表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
日常の兆し

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/127

そう、長い一日(午後)

 俺はとにかく集中した。


 集中、集中、ゾーンに入るって言葉があるけどまさにその状態。


 この仕事は何時間、そう想定していた時間よりもかなり早く仕事が片付いていった。


 午前のていたらくっぷりを鑑みると、速い、速すぎる。そうなると抜け漏れを疑うのだが見返してもキッチリと仕上がっている。


 先方から、どこでケチが付くのかも想定出来た。


 今自社で可能な最良の提案、そのケチが付いてからの勝負まで準備万端なのだ。


 俺は自分の仕事がひと段落した事を確認し終えると、目の霞のせいで自然と目頭へ指が伸びていった。


 ついでに頬までむにゃむにゃと擦っていると、嫌〜な重低音が聞こえてくるわけで。



「お前、返信しろよな」



「……仕事が終わってからで」



「時間つくれって、早い方がいいんだよ」



「仕事中なんで!」



 何故か緑町さんと目が合った。俺も気に掛かったから彼女の方を見てしまったんだろう。


 ひっそりと話しかけられたにも関わらず、最後は周囲に聞こえる音量で俺は声を荒げてしまった。


 心が荒んでる、メンタルが最悪の状態だ。仕事を終わらせていて良かったとこの時ほど思うことはないだろう。



「……誠さん、まじでなんなんすか」



「俺を疑うなよ、そんなに信用ないか?」



「何を信用しろってんだよ」



「全て信用しろってーの……」



 俺はコイツの顔を見上げた。


 したり顔で笑っているように見える。


 瞬間的にコイツを殴り飛ばしたらどう転がるかまで想像してしまった。


 けれどその拳を留めたのは、会社だからじゃない。


 分からないが、なにか遠くを見ているような……一抹に感じる寂しげな様子が俺をここに留めんだ。



「今日は聞く気になれないんです」



「聞いた方が身のため世のため俺の為」



「……めんどくせぇ事すんじゃねぇ」



 ここまで言葉を紡いでおいて、俺はもう何も言葉を発する事が出来なくなっていた。


 更には、視界に入ってくる緑町さんの不安げな表情が俺をがんじがらめにしてくる。


 状況を察して今にも席を立ち、俺らを止めようとしているのだ。


 俺の事は放っておいてくれ、あんたには関係ないだろ、そう椚と同じような扱いで捲し立てられたら良かったのに。


 彼女の日々の優しさ、誠実さ、敬意、この冠が俺の動きの全てを封じる。


 たかがプライベートで女と別れて、猫を家に置いてかれただけなんだよ。


 こんな馬鹿馬鹿しいことに、気持ちを傾けたりすんな、鬱陶しい。


 ついて出る悪態の想いに俺自身、嫌気が差すんだよ。


 そう、ふと自分が自分でないような、もう一人の自分が俺を見ているような感覚になるともう冷めている。



 俺は視線を向ければ交わる緑町さんの目を見て、笑顔を作って見せた。


 それにぎこちない、何とも言えない笑顔のようなものを返してくれる。


 俺が受け止め切ったら、話してもいい。話さなくてもいい。あなたにはどうだっていいことなんです。


 俺なんかに、時間を使わせてごめんなさい。


 今日は、行きません。


 絶対に。




**********

 



「ーーーーあいつ直帰で逃げやがったよ」


「タイミング良すぎるって、あいつの案件に今そんな仕事あったかぁ?」



 相変わらずの調子で椚先輩は自分の髪をくるくる弄びながら声を掛けてきた。



「椚先輩のせいで今日はいつも以上に疲れました、毎回付き合ってる富海くんが本っっっっ当に気の毒です」



 両手をグーに握り、デスクに伸ばし切ったまま三十分は待ちぼうけただろうか。


 残業をしていた同僚が、一本電話を受けて『富海友隆』の名前の下に直帰のマグネットを貼り付けた。


 その様子を私と椚先輩は、ぼんやりとしていて見逃しそうになるところだった。



「内線かぁ、外線だったらワンチャン取ったかもしんねぇよな〜」



「私達退勤してますからね、外線に誰も出なかったら自分のクライアントかもしれないと気になったかもしれません」



「緑ちゃんごめんねーうちの友隆が来なくて」



「……」



 私は入社当時から、この椚先輩にいい印象はなかった。


 軽口を叩いているばかりで、仕事をしているのかいつも疑問に感じている。


 にも関わらず、周囲の人達は……ちやほやというか、いつも気を遣っているように見える。


 それに、後ろを歩くと気まずい思いをする。


 すれ違いざまの挨拶、そんな関わりなのに、お相手はどう見ても気があるんだろうという振る舞いがありありと伝わってくるのだ。


 遠くから見ている分には分からないものなのか。近くで見ていると分かるものなのか。私の感覚がおかしいのか。


 傍目から見るとこの人はそんなにいいものなのかと、自分にだけが分からない不思議な物質だとすら感じていた。


 私から見たこの人は。


 傍若無人。


 そう表現するに足り得る存在。


 中途入社で入りたての私の仕事にあれやこれやとケチをつけて……分からない事ばかり。


 同じ年度入社の……所謂同期が遅れてるって、マウントを取って楽しんでるわけ?つまらないパフォーマンスじゃん。


 尊敬している先輩に愚痴っても椚さんは面倒見がいいからね、なんて言われて袋小路。


 もう放っておいてよ、自分の仕事をしたら?


 椚先輩との出会いが逆境との訪れだと思っていた。


 そんなモヤモヤした日々を重ねて一人立ちした私が今、ここに居る。


 そのきっかけ、私を解放してくれたのが友隆君……富海君だったんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ