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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
緩やかな修羅場

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友隆の困難4

「鴨つけ蕎麦」



「つけ……鴨蕎麦……」



「あ、同じの二つください」



 割って入って注文を確定した椚先輩。


 それに対して俺は店員さんが確かに居なくなった事を確認してから声を発した。



「なんすか、同じじゃないかも知れないのに」



「鴨はあったかいの!つけ汁が!」



 俺が暖かいつけ汁か冷たいつけ汁か迷う事を知っていての事だ。そうだな……鴨そばの汁が冷たかったら油が固まっちまう。



「人に頼まれると違うものが出てきた気になるじゃん」



「うるせーなぁ、結局同じものしか頼まねぇだろ」



 そうだな……俺、蕎麦は鴨蕎麦が好きだよ。


 こいつは俺の彼氏なのか?先の発言で、そんな言葉が浮かぶ。


 ま、この人って根っからのお兄ちゃん気質だからな。先回りする鬱陶しさがあるんだよ。



 俺らは、よく利用する蕎麦屋にやってきていた。


 昼飯時には少し早いおかげで、すんなり席に着くことは出来たが既に混み合っている。


 パッと食って、パッと出る。


 ここでデザートを頼んでも、ただ腹に収めるだけの作業になっちまう。


 正直、ガヤついていて話をするにも向いてない。


 それでも蕎麦をすする合間合間で、当然会話はするもんで。



「トモ、最近どうだ?」



「最近……」



「家で一人で大丈夫かって」



「あぁ……そうすね」


「まぁ、一人じゃないんで……」



「あ?なんだよ、もう連れ込んでんのか?」



「……多分メス、ですね」



「……あーーなんだっけ?ハムスター?」



「猫ですよ、ネ、コ。愛が置いてった」



「……動物は大変だよな」



「それ、適当じゃん……」



「あ、バレた?」



「ーー多分、引き取る気あるから大丈夫だよ」



 俺は持ち上げた蕎麦をするりと逃してしまう。



「……」



 ……何事も無かったかのように、また蕎麦を食べ進めた。早く、早く。


 何見てんだよ、腹立つなぁ……とっとと食えって。


 俺は横の椚先輩の視線を感じつつも気に留めてない振りだ、平静を装ってとにかく完食へと向かう。


 俺がとっ、と箸を置き椚先輩を見ると蕎麦湯を注いでいた。



「お前が急いで食うぐらいで丁度いいな」



「……」



 俺はムッとしたが、注いでもらった蕎麦湯をこくりと飲む。


  ……美味しかった。




「ま、込み入った話はさ、そんな出来ないよな」



「そうすね、俺も聞きたいことが出来ましたし」



「……」



 椚先輩はフ、と笑って何の返答もなかった。



「じゃ、行くか、一等地のベンチがうまる前にさ」



 俺が会計伝票に手を伸ばすと、椚先輩の手に打つかる。


 お互いの視線がはっきりと合って、俺が声を出そうとした瞬間だ。



「罪悪感のある方が奢ろうぜ」



「じゃぁ、俺が出しますけど」



「お前も成長したもんだな」



「はぁ?」



 そう言い残して椚先輩はさっさと会計に向かってしまった。


 俺はもう何も言うまい。


 自信がないんだよ、この人を言いくるめる根拠を今持ち得ていないから。





**********





「一等地のベンチ空いててよかったな」



「まぁ、今日そこそこ暑いですからね」



「アイスも美味いと」



「……なんすか、その食い方」



「ん?こう食うと垂れてきたやつが袋に落ちるってやつよ」



「へーー」



 椚先輩はアイスの袋の上の部分から先を出して、持ち手に外装を残していた。


 俺はカチカチの白玉アイスを突きつつ、特に興味の無かった話を聞き流す。



「別に釣りしたいわけじゃないんだろ?」



「ええ、まぁ……海釣りなら突き落としたら気が晴れるかと思ってっ……冷て!」



 椚先輩は、食べかけのアイスを俺の頬にくっつけてきた。


 俺がハンカチで顔を拭き取っていると、何事も無かったかのようにアイスを食べ進めている。



「お前、割と冗談にならないからな、今日日そう言うのはやめてくれ」



「腹パンはいいんですっけ?」



「代案だ、代案、それも嫌だっての。もう、そう、じゃれ合う年齢でもないからな」



「俺がそう言うのは冗談にならねぇと……」



「そ、歴があるからな」



 俺は思い起こして、首元をポリポリと掻いた。



「そんな事ありましたっけ?」



「おー、そこは生涯すっとボケる方針がいいんじゃね?」



「……愛、猫心配してました?」



 椚先輩はチラとこちらを見て、俺の表情を伺ってるようだった。



「いや、ペット可の物件探した。話が繋がって、お前んとこに置いてきた猫を引き取りたいんだってな」



「……へー」



「猫の話なんて一切してなかったけどな」



「……」



 金を貸した云々の話は、どうせ今日出来ないからと、しないつもりだった。けれどシャノの事が気になってどうしようもない。


 ただ、この話をするのも時間がかかるだろう。


 とても休憩時間なんかに出来るはずもない。

 と言うことは……。



「仕事でポカするかも……」



「何を突然に……今日は無理だぞ忙しいからな」



「誠さん、次の休み家来ません?」



「ん、仕事を終わりでも構わねぇけど……かなり遅いけどな」



「いや、なるべく家には早く帰りたいんですよ」



「……だから話聞けって言ったじゃねぇか」



「それは、アンタのせいじゃん」



「……」



 そんな事もないと思いつつ、つい椚先輩を責めたくなってしまった。この人はこの人で悪い事したなってどこかで思ってる。だからなんの反論もしてこないんだよ。



「あ、そうだ友隆」



「?」



 椚先輩はゴソゴソと、バックを漁りある物を取り出す。



「あっシャノの毛玉……」



「シャノノケダマ?」



「愛から受け取ったんですか?」



「いや、やっぱお前のだったのね、デスクの下に落ちてたんだよ」



「……いつの間にか無くなってて、愛が外してったんだと思ってたんです」



 俺は思わずソレをギュッと握りしめてしまった。愛がシャノの毛玉で作ったキーホルダー。


 別に大切って物じゃない。忘れ去っていた物だった。なのに今はこのキーホルダーが大切な物に感じられる。



「悪かったな、渡しそびれちまってな」



「いや、ありがとうございます」


 


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