彼女(愛)side
『連絡くれたら俺なんか買って帰るからさ』
ふと、彼の言葉が私の頭の中で再生される。
『私の作るご飯、美味しくない?』
『待ってる時間がもったいない?』
『仕事から帰ってきて疲れてるもんね、さっさとご飯食べて寝たいよね?』
こうやって、想像の中では彼に返答している。
何度も何度も。
実際に思いつく限りの言葉を彼にぶつけられたら、くよくよせずにいられたかもしれない。
彼のこの言葉は私にとって『余計な一言』だった。
毎日、友隆のご飯考えて、買い出しに行って、分からない事があったら調べて。
味見して、美味しくなかったら私のごはん。
塩っぱくて食べれそうもないのも、もったいないからちゃんと食べ切ってた。
しょうがないよね、私働いてないからごはんが不味くても、無駄にしたらいけないもん。
友隆に嫌われない為に、もっと好きになってもらえるように懸命に繕って来た日々。
そのわだかまりの募る日々を過ごし、私はしょっちゅう考えている事があった。
(猫ちゃんが居てくれたら、きっと何でも乗り越えられるのに。)
それは小さな頃から思い描いていた、幸せの形……その私の理想には猫が必要不可欠だった事を。
それが無理な押し付けかもしれないと、気付かせたのも友隆だった。
なにせ彼は動物に全く興味がない。
動物の話はどんなアプローチも、面白いともなんとも言わずに適当に相槌を打っている様子がありありとしていた。
けれども私が好きになったのは動物に興味のない彼だったのだから仕方がない。
けれどもけれども、この幸せの形が実現したらきっと私は誰よりも幸せなんだ。
いけない事だと心の奥底では分かっていたけれど、友隆は反対しなかったから。
確かに強引に連れて帰ってしまった事は認める。
でも、そんな大事なことを興味なかったからで済ませたりしないで欲しい。
『ウチのマンション、ペット禁止だけど……』
ーーーー彼の言葉に胸の痛みがはしる。
だったらなんで反対しなかったの?
連れて帰って来てからそんな事言われたって困るじゃん!
勝手な事をしていると分かっているくせに、彼に対してどうしようもない気持ちが込み上げた。
もう、コントロールが出来ない程に。
リビングをぴょんぴょん跳ね回るこの子を見て、私は喉がぐっと痛くなるのを感じた。
「ごめんねぇ……」
堪えきれない嗚咽が、私の喉を通っていく。
抑えきれずに声を出して泣いた。
いつ、やっぱり飼えないと、里親を探さないと、と言われるか不安で仕方がなかった。
一緒に暮らせば、きっと猫を好きになってくれると思っていたのに、この子の毛がスーツについたくらいで目くじら立てて。
しょうがないんだよ、毛が落ちちゃうのは、お掃除だって頑張ってしてるつもりなのにそんな事一度も褒めてくれなかった。
ご飯が美味しいってそればかり、その他は駄目みたいに捉えるしかないよ。
悲しい、辛い、苦しい、でもこんなのは今だけだ。
そう自分に言い聞かせて、友隆の優しさを思い起こして頑張って来た。
なのに。