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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
緩やかな修羅場

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椚誠の苦悩13

「……あら、あらあらあらあら!!」



「まぁ!!まあまあまあまあまあ〜〜」



「母さん玄関先だからさ、中入ってからでいい?」



 母さんは思いがけない女性の登場に驚きというか、明らかに喜んでいる様子だ。


 彼女じゃないなんて、ここで勝手に否定すると話が拗れるだろう。適当にどーとでもなると考えていたが、案外面倒かもしれないな。



 「ごめんなさいね!!さ、さ、どうぞ!!どうぞ!!」



 俺は相変わらず、もじもじしている愛ちゃんを先に中に入れようと促す。


 俺の顔をチラリと見て、もう中へ入るしかないと決心したようだ。


 おずおずと歩を進めるが玄関先の二段の段差に足を引っ掛けつまづいた。


 俺は思わずかろうじて届いた首の後ろの襟を掴んでしまう。


 ビッ……


 少しの反動で愛ちゃんは転びはしなかったが、明らかにマズイ音がした。


 

「……」



 母さんはスリッパなんかを並べつつ、ニコニコと玄関先で膝を曲げている。



「……ごめん、今……」



「えっとぉ、だ、大丈夫ですかね?」



 それは俺が聞きたい。愛ちゃんはそのままよろろと、中へ入っていった。



「おじゃまします」



「何にもないんだけどねぇ!どうぞどうぞ、お夕食は食べたかしら?何かとりましょうか?」



「いえ!いえ!そんな、」



 俺は二人のしょうもないやり取りを見つつドアを閉めて鍵を掛けた。



「母さん取り敢えずさ、彼女お風呂に案内してあげてくれる?その間ちょっと話そうよ」



「あら、分かったわ、分かったわよ!ごめんなさいね、どうぞ、ここね、ここ!お着替えとか大丈夫かしら?泊まっていくのよねぇ?!寝巻きがあったからしら??上の娘のだけど構いませんこと?持って来ておくから!!」



 愛ちゃんは、はい、はい、はい、と相槌を打つばかり。


 まったく、このバァさんは……俺は一先ず愛ちゃんのボストンバックを手渡して居間へと向かった。


 多分服が破けちまってる。先に着替えてもらうには風呂に入れるのが良いだろうという考えて俺は退散したのだ。


 しばらくガチャガチャ風呂先でやっている声が聞こえたが俺がスーツを脱いで、軽装に着替えてる間に母さんは居間にやってきた。



「ちょっと!!誠!!ちゃんと話してから連れて来なさいよ!母さん恥かいたわ!こんなスッピンで恥ずかしいったらないのよ!!」



「母さん分かったからさ、突然行くって連絡したのは悪かったよ……ちょっと事情があったんだって」



 母さんはなにやらパタパタ顔に粉を叩いたり、ポットを掛けたり冷蔵庫を開け閉めしたりして、とにかく忙しそうだ。



「愛ちゃん随分大きくなったわねぇ!!昔っから美人さんだったけど変わってないわ、うちらの世代から見るとすらっとしてるよねぇアンタみたいなずんぐりむっくりじゃないもの、背が伸びたのが救いよ!!」



「え?母さん愛ちゃんだって分かったの?」



「分かるも何も、中学生まではうちの前が通学路でしょう?朝はよく挨拶してたんだから……そんなもうろくしてないわよぉ」



「へー凄いじゃん、ボケ始めてんのかと心配してたんだから」



 俺はずんぐりむっくりの仕返しにこのように返したが正直母さんの中で愛ちゃんの存在が認識されていたことに驚いた。



「なぁに、それで付き合ってるのかい?瑞江さんとこは一時期大変だったでしょう……親戚にはちょっとねぇ、あんたらの好きにしたらいいけど、母さん心配よ」



「あー母さん違うんだよ、彼女じゃないんだけど愛ちゃん今困ってるみたいでさ」



「なによ、なに困ってんのよ、うちで匿おうってのかい?お姉ちゃんがね、帰って来たら何言われるか分かんないよ!でもその間ぐらいねぇ、いたら良いんじゃないかしら?」



 愛ちゃんが風呂から出る前に出来る限り話を取りまとめておきたい。お金を貸す事を除いて成り行きを話しても構わないが、多分長々と説教が始まってしまうだろう。



「うん、母さん愛ちゃんとにかく大変なんだよ……何も聞かずにさ……姉ちゃん帰ってくるまででいいからちょっと泊めてくれない?」



「話せないの、やだねぇ、可哀想に……」



 何を妄想してるのか途端に母さんは涙ぐみ始めてしまった。



「いや、大丈夫だから。もう解決は出来んの!だから解決し終わったら話すよ!」



「あい、わかったよ、何も聞きませんよ、ところでご飯は食べてきたの?」



「ん、まぁ大丈夫だけど、何かあんの?食べ物」



「大学芋と、角煮があるわねぇ」



「あーー……いつ作ったやつ?」



「食べれるわよ!大丈夫だから!」



「うん、まぁ……そうね」


 

 俺は立ち上がり、冷蔵庫脇の段ボールからビールを何本か冷蔵庫に補充する。


 一本取り出し缶の蓋を開けてると、コン、とドアを叩く音が微かに聞こえた。



「あ、愛ちゃんこっち!」



 俺の声と同時に母さんが居間のドアを開けて、愛ちゃんを招き入れる。



「あら、ドライヤー掛けなかったの?風邪引くといけないからね」



「あ、いや、おばさん大丈夫です…….もう夜分ですし、よく拭いたんでいいんです」



「……んだよ、俺が気付かなかっただけで二人は感動の再会だったんか?」



「おばさん、変わってないもん……十年くらい経つのにね……」



「んもー!!お上手ねぇ!!」



 愛ちゃんは顎を引きながらエヘヘと笑っている。



「まぁ、積もる話は明日しなよ、俺らちょっとやる事あるからさ」


 

 そう言いつつ俺はあくびが出てしまう。


 俺は一口だけ直で飲んでしまったが、グラスを二つ置いて椅子に座った愛ちゃんにそのビールを勧める。



「誠!さっきあんたそれ飲んだでしょ!!別のにしなさいよ!!」



「いや、目の錯覚じゃね?」



 目ざとくみてんじゃねーよ、ババァ……。


 愛ちゃんは俺と母さんのやり取りをみて、ふふふと笑ったと思ったら……その声は嗚咽へと変わってしまった。



「なんども、すみ……ませ」



「……」



 母さんはさっきまでのお喋りバァさんをやめて押し黙り、静かに箱ティッシュを置いて居間から居なくなった。


 俺はこの様子をみて、こういう対応ってこの人から教わったんだなと変な納得をした。


 これが良い対応なのかはわからないが、泣きたいヤツは泣かせた方が良いっていうか……あえてそれを止めるようとは基本的にしたくない。


 今、泣き止むのを急かしたりしない、それが俺が出来る精一杯の事。

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