椚誠の苦悩12
「お待たせしてスイマセン……」
こちらを伺うように席の端からそろりと戻って来た。
「ん、プリン食べる?」
それを聞くと愛ちゃんは、輝く目でこくこくと頷いて席につく。
「コーヒーは?」
またこくこくと頷く。
ん?なんだ?
「どしたの?」
「ぃえ…………」
あ、目がキラキラしてるのは、あらら。
「すいま、せん…….なんか、くるものがあってぇ」
「……ほら、補充されたての紙があるぞ」
俺は先ほど片付けと共に、補充されていったペーパーナプキンを手で示す。
一枚そろりと抜いて、愛ちゃんは目にちょんちょんと当てた。
何故また泣く。よくわからんな。
「すいません、友隆の事思い出しちゃって……」
「おぅ、そうか……」
まずいな、明日も平日だぞ。この話が膨らむと長くなりそうだ。俺、文字通り寝不足はかなりたたる方なんだよな。
「ーーあ!!!」
「んっ?」
「ハンカチがっ!!」
「あぁ、もう返して貰ったから大丈夫だよ」
「洗って返しますよ!すいません!」
「いや、返ってこなかったら困るもんで……」
「ちゃんと返しますよぉ〜!!」
良かった、感極まったのは一瞬だったらしい。プリンおとなしく食って帰るぞ〜頼む。
「俺、コーヒー持ってくるからさ、待っててね」
「え!あ、ハイ!!」
んーーーお豆ちゃんというか所作が『やって貰い慣れてる』感じ。
いや、悪い事じゃないけどな、俺は俺でそういう事を強要するような歳上にならないよう気をつけよっと。
さて、お馴染みのドリンクバー脇でのメールチェック。
無音の友隆よ、今日は連絡返さなくて正解だ。
まぁ、これは貸しだからな……でもお前の放任主義が愛ちゃんをそうさせたんだろう。
俺はハーとため息を吐き、コーヒーのアイスとホットを持って席へと戻った。
「おかえりなさい!!」
あームカつくなぁ、この生き物。可愛いからか?可愛さ余ってなんとやらなのか?
「どっちがいい?あったかいのと冷たいの」
「冷たい方で!」
「ん、」
また、エヘヘと笑ってみせる。
なーんか、感情の起伏がな。差別的な感性でないと思いたいが……女の子ってこんな感じか?
コロコロと変遷していく様子は癇癪持ちとそう変わらねぇ。
まぁ、俺って動じないタイプじゃん?
自分と比べてそう思うだけなんだろな。
ただ泣いたり笑ったり、忙しないよ。
笑顔を繕えるんなら、泣くのも我慢できそうなもんだからな。全部が嘘くせーんだよ。
こーゆーの考えすぎて結構人嫌いになっちゃったのかしらね俺は。
そんな事を考えながら俺はコーヒーをすすった。
即座にプリンを完食して愛ちゃんはカラカラとコーヒーのアイスを弄んでる。
「駅から歩くからさ、タクシーで帰るよ」
「あ、ハイ……」
やれやれ、ここでお別れして終わりじゃないからな。結構大変よ。
「椚先輩って、結構スマートですよね」
「ん?そんな痩せてる方じゃないけど」
「そういう意味じゃないです!!」
「そんなん解かっとるわ、冗談だよ」
「えー……自認してるんですか?」
「お、その返しは強気だな、いいぞ、面白い」
「学校でもモテてましたもんね!!」
「可愛い子の前では全力を尽くすので」
「やだぁ〜チャラ!」
「おい、ガキ調子に乗んなよ」
「スンマセン……」
そんなやりとりをしつつ、俺もプリンを食べ終えて何枚にも重なった伝票を引っこ抜いた。
長い長い旅路を終えた気分だ。
時計を確認すると、まだ九時過ぎではあったが一日勤務したぐらいのウェイトに凄まじい疲労感を感じる。
「よし、いくぞ」
「ハイ!」
会計先で、愛ちゃんに先に降りておくように伝えるとぺこりと頭を下げて階段を降りていった。
うわ、一万超えてる……ファミレスのビールって高いよね。やだ〜。
そんな事を思いつつ、精算を済ませると先のお店の人が横から出て来た。
「椚さん、彼女と仲良くね!!」
んっ?
「あっ!!お前っ……失礼、大学のサークルの……」
「次来た時は、名前思い出してくださいよ」
そう名札を隠しつつ告げる奴に、ハハ……と、俺は渇いた笑いをする。
「彼女じゃねぇよ」
「またまた〜!!」
「ちょっと積もる話出来ねぇんだわ、よく来るからさ、そん時に五分十分付き合ってよ」
「はい、喜んで〜」
俺は手を振り、その場を後にした。
これだから地元は嫌だね。
しがらみが嫌でチェーン店男なのにさ。
俺は足早に階段を駆け降りて下で待ってた愛ちゃんと合流してタクシーに乗り込む。
暫しの沈黙が流れ繁華街の煌めきが消えて来た頃。
「先輩気付いてました?」
「ん?」
「さっきのファミレスの店長」
「おぉ……」
俺は愛ちゃんのその言葉に、思い出されるような……出されないような……なんとも言えない電気信号を感じる。
「友隆と揉めたヤツですよ」
「…………!!」
「やだ、先輩気付いてなかったんですか?」
「あー今100思い出したわ」
顔は結構可愛い系で、多分ね……大学デビューなのよ。俺らの名目だけ持ったゆるーい飲みサーに入って来たソイツはさ、サークルの女の子全員に告白して回るって……。
急激に蘇る情報量に俺は目頭を押さえて肩を震わせた。
「先輩?」
「アイツ……うっ……く……く…」
「もー……何笑ってんですか」
「いや、俺ぜんっぜん気が付かなくて……ふっ……くく……」
「……」
「あれ?愛ちゃん知ってんだっけ?」
「え?なんですか?」
「いや、あー揉めた理由」
「詳しくは知りませんけど……あたし、あの人に告白されてそれで友隆が怒ったんですよね?」
「おーー……そうよ」
俺は鼻水をかんで、その時代を懐古した。
いや、この話また今度思い出そう。
「あれ?この辺って……」
思わぬ横槍が入ったが、着実に俺の家へと近づいている。愛ちゃんが何かに気付いたようだ。
「あ、その先右の細い道入って下さい」
もう愛ちゃんは外の景色に釘付けだ。
前のめりになってみたり、後方を気にかけてみたり。
「あ、そこで大丈夫です」
俺はさっさと料金を払って、愛ちゃんのボストンバックを持ち外へ出る。
ニコリと笑みを向けると、戸惑いながらも仕方なさげに地に足をつけた。
「あの、ここって……」
「ん、俺ん家だけど」
呆けてる愛ちゃんを気にせず、俺はドアのチャイムを鳴らす。
すると直ぐにそのドアは開いた。
「ちょっと!誠、あんたはもーいつも急なんだから……」
「母さん、一応誰か確認してからドアは開けてよね」
「んもーあんたしかいないのよ、こんな時間にくるのはねぇ、それに……」
そう言いかけて後ろにいる女の子の存在に母さんは気付いたようだ。
「こんばんは……」
愛ちゃんはもじもじしながらそう言い、最敬礼をして顔を上げた。




