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俺は猫とメンヘラがキライだ。  作者: 反射的な司馬懿
新たな生活

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起こっていた事件

 俺は目を覚ました。


 今この身に起こっている事はすぐに理解できた。

 

 腹の上に乗る毛の塊が、いの一番目に入っている。



 俺はこの物体を邪魔とも思わなかったが、手をスライドさせて腹から退けた。


 毛は何事もなかったかのようにトコトコと窓際へと移動して行く。



 それを目で追うのをやめて、またスマホをいじり今度はゲームを始める。


 面白くもない、ただ時間だけを吸っていくだけのもの。



 そうこうしているうちに、もう夕方だ。


 合間合間で眠ってもいたようだった。



 そもそも日常的に寝不足なんだよな……俺。



 朝一番のポルターガイスト……皿バラバラ事件の清掃に従事したが、基本的には何もしていない。


 そんな一日だが、減るもんは減るんだよ。


 俺は名ばかりの夕食を取る事にしたが、出前の注文で他人に繕った口を聞くのも嫌だ、コンビニに行くのもめんどくせぇ。


 家にあるもので適当に食べるのが俺の今の回答だ。



 むくりとソファーと一体化していた自分の身体を起こし、再び冷蔵庫から缶ビールを取り出す。


 飲みながら調理をするべく、水を張った鍋にパスタをそのまま突っ込んだ。

 


 自分の食べるもは適当で構わない。


 冷蔵庫からベーコンを取り出し、フライパンで焼いていると猫がまた鳴きながら近づいてきた。



「……」



 俺はその様子を無視して調理を進めていたら唐突に猫がジャンプしてシンクの隣に乗ってきたのだ。


 その瞬間、俺は猫を追い払う。


 単純に汚いと感じたからだ。


 猫はめげずにまた鳴き、台所を行ったり来たりする。



「肉が欲しいのか?」



 俺の顔をみて鳴いてみせる。


 俺はパチパチ音を立てていたベーコンを一欠片箸で摘み、水で濡らすと猫の顔の前でプラプラさせて見た。


 すると両手を出し、空中でなにやら掻いている。


 俺は肉が欲しいのだと確信したので猫の皿にそれを放りこんだ。


 もの凄い勢いで猫はベーコンの皿に飛び付き、変な声を出していた。


 俺はその様子を見つつもパスタのような物を完成させると席には付かず、そのままキッチンで立ち食いを始める。



 ぼんやりとした室内の風景。

 その中にある、モップの先っちょ。


 前後ろもよくわからないそれは、皿をしつこく舐めているようだった。



ーーーーかと思えば唐突に走り出し、リモコンにぶつかった。


 クルクルと周るリモコンにビクッとして、今度はパンチを繰り出す。



「すげー理不尽だな……」



 自分で発した理不尽という言葉に彼女の顔がふいに浮かんだ。


 俺は突如、食欲もなにもなくなって、皿を置いてビールはシンクに逆さまに置き、勝手に流れるようにした。


 全てをそのまま放って、俺はシャワーを浴びに行く。


 俺はひたすら目をつぶって熱いお湯、少し冷たいお湯を交互に浴び続けていた。


 悩み事があると中々風呂場から出られないものだ。


……リ……


カリ……



……カリ……カリ




 音にふと気づき扉に目をやると薄らと黒い手が見えた。

 扉を少し開けると、その正体はピュンと居なくなる。


 そしてまたシャワーを続けていると、また音がする。


 また扉を開けると居なくなる。



「あー!!鬱陶しい!!」



 浴室に響く自分の声の大きさに自分で驚いた。


 俺はシャワーをやめて脱衣所で髪を拭き始め、動かす指先がふやけているのに気がつき指を擦り合わせる。



 だからどうしたんだ……


 どうでもいい事に思考が持っていかれている。



 俺は疲れているんだな、そう合点をいかせてドライヤーもかけずにまたソファで微睡んだ。



規則正しい時計の針の音。

腹にある、毛の塊。

猫が乗っている。



 俺は猫の背中をゆっくり撫でると、ゴロゴロと振動が伝わってきた。


 そしてまた、眠りについたんだ。





**********





 朝の目覚め、そのまま眠ってしまったのだと時計を確認する。


 放り投げたスマホも腹の横から出てきた。


 画面を確認しても連絡は来ていない。

 仕事の準備をしないと。

 今日も休みか。



 週末に出て行ったメンヘラの気遣いに感謝……



 それが唯一の救い、いや、昨晩酒も少ししか入れてないおかげでソファーで眠った割にはかなり目覚めがいい。



「……猫どこいった」



 俺はたった一日で、望まぬ同居人の所在を気にかけるようになっていた。


 横になったまま見える範囲を視線で探すと、薄っすらと透けるカーテンの前で伸び切って寝ている姿を発見した。


 俺は立ち上がり、カーテンをシャッと開けると猫は片手で自分の目を塞ぎ、くるりと腰を曲げる。



 日差しでキラキラと輝く皮毛とその仕草を見て、多少これは良いモノかも知れないと思えた。



 そして戸棚を開けると、瞬間移動してきたかのように猫がやってくる。



「腹が減ってたか?」



 その問いに答えるように顔を見上げて、ニャーと鳴く。



 俺はクスリと笑ったかもしれない。



 猫の皿に昨夜と同じように餌を注ごうとしたら隣の皿が空っぽになっている事に気がついた。


 ひとまず餌だけをやり、水の入ってたであろう皿を軽くゆすぎ汲み直してやる。


 けれども猫は特段水に興味を示さなかったので、喉が渇いていたわけでなかった事に安堵した。


 そのまま昨日の皿や調理器具を洗い始めて水切りに皿を立てた時に、残したはずのパスタがなくなっている事に気がついてしまったのだ。



「お前、食っちゃったの?」



 もちろん猫は答えない。

 しかし俺はパスタを残して皿を置き去りにした。


 勝手にパスタが消える事もない。


 動物に興味のない俺とて、人間の食べ物を猫が食い切っては腹を壊すだろうと流石に心配になった。


 俺は不意に昨日撒き散らした手紙の事を思い出して、ソファー周りから拾い上げて内容を確認する。


 猫に関する項目だけに神経を集中し、ノイズを排除する。


 すると、一枚様相の違う手紙、書体も違う。



愛ちゃんへ☆


猫の水はエアコンで蒸発するので毎日汲んであげてね!お水は水道水で!牛乳は人間のはダメだよ!猫用のが売ってるからね!


〜食べさせちゃいけないモノ〜

☆欲しがっても人間の食べ物は与えないこと!

☆特に食べたら危険!

チョコレート、ネギ、ニンニクーーーー




「うわ、やべぇじゃん……」



昨夜のパスタにはニンニクが入っていた。


猫の様子を伺うと特に変化があるようには見えない。


けれども、俺は彼女の友人が書いて渡したであろうアンチョコの信憑性をスマホで確かめる。



「……」



俺は玄関に置き去りになっていた小さな籠に猫を押し込み、動物病院に向かった。



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