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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
緩やかな修羅場

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友隆の困難19

 俺は社内で緑町さんの姿を見かける事は出来なかった。


 そう時間は経ってない筈だが、外に出てたら捕まえるのはなかなか難しいか?


 気付いて戻って来ないか?


 俺は出口のガードマン口で前後を確認した。


 離れてったら、より困難だ。


 俺は外に出る事を決心したがーー



「げっ」



 社員証がねぇ……。


 上着のポケットに入れたまんまだ……。


 

「すいません、社員証置いてきちゃって……」



「置いてきたんですか?それでしたら取りに戻ってください」



「緑町さんきました?」



「名前を聞いてもねぇ」



「女性です、ショートカットの」



「……」



 ペロリと警備員さんは退社名簿の紙をめくった。


 

「あ、外部の人じゃないんです」



「……そうですか」



 あー取りに戻って……とっとと走れば良かったか?


 頼む、記憶を教えてくれ〜!!


 俺が脳内でゴチャゴチャ考えていると、後ろから足音が響いてくる。


 パッと振り返るとハンカチで目元をちょんちょんとしているショートカットの……



「緑町さん!!」



 俺の声に驚いた顔で、目を見開く。



「……」



「えっ?!」



 一拍置いて、声を上げた。



「緑町さん、スマホ!」



「えっ!!嘘!!ごめん……」



 俺が差し出すスマホを確認するでもなく、自分の持ち物の確認だ。



 いや、顔を伏せてるんだ、このひと。



「……」



 きっと、泣いた顔を見せないように。



「……」



「緑町さん、さっきの椚先輩演技だから!!」



「……ぁー……分かってる、よ……」



「……」



「……ごめんね、誤解させちゃって」



 いやいや、誤解させたのこっちじゃん。

 いや、誤解じゃなかったの?



「いや、じゃぁ……帰らなくても。マジで具合悪いんすか?」



「もう!!止めてよぉ…….っ」



「……」



「ごめんなさぃ……違うの……」



「……」



 あー俺、なんか、瞬間的に冷静になってる。


 これに気付いちゃうと感情移入出来ねぇんだよな……。


 警備員さん困ってるって、気付いちゃったから。


 こんな所で泣かしたらいけないって。


 俺は警備員さんの素知らぬ顔を装ってる様子と、緑町さんを見て出来る事を探した。



「緑町さん、ちょっと待てる?必ず居て?」



 俺は一先ず緑町さんの手にスマホを握らせて、走って課に戻った。



 なんて言う?



「……」



 バタバタと戻り、デスクの引き出しを開けて渡しそびれていたお土産っていうか、なんていうか。


 可愛い猫の絵柄の缶に入った飴。


 これを渡そう。


 ご機嫌取り……元気付けるのに。



「……」



 それでいいのか?俺ってば……。


 俺は課の雰囲気は無視して、また駆け出した。


 反復横跳び、踏み台昇降、自分の息切れの例えを考えながら再び出入り口へ到達した俺。


 緑町さんは壁に寄りかかりこっちを見ていた。



「ちょっと、はぁ、コウヒーでも……」



「コウヒーって聞こえた」



「は、いや、……ハァ……コウヒー……飲みましょ?」



「コウヒーね、うん、飲む」



 緑町さんは精一杯笑顔を作ってくれた。


 俺、こんな場合かね?


 息を何とか整えつつ、外へ出ようと胸の辺り触る。



「……」



「…………」



「そのまま行って頂いて良いですよ。でも私は十八時までですから、それまでにお帰りください」



 ジロリと俺を見つつ、警備員さんは見逃してくれた。



「すいません、ありがとうございます」



「いやね、社内ストーカー?そんなんあるみたいでね?あーた達の様子見てたらそうじゃないみたいなんでね?」



「イヤイヤ!警備員さん!!違いますよ!!」



 緑町さんがあわあわと否定する。



「だから通すって言ってんじゃないですか。規則違反ですからね、本当にお願いしますよ」




「すいません、すぐ戻るんで……」



「十八時以降は入れないからね」



 ツンとしつつ、俺が社員証をまた持って来なかった事を察して通してくれた。



「ほんと、すいません」



「……」



 無視されたけど、ある程度の融通を利かしてくれて助かったよ。





**********





 俺と緑町さんは駅に向かって歩いた。


 無言のまま。


 帰るには早すぎる、陽の光を浴びる外の空気感。


 本当に真昼間って感じ。


 冬なら夕暮れ時か?


 

「コウヒー……奢るよ?」



「まだいじります?」



「……仕事大丈夫?」



「こっちのセリフなんですけど……」



 あ、やべ。



「……ごめんなさい」



「いや、責めたわけじゃなくて」



「……分かってるの、でも言えない……」



「先輩からの仕事断れないって事ですか?」



「……うん、私、仕事出来ないじゃん……」



「……」



「否定してよぉ!!」



「いや、あー相談相手違いっていうか?」



「もう、全然嫌な感じはしないけどね……」



「よく分かんないんですけど」



「富海君さ、すっっっっっごい!!仕事出来るよ?」



「……そうなんですか?椚先輩のが出来ますよ」



「私、一応先輩だからね、富海君の。椚先輩とも同期なんだから」



「あーそうでしたっけ、俺はそう思わないってか……評価する立場じゃないんで……」



「……」



「でも、要約すると仕事出来ないから人の手伝いしないと役に立たないって思ってるって事ですか?」



「……うん」



「……」



 緑町さんは、悲しい顔をしてる。


 チラと見るだけで分かる、飲み込みたくない想いをゴクリと確かに飲み込んで。



 強い人だと思う。


 自分の不甲斐なさに向き合って、出来る事をやろうとキャパオーバー。


 良く見せたいんじゃない、そうしないと居場所がなくなってしまうんじゃないか、そんな不安と戦っている。



 誰のせいでもない、自分のせいだって。


 これに可哀想とか思うのは失礼なんだろうな。



「コーヒー……一杯だけ、本当にいい?」



「仕事めっっっちゃ出来るんで大丈夫ですよ」



「うん、富海君はスッゴイ、メッチャ、仕事出来るよ」



 微笑む緑町さんの顔、目が赤い。


 そういや、朝も……少し経ってから赤かった。


 なんで俺気づかなかったんだろ。

 そん時に苦しい事あったんだろ。

 堪える気持ちがあったんだろ。


 緑町さんに仕事を押し付けてるのは一人じゃない。


 その中に、泣きたくなるような。


 それを堪えて頑張らなきゃいけないって言い方してる奴がいる。


 状況を思い起こして俺は、特定しつつ思案した。

 


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