そう、長い一日だった
俺は眠れずにいた。
別に緑町さんとアイツがどう言う話をしたのかが、気になってる訳じゃない。
愛が出て行った原因。
これだ。
それなりに仲良く暮らしていたと思う。
愛が猫を飼い始めて……ちょっと見たくないところ見たりしたけれど。そう言う時もあるだろうって、俺はなかったことにした。
だからって、動物に『あんたのせいよー!!』とか、叫ぼうとは思わない。今のところは。
でもここ数日で、俺もずいぶん猫に話しかけている気がするな……言葉なんて通じる訳じゃないのに。
でも、猫を置き去りにするってのはさ。
そんなに大事にしてなかったんだろ。
シャノが可哀想じゃん。
ーー猫にはそんな事分からないだろ、何考えてんだ俺。
いや、言葉が通じないのと分かる、分からないは別の事かもしれないな。
俺が大きな声を出したら、あいつは逃げていく。
これって、どうよ。
言葉が通じないのに、なんか怒られてるって事が分かるとか。
猫からすると、ただ恐がらせられてるだけなんか?
だったら俺、酷い事してんじゃないかな。
人に大きな声、たまに出したりするけどさ。
人は分かるじゃん、意味が。
猫はわからねぇじゃん、意味が。
シャノに大きな声出さないように、気をつけよう。
反射的に怒鳴っちゃたりするし、な。
遠目から見てる時は、動物に怒って何になるんだとか考えてたけど。
なんか、今は通じそうに思っちゃってんのかな。
シャノはただ恐いじゃん。
わかんねぇんだもん。
「ハハ……」
(猫の気持ちになってら、俺。)
猫、猫、猫。
いない彼女より、いる猫か……。
俺は目を閉じて、睡魔を待った。
こんな事考えてたってしょうがない。
明日があるんだ、どうせ何も変えたり出来ない。
緑町さんにどのタイミングで飴を渡そうか。
愛と、椚先輩の事は……もう知らん。考えん。
寝よう。今日はもう眠らないと、明日に響く。
どうでもいいんだよ、いいんだ。
そうだろ、そうだ……
「ーーーーだめだ、眠れねぇ〜!!」
俺は起き上がり、充電器に刺さったスマホを手に取った。
つまんねぇ動画でも見れば眠くなるだろ。
とにかく今の思考のループから抜け出したい。
考えまいとするほど、考えてしまうんだから、考えない為にはやっぱ視覚情報だよな。
動画の再生をしようとアプリを開くと頻繁に猫について検索しているせいか、おすすめ動画に猫が並んでいる。
俺の知ってる猫ばかり、シャノみたいな猫はいないな。
(お、この調子、今忘れてた)
なーんで、愛はシャノを選んだろう。
(やめろ、愛の事は考えるな)
なんか、顔もパンチされてるし。
色もこう、混ぜかけの絵の具みたいな、迷彩っぽい変な柄になっていて。
目も猫目ってやつじゃない。そういうメイクとは違うタヌキみたいな……
なんだろな、ホント変な猫だよ。
チンチラ……このチンチラってやつに顔が似てる。
色は全然違うけど。
でもちょっと似てるだけで……いや、だいぶ違うな。
シャノは横から見ると真っ平だ。
ちょっと鼻の低い猫じゃない。
でも、この猫は俺好みだ。
シュッとした猫よりも、なんか丸みがあって可愛いんじゃないか?
「……」
そういや、今日はお化けの音が聞こえてこないな。
あいつ、寝てるんか?
俺はふと、そんな事に気づいてスマホの灯りを頼りにとうとう布団から出てしまったのだ。
ドアノブに手をかけて、俺は止まった。
そんなもの確認してどうするんだよ。
寝てるに決まってる。
「シャノ……か」
俺はまた、自分を嘲笑ってる。
猫なんていらねぇって思ってたじゃん。
今だってそうだ、猫のことばっか考えさせられてよ。
猫なんてほっときゃいいじゃん。
ただの動物なんだから、そんなもん飯食ってウンコして、勝手に暮らしてるだけなんだよ。
おれはドアノブから手を離してもう一度布団に潜り込んだ。
ちょっとさみぃな……
あいつが乗ってるとあったかい、
「……」
ーーまた、ため息が出る。
早く寝て、朝はゆっくり訪れてくれ。




