何も出来ない
俺はとても信じられなかった。
猫を連れて行ったかどうかなんて、疑う余地もなかったのに。
けれど俺の足元にはモップの先のような、茶色い生き物がいる。
そいつは大あくびをこいて窓際へと行くとバタリと寝そべった。
猫だけ後で取りに来るんだろうか……
俺は取りに来るんだろうと、確認というか確信するために手紙を開こうとした。
頭ではそう考えて居たのに、手が伸びたのは小箱だった。
小箱を開けてみると、こんなんだったか……と、あまりハッキリとは覚えていなかったネックレスへのどうでもいい感想で脳を侵食される。
「……」
俺は蓋を閉じるとまた現実に引き戻されて、今度こそ手紙を取った。
少し厚みがあるだけで、それがとても重いものに感じられる。
とは言え手に取れば開くことは容易い。
友隆へ
○○ちゃんは、置いていきます。
連れてったら、あなたの事を思い出して辛いから。
ご飯は、右下の戸棚にあります。
中に入ってる計量カップでーーーー
初っ端から、猫の育て方に関する内容がつらつらと書かれていて俺は手紙をその場に撒いて読むのをやめた。
ツツツツツツ……
ツツツ…プッ…ツーツー……
すぐさま彼女の電話にかけたが繋がらない。
この猫の飼い主は彼女だ。
猫を置いていかれたら困る。
『飼えないなら、引き渡した友達に相談して返却しろ。俺に会いたくなくて、猫を取りに来ないなら、その友人の連絡先だけでもいい。とにかく困る。』
秒で内容を打ち終え、連絡したが全く音沙汰なし。
と言っても沙汰を待てるのは、十分かそこらが限界だった。
俺がこの状況にソワソワとしていると猫がやってきて、俺の足元で手を動かしている。
ポンポンと触るような感じで、鳴き声を出した。
丸い目で俺を見つめるこの生き物。
「おまえも生きてるもんな……」
そんな言葉がついて出て、俺は仕方なく頭に残った書き置きを元に餌をやる事にする。
ーーと言っても適当で、軽量カップうんぬんかんぬんは理解不能で戸棚から出した餌を皿に山盛りに注いでやった。
すると待ってましたとばかりに軽快な音を立てて、貪り始めるモップの先。
その様子を見て、ますます息が詰まった。
こんなの俺の手に負えないぞ……
その後何回か電話をかけたが、最後は着信拒否の音が鳴り、俺はとうとうスマホをソファーに投げつけた。
「携帯に張り付いてんなら、返事しろ馬鹿!!」
俺は怒りが頂点に達したところで、今日何度目かの現実逃避に走る。
冷蔵庫からビールを出して、缶のまま一気に喉へと通したのだ。
すると不思議なもので冷静さが取り戻され、馬鹿な事をしているもんだと朝から酒を入れた事に後悔にかられる。
「飲んじまったら運転も出来ねぇ〜」
ふと、こんなにも独り言を呟いている事に気付いて自分で自分を嘲笑ったりもした。
けれどなんの解決にもなっていない一連の行動。
俺はスマホで『猫』と打ち込んだが、その先のワードが分からない。
そして表示されるページを読みたいとも思わなかった。
思考を巡らせてもなにも出てこない。
『彼女』
『猫』
『置き去り』
こんな検索をかけて、冴えない頭でいくつかの事例を読む。
しかし、あまりのつまらなさに俺は一気飲みの酔いも回ってきたのか少しの間、意識を手放す事となったのだ。




