椚誠の苦悩14
「ちょっと、落ち着いてきたな」
「……はい、何度も何度もぉ〜」
「まぁ飲めばいいんじゃね……」
何がそんなに悲しいんだか……いや、同棲してた相手と別れて、行く宛もない。
仕事もない、不安も募る。
情緒が不安定になるのも仕方ないことかもしれんね。
俺は良くない事と分かりつつも、愛ちゃんに酒を煽らせている。泥酔するって事もないだろうし、ここなら万一の間違いも起きようがない。
一先ず、愛ちゃんには泣きたければ泣いてもらって、飲みたいだけ飲んで貰うと……。
ずっと堕落するわけじゃない、一過的な事なんだからそれを誰も咎めないさ。
ま、その環境を提供する俺の優しさありきだがな。
「大学芋食べる?」
愛ちゃんは首を横に振る。
「角煮食べる?」
今度は首をこくこくと縦に。
俺は立ち上がり、怪しい角煮をレンジにかけた。
まぁ、濃い味付けのものはそこそこ保存が効くんだろ……俺もちょっと食べて連帯責任のひとつは負うか。
電子レンジ特有のジーという音だけが居間に響いている。
チラ、と愛ちゃんの様子を伺うと手酌でビールを注いでいる。そしてカン、とビールの中身が無くなった音がした。
「まだ、そんな冷えてないと思うけど」
俺は先ほど補充したビールを一缶タブを開けて、愛ちゃんの前に置く。
「……なんでそんなに優しいんですか?」
「まずお礼を言いなさい」
「……ありがとござます」
ピー…………
レンジが終了する音だ。すかさずレンジを開けて匂いを確かめるが、これは大丈夫そうだな。
俺は角煮と共に席に着き、無言で愛ちゃんとグラスを合わせた。
「……可愛いからだよ」
愛ちゃんはチラリと視線を上にして、俺の顔を見た。
「チャラ……」
一度調子に乗るなと言ったはずなんだけどな、まあいいか。
「友隆も優しかっただろ」
「それは、恋人でしたから」
「じゃぁ、友隆は愛ちゃん以外に優しくないか?」
「……サークルの時、皆んなに優しかった」
「すぐ恋愛直結で考えんのやめろ、そーゆう気の振り方が愛ちゃんの敵を作る結果になってる」
「……見てきた風にいいますね」
不服そうな顔を向けるが結果として図星、思い当たる節があるからこそ腹が立つんだろう。
「可愛いってのは、汎用が効く言葉だろ。男女間だけで使われてるだけのもんじゃない」
「あたしがビッチみたいに言うんだぁ……」
「んー……そうは思ってないけど、すぐ気があるよねこの人、上手く使おうとか……男をお得グッツみたいに見てる時ないか?」
「んーー、そう言うつもりじゃないけど、そういうところ……あるかも??です」
「可愛いって案外損かもな」
「…………椚先輩にはそんなつもりじゃなかったもん」
「へー信用あったのか」
「だって友隆と一番仲良い先輩だから……」
「俺は大事な人の先輩にこそ、迷惑かけたくないけどな」
「なんで……そんな、イジワル………」
また泣き出したわ。なんだかんだ酔いもある事は分かるが、涙腺緩みすぎたろ。
俺何やってんだろうなぁ……宥めてみたり、泣かしてみたり、見守ってるつもりでいたりして。
ま、愛あってこそだと、もう少し歳重ねたら分かってくれるんだろうな。
「……」
でもまだ、慰めて欲しいと思ってるんだろうか。
何も言わずに待つ事が優しさだって想うことはエゴなんだろうか……ただ正直このガキが求めてることは明確に分かってるつもりでいる。
それでも助けようと思うのは、俺ってお人好し?
いや、俺の後ろには友隆がいる。
だから俺も俺の打算あってこの子に関わるんだろう。
「明日はさ、やる事盛りだくさんだぞ、履歴書も書いて……仕事先を探すのはその後のが良いんじゃないか?」
愛ちゃんはこくりと頷く。
「時間は空きすぎない方がいいけど、アルバイトから社員登用して貰えるようなところで……今の状況だとメンタル面も含めて難しいだろ」
「ハイ……」
「大丈夫だぞ、ずっと辛いのは続かない、保証する」
「……そんな事言って、大丈夫……?」
「大丈夫だって、お前は出来る子なんだから」
彼女は落としていた視線をこちらに向ける。
そしてほったらかされていた角煮を一口食べてモグモグと……赤い目で俺を見る愛ちゃんはこれまで見た中で一番可愛い顔をしてた。




