椚誠の苦悩4
清々しい朝、燦然と輝く太陽……とは違う。
曇りのち雷雨。
知ってたよ、今日の予報はその通り。
変な天気ですなぁ最近は。
俺は曇り空を窓から見つつ、昼休憩外に出た途端これだ。
俺って別に晴れ男じゃないもんな。
こう見えて。
かっこわらい、(笑)ってやつだ。
もちろん傘を持ってるからな、このまま外へ出るんだよ。でもひとりで飯食う当てが外れたわなー。
革靴が濡れるのは勿論、スーツの裾が濡れるのも嫌だよ……傘を差すのはほんの一瞬。地下街に潜るまでの間だけ。
その間に勇気が必要な程の横殴りの雨だった。
まぁ、見ててもしょうがないからな。俺はモーゼではない!そう、意を決して駆け抜けたのだ。
それでも一瞬でびしょ濡れの傘、叩いて手で絞りつつ閉じる。
「うー……」
外に出たことが失敗だ。準備のいい奴らは来る前に弁当とか買って来てたわけで。元より失敗してたって事。
出前はなー遅いし、俺、雨の日の出前って気が引けちゃうタイプなんだよな。余計なお世話なんだろーけど。
そんな事を考えながら、階段を降りると地下街の湿気っぽさに嫌気まで差してきて、俺は適当に腹に収まる物を物色した。
湿気っぽい中、海鮮丼なんて買ってみたりして……あっさり昼食が決まったせいか、変な余裕が生まれる。
せっかくこんな天気の中で出張ってきたんだからさ、目的を達成した後も、一周見ていくのも悪くないよな。
こんな天気に皆さん何をお買い求めなんでしょうね?
人の流れの観察をしつつ、あれやこれやと視線が行ったり来たり。
そんな時にふと足を止める店があった。
飴配り少年……もとい、友隆行きつけの店。
魔窟のお嬢様方から聞いてるんだぞ!
飴玉でたぶらかしてるって話をな!!
……緑ちゃんが出社してきた時に渡せる物、なんかないかしらね。
あ、俺、実はその為に徘徊してたわけ?
そんな事したってさ、なんにもならないのによ。
でもあの日、あの時俺がいなけりゃ彼女は泣いたりしなかったよな。
言った事には謝れない。
けれど俺の存在には謝りたいよ。
傷つけたいわけ無かったのにさ……
ふと物思いに耽った俺は、無防備に視線を上げてしまった。
バチリとお店のお姉さんと目があってしまう。
にっこり微笑みながら試供品の飴を手渡してくるのだ。
「美味しいですよ!この飴は限定の猫の缶にも入ってて、一番人気です!」
「じゃぁ、それひとつください」
もう俺は自動返信メールのごとく、返事をしていた。
「ありがとうございます!こちらの5種のフルーツキャンディもオススメです、ばらまき系とか言われてますけど、皆さんリピート買いが多いんですよ!」
その統計資料見せて?なんて、一瞬頭をよぎったくせに、店員さんの一生懸命さが緑ちゃんに重なってついつい、それまで買ってしまう。
「ラッピングはどうされますか?」
「……いや、結構です。手提げだけ別に一枚頂ければ」
「ありがとうございました〜!!」
一瞬で俺は散財していた。
飴玉一袋二千円??猫の缶詰五百円じゃん……5種類10粒ずつだとして、一粒が40円……なんだと30粒入り?!どういう配分だ?!入ってない味があるかもって??へーそう言う物なんだ……
俺はパッケージの裏側を見つつ、エスカレーターから上へ登っていく。ちょっと歩く距離が増えるが、屋根付きの下を通れる気がしたからな。
外へ出ると、先ほどの横殴りの雨から少し、雨足が弱まっていた。
雨の日に、飴を買う俺。
うーん、おじさん。
雨の日に、飴をどうぞ!
うーん、おじさんだねぇ、この台詞は。
友隆が飴玉少年なら、俺は飴玉王子になりたいよ。
学生馴染みの先輩後輩の仲間から、職場でも先輩後輩だもんな。
なーんかあいつとは張り合いたいよな。
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レインコートに長靴。意味なくオシャレな柄。去年の梅雨先に、雑貨屋さんで衝動買いしたそれ。
傘まで可愛いんだよ。裏側に猫ちゃんの顔が散りばめられてる。
雨の日のデートってロマンチックじゃん……彼氏……みーんな、自然消滅でそんな願いは叶ってないけど。
富海君、たぶん猫飼ってるよね。
猫の話とか出来るのかな。
そんなこと……えーとデートはさ、夢の話なんだけど。実家で飼ってた『むっちゃん』の写真見せたいな。
むっちゃんは可愛い子だった。
私が就職してさ、いつの間にか死んじゃってたの。
ほんと、いつの間にか。
戻れる時に実家に戻った時、むっちゃんはいなかった。
ある朝冷たくなって、私の学習机の下……そこで丸くなってたんだって。
むっちゃんが来たのは中1の時、今の歳になると分かるような気がするの。
突然猫が家に来た理由。
お母さん、昔から猫飼いたがってたもんね。
ちょうど子育ての落ち着くお年頃ってやつだったんでしょ?
私が、部活動で遅いとか……お父さんとの仲は知らないけど。一人の時間が長かったんだよね。
むっちゃんがお母さんの子供っていうか、友達っていうか。
お母さんは、お友達だっていってたね。
だから私も友達だったよ。お父さんにとっては息子だって聞いたけど。
悲しかったなぁ……
でも、今でも……むっちゃんはさ、死んでないんだ。
ふとした時に、そばに居る。
いつも、ふと慰めてくれてさ。
スピリチュアルなことは信じてないくせに、むっちゃんはね、辛い時に必ず私の側で寝ていてくれるの。
あったかくて、やわらかい……むっちゃんを腕に乗せて寝ているから。
そういう夢!!
夢なんだよ、でもそれが夢だって証明できないように、むっちゃんが来てくれなかった事もわかんないよね。
むっちゃんはいるよ、きっといてくれてる。
夢だって分かってるくせに、夢じゃないって否定する。
あーあ、なんか、いっぱい思い出しちゃった!!
むっちゃん……『おむすび』の事ではもう泣けないんだ。
悲しくなるのは、富海君の事ばかり。
富海君……友隆君……いい名前だなー。




