椚誠の苦悩6
俺は、正にプカプカタバコを吸っていた。
暫くぶりのタバコだ、少しづつ入れるようにしても気持ちいい以前に目眩がする。そういうんもだ。
開封済みのタバコにねじ込まれていたライター。
2本吸ったかぐらいの様子で、外装に少し亀裂が入っていた。
潔癖っていうか几帳面な風で、こういう雑っぽさが友隆らしい。
どうでもいい事はとことんどうでもいいタイプ。
俺に似ていて、歳下なのにすげー気が合うヤツ。
近年の想い人はもっぱら友隆。
緑ちゃんに浮気してごめんな。
お前、アンタ、コイツ、時々先輩と呼んでくる無礼な後輩でもさ……歳上だからと皮被って接してくる奴らよりよっぽど好きなのよ。
対等に思えるほど有能だっていうのが備わってるからなのかもしんねぇけど。
ぶっちゃけ、俺お前には嫌われたくねぇよ。
「……きっしょ」
俺は呟いていた。
上を向いて缶コーヒーを180度に向けても、もう出ない。
戻ろうとしたところ、まさかの来客だ。
「……っす」
「お疲れっす」
想い馳せてた愛しの愛しのトモチャンじゃないの。
俺はタバコを差し出すと素直に一本咥える友隆に火を付けてやった。
ぺこりと頭を下げて、缶コーヒーの蓋を開ける。
その開けられたコーヒーを俺は躊躇なく奪い飲んだ。
「ちょっと!!」
「なんか、足んなくてさ」
「自分で買って下さいよ!!」
「定期貸して」
そう伝えると、友隆はポケットからじゃら銭を取り出し俺に渡してくれた。
「貴重品は身につけてた方がいいですよ」
「そうだな……」
ボタンを押して、また同じコーヒーを手にする。そして、引き換えにするわけでもなく飲みかけの方を友隆の前へ置いた。
「……返せよな」
「お金貸してとは言わなかったもんで」
口角を上げつつ、友隆は煙を吐いた。
「じゃあ、せめて飲んでない方返してくださいよ」
「……トモさ、悪かったな」
「仕事のことですか?」
「バッカ、ちげぇ、言っとくけど誤解だからな」
「あー、まぁ、俺もなんかそんな気がし始めてますよ」
「……」
「でも、ないっすわ、そーいうの」
『そーゆうの』ってどういうのだよ。まぁ、半信半疑にしておいて、もしも裏切られてたらって時の自己防衛が働いてるんだろうな。
俺もお前に完全に略奪者……裏切り者認定されたとは思ってねぇよ。
テーブルの真ん中に置かれたタバコに手を伸ばすと、今度は友隆が火を付けてくれる。
2本目だからと深く吸い込み、俺はむせ返った。
「あ、謝罪は受け止めたんで報復されても文句言わないでくださいね」
俺は、掠れる声で伝える。
「……腹パン、一回くらいにしてくれよ、呑む前な」
久々にまともなコミニュケーションをとった気がする。
傍目からは変わり映えのない無礼な後輩と、ちゃらけた先輩に見えていただろうけれど、やっぱ違うんだよな。
友隆は半分も減ってないタバコをギュッと押しつぶし、コーヒーを流し込んだ。
「ほんじゃ、先行くんで」
「あー俺も行くよ、すぐ行く。タバコは?」
「あげましたから、ご自由に」
スカしててカッコいいなーうちの友隆は。
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「椚先輩、緑町さんなんとも無かったみたいですよ」
「ん、あぁ……そうなの?」
どうしたどうした?やっぱり仮病か?
いや、あの子真面目だからな、そんなタイプじゃないわ。
そもそもなんで、友隆経由なんだよ。
俺の社用アドレスに送ってくれば、いーだろうが。
「まぁ、いづれにせよ体調悪いんだったら数日休んで構わないって伝えといてくれよ」
もう俺も貫くしかないわな、友隆貿易を。
「了解」
俺ら以外に会話をしている同僚はいなかった。
もうひたすら、タスクタスクで皆脇目も振らずに集中している。
課長が戻ってくる前に取り纏めておこうと必死なのだ。途中経過じゃ、ケチが付いて面倒な事になるからな。
とはいえーー業務配分の掲示板を更新すると、どうも捗っていない奴がひとり。
「○○よ、その冊子作成みたいなの俺やるから、PCの方で手を動かせ」
「いやっ……こんな仕事、申し訳ないっす……」
こんな仕事と思ってる事を普段緑ちゃんにやらせてんだろーが。言わないけど。
俺はコピー機の前でもたついてる○○から、直接資料を取り上げた。
「お前の仕事手伝いたいのは山々なんだけど、説明受ける時間はないからな、何部だ?」
「ホント、すいません!!16部です!!」
ぺこぺこしながらデスクへと戻っていく様子を横目に、3部作り終えられた冊子を横に投げて、先に紙の補充をする。
そして纏めてコピー機に資料を飲み込ませて、部数指定をした。
わんさか印刷されていくのを放置して、俺はデスクに戻った。
『1部づつ作ってたw』
『印刷終わったら並べてくれ』
くだらねぇメールをピロピロ入れてくる同僚は俺の方を見て変な顔をしたと思ったらデスクからステープラを取り出し横にスタンバイさせた。
基本、こいつも有能よな。
コミニュケーションがウザいだけで。
感情ダダ漏れてんのも、まぁ……嫌いじゃないな。
俺はため息をつきつつ、友隆のチェックを入れる。
完璧、完璧、もう完璧よ。
差し戻しのやりとりを嫌って、超精密仕上げだ。
人によって思い違いそうな部分に、注釈まで入ってる。
友隆の凄いところはそうしなきゃいけない時と、そうでない時を使い分けられる事。
今日はその時間よりも、差し戻しの時間を逆算して早い方を取ってるんだ。
俺の細切れの時間も織り込み済みかよ、偶然とは思わなんだな。
『承認へ』
富海の苗字が課長承認へガンガン上がっていく。
『富海戦闘力高杉w』
俺がそのメールを確認してる間に印刷の終わった資料を持って俺の前を通る同僚。
こいつ、いつ送ってきたんだよ……変な仕事の速さを発揮しているな。
「紙媒体!!やばい!!」
同僚は、どさりと空きデスクに紙束を置いて叫んだ。
あぅあぅとした顔で○○がこっちを見た。
『w』
あ、俺が送ったんだよ『w』な。
ただペーパーレスって難しいんだよ。ついていけない世代の人がいたって仕方ねぇんだ。その逆もあるんだからさ。
俺は中学の生徒会でよく、バケツリレー的に冊子作ったよ。○○はそんなん経験した事ないんだろうな。
「俺、留める係やるわ」
また同僚は変な顔をする。それはどういう感情なの?うまく形容できない。本当に変な顔をするんだよ。
「ページ数振られてないんですけどーー!!」
「すいませーん!!!!」
こら、煽るんじゃねぇよ……振られてなくても分かるだろ。
「言ってるだけだから、気にすんな。そっちを頼んだぞ」
「ハイ!!!ふいません!!」
『ふいませんw』
『もう、それはお前に任せたわ』
「えー!!」
周囲の皆が、声の元に視線を向ける。
メールの内容を言葉に出して返すなって……
俺はやれやれと言った感じで時計を見た。
課長がいないと、ほんと学校みたいになっちまうんだよな。
まぁ、人の事は言えないけど。
いつもウザいですけど、課長……今日は早く戻ってきてください。




