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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
緩やかな修羅場

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友隆の困難9

「……猫って人に懐くもんですか?」



「んー?うさぎだって懐くんだから、猫だって懐くだろ」



「なんでうさぎ……」



「飼育委員やったことないのかよ」



「うちの学校は鶏しかいませんでしたよ」



「鶏は懐かなかったか?」



「さぁ……飼育委員は苦手でしたから」



「人に押し付けてたのか?サイテー」



「……ホットケーキまだ?」



「生焼けがお好みでしたら」



「……ッチ」



「ドリップのゴミ捨てるぞ」



「ゴミ箱廊下です」



「あー、立ったなら自分で捨ててこいよ」



 俺は素直にソーサーに乗せたドリップのゴミを捨てに廊下へ出た。


 そして帰り際に、椚先輩の足元にもたれて倒れているシャノを回収する。


 ゴロゴロ音立てて、この浮気者めが……。



「お前、今猫に浮気者め〜とか思っただろ?」



「そんな事思うわけないじゃないですか」



「お前の悩みの種、一個明確に分かった気がするぞ」



「……うるさい、」



「飼いたかったら飼えばいいだろ」



「うるさい!!」



 俺の声に反応してかシャノは座らせた隣からぴょんと居なくなり、窓際でベタっと倒れた。


 いけね、デカい声だしちゃったよ。


 シャノ……



「出来た!トモ君できたよ〜」



 俺の失態をかき消すかの如く、椚先輩はふざけた様子でそう伝えて来る。


 俺は頭を抱えて、髪をくしゃくしゃと掻いた。


 椚先輩は、適当な皿で適当に盛り付けたホットケーキをテーブルに置き、ヘラヘラしながら俺を見据えた。



「多分、この辺が二枚目な」



「はい、あざっす……」



 視線の怖さを感じて、入れ替わりで俺は席を立つ。冷凍庫を開けて少し硬いバターを探した。



「バターどんぐらい?」



「5センチ……」



 俺は台所から、ポイと個包装のバターを投げるとしっかりと椚先輩はキャッチしてみせる。



「もう3つくらいくれよ」



「はぁーー」



「カリカリすんなって、俺ってそういう先輩じゃん」



「ホント、煽り散らすのやめてくださいね」


「あと隣キモいんで、もっと端にズレてください」



 結局ありったけのバターを持って、俺はソファーに着席した。


 変な緊張感を感じる。



「……」



「よく出来てるわ、美味しいね、トモ君」



 語尾にハートがついている。


 そんな口調だ。



「これが美味いかどうかは別として……」



 俺は椚先輩の頬を軽く叩いた。



「ハハ……怒んなって、悪かったよ」



「……まぁ、ありがとうございます」



「そういや、床の傷どうした?」



「その辺に残ってるんじゃないです?別に消えませんよ」



「この家には俺らの歴史もあるなぁ〜」



「手書きのお札、まだ貼ってありますけど」



「やめろよ、ちゃんとやれって言っただろ」



「いや、なんか効いてる感あります」



「嘘つけ」



「まぁ、気分的なもんだと……」



「……」



 ふと、昔話なんかを交えつつ、半分は無言、多少気まずい感じで俺らはホットケーキをつついた。


 無言が気まずいんじゃない。


 本題にどう入るのか、お互いの気持ちが合うまで牽制し合っているだけなんだ。



「……」



「なんか、パサパサ」



「そんなことねーよ、ゴクゴク音立てて飲み込みやがって、何緊張してんねん」



「うるせ……」



チュチュッ……チッチッ……



「なんすか、それ」



ア……



 俺は目が丸くなった。シャノが椚先輩の不思議な音に反応してる。



「それなに!!」



「お前、ホントなんも知らねぇのな」



 椚先輩は笑ってる。すげぇ笑ってる。腹立つくらい楽しそうだ。



「猫に効く魔法だよ」



 気付けばシャノは椚先輩の足元に居た。いや、椚先輩のが窓際に近かっただけ、そうだよ。


 椚先輩が適当にシャノをポンポンとすると、尻尾をするりと這わせている様子が伺えた。



 「チッチッ」



マ……



 俺も見よう見まねで口を鳴らしてみる。シャノはやはり音に反応しているようでこちらに顔を向けてくる。




ーー可愛い。




「…っうわ!!!!」



 俺が椚先輩の方を振り向くと、知らんぷりだ。


 首元にヒヤリとした指?を当てたはず。


 かがみ込んでくっくと笑いを堪えてやがる。



「ウザすぎ」



「ふ、は……お前可愛いな」



 何をイチャついてんだ、俺らは。


 ゾワゾワとむず痒いなにかが背中に走る。


 そろそろ聞けるような、心のゆとりがある気がする。こいつのおかげ……なんだろうな。



「あの……愛の事」



「ん、お金貸したってやつな」



「……」



「コーヒー淹れてこいよ」



「はい……」



「誠さんは?」



「……お前のパラメーターは俺の呼び名で分かるな」



「……うっせ」



「ここにお湯追加して」



 椚先輩はティーポット……急須を俺に手渡す。



「……」



 普段は電子ケトルでお湯を沸かしているが、椚先輩が使ったやかんに俺も火をかけた。


 水が少しづつ泡立つような音をさせる。


 水が沸くのと反比例して、俺の心はどんどん穏やかになった。そしてホイッスルが鳴る手前で俺は火を止める。


 この時間が大切なように……なんだかそう、感じた。


 この間で準備した心が揺るいだりはしない、心地よいピンと張った糸の上。

 

 真っ向から誠さんと視線を合わせると、誠さんは何とも言えない微笑みを浮かべた。


 バカな俺を見下したりしてない。


 優しいだけの、お兄さんの目だ。



「かくかくしかじかって言っても納得出来ねぇってか……お前、想像膨らませちゃうだろ」



「……」



 俺はこくりとうなづいた。



「まぁ、話させてよ、俺の記憶の話だけどな」



「ウス……」



「中学生ってのは、ちょっと落ち着いた頃だな」



「愛と同中とは聞いてました」



「俺ん家の斜向かいのちょっと先に団地があってさ。そこが瑞江さん家、愛ちゃんの実家な」



「……」



「子供の頃から知ってるんだよ、幼稚園、小学校と」



 俺の知らない話だ。中学校の時の先輩としか聞いてなかった。



「……恋心とか抱かなかったんですか?」



「食い気味だぞ、トモ。愛ちゃんはさ、可愛い妹だったよ」



「へー」



「全然信じてねぇな、そんときの気持ちをはっきりと覚えてる訳じゃないけどトモ、お前にも分かると思うぞ」



 俺は視線で答える。何が?と。



「男児はな、歳上のおねぇさんに憧れるもんでな」



「……」



「歳下の女の子ってか、歳下ってのは、面倒見なきゃなんないってそこここで植え付けられてるからさ」



「……」



「ドキドキ感とかそういうのはさ、知らない高学年のパンツ見た時に感じるんだぜ」



「……典型的なクソガキですね」



「なんだよ、お前だってそうだっただろ!」


「同級生のパンツよりも、高学年のパンツヤベェって思っただろ!!」


「歳下のパンツなんてオムツだっての!」





俺は爆笑した。



「いや、パンツの話はいいですって 」


  つーか、そこまで言語化出来てんのが、スゲェ。


 俺は笑いと共に出てきた涙をはらって、椚先輩の顔を見る。


 なんていうか、パンツの話してるこの人がまさに清廉潔白って感じで。


 ほんと、わかんねぇよな、関わってみないとこの人が本当は何を考えてるかって。


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