友隆の困難15
「おはようございます、ご迷惑お掛けしました……」
お、緑町さん予定通り復帰出来たんだ。大した事ないって言っても熱出してたんだもんな。病み上がり初日だし、出来る限りフォローしないと。
「あ、友隆君、ごめんね……」
「あ、ハイ、いや何がです?」
ん?今俺友隆君って言われたか?
「何がって……突発で休んじゃったから大変だったでしょう?」
「緑町さん、椚先輩がめっちゃ頑張ったっす……俺よりもですね……」
「あ、そうだね……うん、でも富海君にもお礼は言わせてよ」
あ、気のせいか。
「椚先輩、今日は直行戻りみたいなんで、午後一ぐらいじゃないっすか」
「うん、椚先輩お昼誘ってみるよ」
お?良いじゃん。椚先輩に休憩は取らずに帰るように連絡しとかなきゃな。
「富海君も一緒にどう?」
俺は目が線になる時がある。
緑町さん相手にしてるとこう、視界が狭まると言うか……パスがすげー取りづらいんだよ。
別に椚先輩の事あってって言う訳でもなく、なんか
そう言うの多いっていうか。
何かは感じるんだが、それがよくわからない。妙な感情が乗ってる気がして。
世話焼きの女の先輩って初めてだもんな。
「いや、俺今日は……」
「おっ!!緑町さんおはよう!!何とも無かったんだって?!」
「あ、すいません、早とちりで……大丈夫だったんですけど、大事を取らせて頂いて」
「ま、仕事溜まってるもんは溜まってるから!!困ったら言ってね!」
「はい、ありがとうございます」
ーー助かった。
『今日は』に続くセリフが出てこなかった。
てか、これ断れてもいないじゃん。
ま、椚先輩と久々で二人きりにすんのも可哀想か?
いやいや、椚先輩に恨まれたくねーわ。俺、あの人には恩があるからな。
昼が来たら仕事が終わらないとか適当に理由つけて断ればいいや。
「あ、おはようございます!!すいませんでした!!」
あーあ、緑町さん大変だな。補佐役って方々仕事受け持ってるし、ひとりひとりに謝って回って。
こういうのダルいから、俺は38℃の熱があっても出社しちゃうけど。
緑町さんも検査が絡まなかったら、多分来てたタイプだよな。
「……」
俺はフーと、大きく息を吐いてメールチェックを始めた。
今日も指示は飛んで来てるが、課長は来ないみたいだな。
つーことは椚先輩が戻ったら『椚学級』になっちまうかも。
その前に自分の仕事まいとかねぇとイライラしそう。
そんな事を考えつつ、タスクの順序をシュミレートしていると俺のスマホが震えた。
ドキリ、そう勝手に心臓がなってしまう。
俺も随分考えた。でも、何を言われても跳ね返して俺は俺の家族、そう、家族だ。
シャノと暮らす、家族のシャノを愛に渡したりは出来ない。
そう構えてメールを見ると椚先輩からだった。
「チッ……」
俺は社用でない連絡に、今見る必要はないとそのままポケットにしまう。
すると、連続してスマホが震える。
だがこれは電話じゃない。バイブレーションではっきりとわかる。
いったいなんだってんだ、しつけぇ。
俺は一先ず既読を付けとけばいいと、メールを開いた。
「……」
「…………」
「どうしたの?富海君」
「あ?いや、緑町さんお礼参り終わったんすか?」
「その言い方……」
くすりと、笑う緑町さんの目は少し充血しているように見えた。
やっぱりまだ本調子じゃないんだろうな。
「いや、別になんでもないです」
「なんか、すっごいニヤけてたよ」
「……ん、ま、仕事集中しますか」
「あ、はい、頑張ります」
「いや、生意気すいません」
「ううん、頑張らないとね」
あ、うっかり、椚先輩に飯は食って帰るなとは連絡しとかなきゃな。
緑町さん絡むと飯食って、また飯食いそうだもんなあの人。
**********
「お疲れー戻りました……っと」
お、思ったより早く戻ってきたじゃん。
俺は椚先輩に視線だけ送った。何の用だって顔してやんの。
お前こそシャノの写真いつ撮ってたんだっての……よく撮れてたけどな。
まぁ、そのお返しではないが……喜べ、緑町さんとランチだぞ。
「あ、椚先輩、ご迷惑おかけしました!!」
「緑ちゃん、おはよ、お疲れ、大丈夫だよ」
なんか、今日一日中ぺこぺこしてんな、緑町さん。
そして椚先輩に挨拶を済ませると、そそくさとデスクに戻る緑町さん。すぐにPCに向き合い始めた。
あら?
俺が不思議な顔で緑町さんを見つめると、ひっそりと声が聞こえてきた。
「富海君、午前のタスク終わった?」
「はい」
「ごめん、ぜんぜん終わりそうになくて……きりも悪いんだ……」
「手伝いましょうか?」
緑町さんは手をパタパタと高速で振って、断りを入れてくる。
そうか、そのパターンを考えてなかった。
先に緑町さんのタスクを確認しておけばよかったか?いや、出勤してる人のタスクを俺が覗くの変だしな……。
「椚先輩、鴨蕎麦奢りますよ」
「あ?それで飯食ってくんなってか?」
「そう言う事です」
「時間がもったいねぇ!!」
「すいません」
ま、こんなところだよな。
緑町さんからのお誘いがあったことは内緒にしますよ、と。
「ま、いいわ。すぐ出れんのか?」
「はい、行きましょう」
「椚先輩すいません、ちょっとご相談したい事が……」
「あー了解。友隆、また今度な」
「はい、すいません」
「いや、早く戻ってきてくれて良かったです」
「緊急度があんなら、一発連絡入れといてくれよ」
横槍が入ったな。まぁ、全然構わないけど。
意外と人気だな、椚先輩は。
俺は出る前に緑町さんさんの様子を確認した。
「……」
焦りがあるのか、頻繁に前髪を掻いている。これじゃ、昼休憩もままならないだろう。
「緑町さん、今いいですか?」
「うん、ごめんね〜」
「なんか買ってこようか?俺椚先輩の昼飯も買って戻るつもりなんですけど」
そう伝えるとゴソゴソとお財布を取り出して、俺に千円を渡してくる。
「パン系で、飲み物はミルクティーでお願いします」
「はい、お任せください」
「ホント、ごめんなさい!」
俺はにっこり微笑んで、静かに部署を出た。
「……」
んー、そんな切羽詰まるような感じで溜まってたかな?緑町さんのタスク。
俺と椚先輩でバチバチ完了しといたんだけど、戻ったら聞いてみるかな。




