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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
新たな生活

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18/127

呼び名

 俺は尻餅をついているような状態で、その場に項垂れていた。


 初めて経験することは労力がすさまじい。

 しかも誰も教えちゃくれない。


 教えて貰えなかったにせよ想定していた事ならば、どうすべきか考える時間もあっただろう。


 何の予備知識も手段もない人間が、事にあたるのは大変だ。


 『見て盗め』と言う先輩が居た事はないが、『想像して、やれ』という彼女……元彼女が居たんだわな。



「美術じゃない!猫のトイレ掃除は、美術の授業と違うぞー!!」


「ーー何言ってんだか……ホント……」



 そんな声をあげている俺の元には忍者の如く現れた猫がいて、驚いたりはしなかったが声を掛けたくなってしまう。



「お前のトイレ綺麗にしたぞ、どう?」



 猫は顔を一度前のめりにしたと思ったら、そろりとトイレに近づいた。



「あら、ご利用ですか?綺麗にしたばかりですが、ご利用になりますか?いいんですよ、あなたのおトイレですわ」



 猫は引き出しの上に立つと、くるりと方向転換をしてこちらに顔を向ける。



「アタクシの方を見なくて結構よ、どうぞ存分になさって」



 猫は耳をハの字にして、目を細めた。



「その顔、初めて見るわ、ちょっと面白い、ちゃんと尻尾挙げてするのな賢い、賢い」



「賢いニャー、賢いニャー」



 俺は声援をあげて見守るが、猫はザッザと砂をかく仕草をしてトイレからピョンと出て行ってしまった。


 確認すると、跡地には何も残されていない。



「……出てないぞ、やるんなら今だったのに……俺がうるさくて集中できなかったか……ごめんな?」



 猫は答えない、けれども尻尾をパタパタさせていた。


 猫が先程かいて溢した砂を拾い上げ、ゴミ袋へとまた詰める。



 「ーーーー猫の砂は玄関」



 謎の呪文を俺は唱えていた。


 『猫の砂は玄関』とは、手紙の中で意味の分からない文言だったがこの意味がわかった。


 玄関には俺の感知しない段ボールが確かにあったから。


 彼女がなにか注文したのだろうと、放っておいたがこの段ボールには『猫の砂』が入っていたのだ。


 既に封が切られて開いていた一袋を持ち、トイレの引き出しへと流し込む。


 砂の流れる音は小気味いい。そしてヒノキのような香りが漂った。



「減ったら、足す、これ原理原則!」



 俺は出しっぱなしだった、引き出しを締めて元通りの猫の家を完成させた。



「猫の砂って、素敵なアイテムかなにかと思ってたわ……猫とのお守りみたいな?」


「ねぇ、シャノちゃん……」



 俺はふいに初めて、この猫の名前を口にした。


 名前なんて呼んだら、情が湧くかもしれない、俺の猫になってしまうかもしれないと頑なに口にしないよう気を付けていたのだ。


 彼女が毎日呼んでいた、シャノちゃんという名前。


 シャノちゃんは、名前に反応したのかは分からないが声を出して返事をしてくれたようで少し……ほんの少し可愛いと思ったかもしれない。



 いや、やめよう。


 こいつがもし、俺に懐いて手放す事になったらさ。


 俺が辛いと思うのは勝手な事だけど、こいつは可哀想だもんな。


 俺が変な感傷に浸っていると、猫はトイレの中に姿を消して行った。


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