友隆の困難7
取り敢えず、俺の出来る事はやっている。
この猫との付き合いがいつ終わるかは分からない。
けれども、いる間はちゃんと面倒見てやらないといけないからな。
何だかこれも言い訳じみていて嫌だよ。
何度となくしてきた言い訳、でも最近はそんな言い訳してなかったと思う。
「な、シャノ」
窓際に倒れ込んだシャノに話しかけたつもりが、視線を向けると既にそこには居なかった。
どこに行ったのかと辺りを見渡すと、テーブルの下で蹲っているのだ。
「忍者め……俺の命を狙っていたな?」
そうして視線が合うと、伸びつつ出てきて鳴き声を出す。こいつは、ちゃんと俺のことを認識しているんじゃないかと思う瞬間だ。
俺は自然と手が伸びて、つい頭を撫でてしまう。
こうする時シャノは嬉しそうに見えるんだよな。
俺の手にもっと頭を擦って欲しいように見えるんだよ……。
「シャノ、お前の飼い主が迎えに来るぞ」
「多分、そのうち」
「いついつとは分かんねぇけど……そう遠くないはずだ」
「……」
「嬉しい?」
シャノは俺が撫でてる延長線で、ただ喉を鳴らしているだけだ。
なのにその様子が、喜んでるように見える。
嬉しそうに見える。
「……」
俺は大きなため息を吐く。
断れないよな……それにまだコイツとの時間はさして経っていない。
俺がシャノを手放さないなんて事は出来ねぇよ。
コイツを飼い続けたいと思っているのも、現状突き詰めたら、ただの気の迷いでしかない。
根拠がないんだよ。
俺が、コイツを飼う、飼い続けるに値するような。
ただ、ちょっと可愛く見えてきている。
毎日世話してる。
それだけなんだ。
「来るんならさ、早く来て欲しいよ……」
「な、シャノ」
「……」
「何とか言えって」
ニャン……
「お?」
ミ…キャ〜
「ニャーの練習しとこうな」
キョトン顔でこっちを見てる。
俺は何だか、こいつが堪らなく可愛く見えてスマホでつい、写真を撮ってしまった。
撮れ具合を確認すると、画面に収まったシャノはぬいぐるみのように見える。
「可愛いじゃん、変な色だけど」
そうだな……写真一枚残しとけばいい思い出になるかも知れないじゃん。
「……」
俺は時間を確認した。
爪を切ったせいか、ずいぶん時間が過ぎてるように感じていたがまだ九時前。
「寝るにはまだ早いな、シャノ」
「また、すーぐ倒れる」
「遊んでやるからこっち来いよ」
俺は立ち上がり、スツールを開けて猫じゃらしを取り出した。
「あ、また見ちゃった?」
すかさずじゃれてくるシャノに俺は笑う。
楽しいよ、こいつと遊ぶの。
人間じゃ考えられないような身体能力。
時折見せる百獣の王感……って言っても猫は猫だ、ライオンじゃない。
でも肉食っぽい感じが伝わってくる力強さに、俺は子供みたいにスゲェってワクワクしちゃうんだよ。
たまに恐い時もある。
こいつが本気出したら、人間なんて……とか考えたりもする。
一生懸命に飯を食う姿も可愛い。
そんな事で喜んでって思っちまう。
でも、その飯をあげられるのが嬉しいし、ホッとする。
腹空かせてたんだな、ごめんって。
「……」
「シャノ」
名前を呼ぶと、ピタリと……確かに俺に反応している。
俺、案外こいつに想うこといっぱいあるよ。
ずっと一緒に暮らしてたのにさ。
そん時に、こんな風な気持ちになれなくてごめんな。
愛と例えうまくいってようと、なんだろうとさ、今みたいに接していたら俺、主張できたかもな。
勝手な気持ちでしかないよ。
ごめんな、なんか、なんて言うかお前に言えるのごめんって言葉しか出てこねぇよ。
手放すのごめん、今までごめん……こんな風に勝手でごめんな。
なんか、
「……腹いてぇ」
想いが、気持ちが、寂しさが突然溢れてきてとても遊んでやる気分じゃなくなっちまった。
「ーーお前と楽しいことしたくねぇわ」
シャノは、フヒフヒと鼻を鳴らして俺に近づいて来る。
振られなくなった猫じゃらしよりも、俺の足元でなんか匂い嗅いでやがる。
そっ、とスツールに猫じゃらしを仕舞うと、『ア……』って顔すんのな。
笑わせんなよ、可愛いな。
俺はシャノ頭をポンポンと撫でて、つい言っちまった。
「キャットタワー買ってやるよ」
「……愛んとこに持ってけばいいだろ、台所に昇んのは駄目だからさ……」
「そんなでっかいのじゃないやつな」
「な、それでさ、ひとりで遊んでくれよ」
「……」
ほんと、俺何言ってんだろうな。でも、遊んでやれないよ。遊びたくもねぇ。
勝手に暮らして欲しい。
いい環境、それっぽいのだけ提供してやるからさ。
悲しいっていうか、胃が痛むのが大人になったってことなのか……。
「はーーーー……」
シャノ、お前と終わりのある生活、どうしていったもんかね。




