。
「テーブルはいいよ」
「あ……そうですか」
三枝がテーブルを広げようとしていたのを俺は静止した。
こいつが発火したら逃げ辛くなるだろ……そもそも必要ない。
俺は退路の確保の為、出口側に座り三枝は椅子を一つ開けて奥に座った。
「……」
「…………」
「……」
「……話す事ないなら僕戻りますけど」
「いや、なんか知らない場所があるんだなと」
「オリエンテーションの時に聞きましたよ」
「へー……お前入社して何年目だっけ?」
「…………」
ん?答えにくい質問じゃないだろこれ。
「……」
「仕事が出来ないって言いたいんですか?」
「はぁ?そんな事、言ってないだろ?」
「入社して二年も経つのに何も出来ないって言いたいんじゃないんですか?」
「そうか……二年か、あっという間だな」
「……」
こいつコミニケーション難しすぎだろ。椚さんの三枝への対応はマジでヤバいと思う時があるけど……気持ち分かります!分かります!
緑町にちょっかい出す感じで嫌ってる訳じゃないんですね〜俺もブラックリストに今入れました〜!
「あのさ、おま……三枝、さっきの件なんだけど、椚先輩は富海に緑町の仕事を振り分けてたんだよ、だから、分かってて緑町を叱責するふりしたんだよ」
んー、俺何言ってるのか自分でもよく分からないわ。
でも富海と緑町のやりとりから察するに、富海が緑町の仕事進めてたっぽいんだよな。
椚さんもなにやらお願いしてたし。
「緑町さん泣いてましたよ」
「うん、それはそうなんだけど……さっきの状況に三枝は何か心当たりないの?」
「……多分、仕事押し付けられてて……僕が仕事出来ないから……」
「……」
「本当は僕も補佐に回って、その仕事覚えて、出来る事増やして、いかないといけないのに、僕には、その力がなくて、だから、」
「まてまて、まって、話を広げないで?もっかい話すね。俺も分かりづらくてごめんな」
「……」
「緑町さんは、周りから仕事を押し付けられてる。それは事実だな?」
「あなただって押し付けてたんじゃないですか!!」
「分かった!そう、そうだよ!俺もね!」
「……」
「で、課で押し付けてる人が複数いる。それをあの場で椚先輩が『押し付けてるのは誰だ?!』……って追求したらどうなってたと思う?」
「それは、追求すれば良かったんです、何がいけないんですか?」
あーー頭痛い、うん、追求して止めろって言って止めさせられるんなら、そりゃそうするでしょ。
そうじゃないんだよ、そうじゃない事をコイツに説明するのすっっっげーー難しい。
「あのさ、前提として緑町は引き受けちゃってる訳。相手からすると断れよって思ったりもする訳。で、椚先輩が押し付けるな!って怒ったらさ?緑町の立場ヤバくない?」
「……そんなこと、するやつが、悪い」
「うん、そうだな!するやつが悪いよ!」
三枝が俺をジロリと睨む。
「そう!わかった!俺も悪い!」
あ〜こいつ、マジで面倒クセェ……。
そもそも俺は押し付けてる訳じゃないんだけどな。
「で、緑町をパフォーマンスで叱責して、押し付けてる奴らを牽制したんだよ」
「……でも、緑町さんは、泣いてました」
「うん、そう、緑町泣いてたよ、でもね!椚先輩から見た事実はさ、緑町が自分の仕事を全く進めてないって事だから!」
「それは……押し付けられてるからで、」
話がループしとる!!
これってコイツに椚さんのパフォーマンスだったからって納得させるのって……そもそも意味なくない?
緑町を泣かせた事自体が問題なんだもんな?
「うん、そうだな、だから皆んなで考えないと」
「押し付けるやつが悪い、それだけ、」
「うん、俺が悪いよ、だから椚先輩は悪くないよ!緑町さんも悪くないよ!」
「椚先輩は。緑町さんを泣かせました、訴えたいです」
「なんで、なんでそうなるの?確かに椚先輩が改めなきゃならないところも有ると思うよ!でも、それは三枝に対して思う事で考えようよ!」
「緑町さん泣いてましたよ」
「うん、そうだね!」
コイツやべーな、なんでこんなに緑町緑町って……いや、多分恋心抱いてるんだと思うけど。
そんなあからさまに緑町コールするなよ。
これじゃ、緑町に逆に迷惑かけるぞ。
「あれ?スマホ鳴ってね?」
「はい、僕です」
「早く戻って来いって?」
「いえ、緑町さんからでした」
「なんて言ってる?!大丈夫?」
「……椚先輩のは……演技だって、だから噛みついたり、しないように、」
俺はホォーっと、息を吐いた。
緑町も気付いてたんだ、そんな感じしてなかったから安心した……っても、問題は解決した訳じゃないけど。
つーか、偉いぞ緑町!ちゃんと三枝の事把握してるんだな!!ちょっと遅かったけど!!
「……僕、戻ります」
「おう、そうだな!悪かったな、呼び出して!」
「僕も、ちょっと先走って……」
「いやいや!それは椚先輩に言えって!俺に言わなくていいよー」
「緑町さんに迷惑、かけたくないし」
「うんうん、もし言いにくかったら俺伝えるし!」
「はい、ありがとうございました」
突然素直になった!!凄いな〜緑町珍獣使いじゃん……っていかんいかん。
うちの課はこう言うところだよな。
何を言っても紅一点、ダメな男所帯が取り扱いを間違えてるんだろうよ。




