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[挿話] 奇跡〜sideダグディス〜

お待たせしました。

よろしくお願いします。

もう一度会えたら。

もう一度言葉を交わせたら。


何度そう祈っただろう。


◇◇◇◇


とある魔物を討伐している時だった。

いつもは弱小レベルの魔物しか出ていなかったから、騎士団の気持ちが少し緩んでいたのだろうか。


城内の森で闇熊が現れるとは思わなかった。

闇熊は鋭い牙と爪を持ち、丈夫な皮を持つため討伐がなかなか大変な魔物だった。


闇熊は巧妙に木に隠れ、ある1人の騎士を狙っていた。


ヤバイ。


そう思った時には体が動き、部下の前に立ち、二本の剣を抜いた。


時すでに遅し。

いや、不幸中の幸いなのかもしれない。

その闇熊の一撃で俺の片腕一本が大きな傷を負ったが、そのあと俺と残り10人ほどの騎士で応戦し、誰の命も失わずに討伐できたのだから。


そして、部下の代わりに腕に大きな怪我を負った事も、やっと願いが叶ったような、言葉で表せない複雑な思いを抱えていた。


俺は二刀流だったこともあって、片方の腕を失っても何とか騎士はできるかもしれない。


やはり、騎士は五体満足でないといけないイメージも強いので、騎士団総長との話し合い次第ではあるだろうが。


交渉がうまくいったとしても、俺は二刀流であることで強さを保っているし、自分の強さに自信が持てる。

左腕を失ったら、体のバランスが悪くなり、弱くなる。

それでは俺も満足がいかない。


沢山の言い訳を並べたが、1番大きかったのはどうしても左腕を失う覚悟がもてなかったこと。

そして、何故だかこの左腕は治るような気がした。


そろそろ左腕の壊死が肩の方まできていた。

そろそろ切断しなくてはならないと決意し、今日で騎士団長としての任務は最後だろう。と心してかかった仕事は、アクランド家と皇帝と第2皇子の顔合わせだった。


てっきりとんとん拍子で彼らの婚約が決まると予想していた。

しかし、第2皇子の涙からの反省。しかもアクランド嬢は魔法騎士団入団希望といった形で話は終わり、婚約の件は見送りとなった。


めでたい話で任務終了と予想していたが、人生色々あるなと思いながらも、最後の任務が終わりに近づき、対して少し寂しさを感じた。

だけど、気にかけていた第2皇子が皇子としての責務を思い出したことは良かった。と安堵していたその時。


奇跡は当然訪れた。


アクランド嬢が私の左腕の壊死に気づいた。

俺は左腕が見えないようにしていたし、騎士団長の怪我については帝国内の秘密事項だったため、帝国の重鎮しか知らないので気付かれたことも驚いた。


しかし、さらにありえないことに光魔法で治してくれるとのことだった。

彼女の光魔法で第2皇子の心が入れ替わったことから、その効力は保障されている。

そして、今の俺には失うものはない。

そう思い、光魔法を発動してもらったのだが……


何かおかしい。

ふと違和感を感じた。

体ではなく脳にまで。

左腕の壊死が治ると同時に体に何か流れながらも吸収される感覚。

そして、今まで経験した事のない様々な記憶が映像のように頭で流れ続ける。

だけど、この記憶は紛れもない俺の体験した出来事だった。


あぁ。

正体がわかった瞬間すとんと腑に落ちる。


彼女だ。マーシャだ。

俺の大切な妹のような存在。


そう思ったと同時に言葉が零れ落ちていたようで、彼女が意識を手放しながらも驚いた顔をしていた。

改めて確信を持ち、涙が溢れそうになったが、周囲はそれどころではない。


彼女の家族が魔力不足だと騒いでいたが、俺はその正体を知っていた。

彼女は腹が減って倒れたのだ。

きっとそのうち目を覚まし、食事をバクバク食うのだろう。


そう過去を思い出しながら、彼女が戻ってきたことに幸せを感じる微笑みそうになったが、それどころではない。

彼女の家族は大慌てだからだ。

食事不足ですよ。と伝えようと思ったが、彼らのパニック状態を見ると彼女が心配して、医師の判断でないと信じられないだろう。


そう思い、彼女の家族に手伝えることをすることにした。彼女の兄が医師を呼びに行ったので、俺が彼女を医師の元に連れていくためこととなった。

所謂姫抱っことか言う名のもので。


俺にとっては、過去にマーシャが寝落ちた時に何度もした抱っこで、大切な妹が俺の両腕に抱かれながらもスヤスヤ眠る顔を見るのが兄としてとても幸せを感じたな。

と幸せな記憶を追憶していたが、急に頭に冷水をかけられたかのように現実を思い出す。


彼女は魔法騎士団入団したいと言っていたことを思い出したのだった。


彼女の前世は魔物に殺されて死んだ。

彼女の亡骸は悲惨なものだった。


決して忘れはしない。

胸の痛み、後悔、辛さ、悲しさ、そして恨み。

負の感情と言われるもの全てをあの瞬間に感じ、死ぬまで感じ続けた。


前世の性格を持っているのなら、きっと決めたことはやり通すから、魔法騎士団入団しないでくれ。と頼んでも承諾しないだろう。


きっと彼女は前世の孤児の仲間であり家族であったメンバーと決めた"英雄になる"と言う目標を追いかけているのだろう。


俺は改めてこれは"死合わせ"と言う現象であると確信する。

俺たちは彼女を失って、絶望と言う感情に打ちのめされていた。


それは、彼女が死んで、彼女が単に魔物に殺されたわけではなかったと言う事実が判明したからだった。


正確に言うと、彼女は彼女が弟のように可愛がっている存在を守りながら死んだのだが、その後に弟のような存在ーーリアムも死んでいたから俺らは仲間を2人失ったことになる。



俺らの仲間達は元々闇魔法を使えるから同じチームだったのだが、マーシャを敬愛して絆が深まった。

いわば、マーシャのためのチームだった。


それが彼女が殺されたと知ったら。

1番年齢の小さい弟のような存在まで共に殺されたら。


己の力を最大限に使って仇を討つと言う発想になる。

その仇を討つため、この帝国内で人を殺した。

これが、今、闇魔法が禁忌とされる理由だ。


今、もう一度考え直す。

これが"死合わせ"なら。

きっと他の仲間も転生している。

もう一度彼女と出会えたのは、きっと今度こそ彼女を守り抜く使命をもらったからに違いない。


彼女に魔法騎士団入団を止められないから、俺が騎士団長を辞し、魔法騎士団入団することがベストだろう。

マーシャが眼を覚ますのはもう少し後だから、早速、騎士団総長に辞表を届けよう。


もう2度と彼女を失いはしない。

いつか他の仲間たちに会えるまで俺が1人で彼女を守り抜く。


そう考えているうちに、俺はふと思い出した。

俺の騎士におけるモットーは剣術のセンスを磨くのがベストだと思ったが、間違いだったと悟った。

過去の俺ーーダグディスが泣くだろう。

この貧弱な体を見て。


剣術、そして二刀流をする上で1番必要なのは筋肉だ。

マーシャにあった後から、体を改造しなくては。

そう決心したのだった。


騎士団総長を説得するのが大変で、彼女候補を探すために食事会を開くことになったこと、マーシャを姫抱っこしたからアクランド家の長男に怒られたこと、社交界の話題になったことはまた別の話だ。


いや、別の話も多いが奇跡が起きた日だ。


日常では起きないことを奇跡と呼ぶのだから、そういうものなのかもしれない。



遅くなりました。

待ってくださった皆さん、読んでくださっている皆さんありがとうございます。


ブックマークや評価、いいね等ありがとうございます。

今話、又は次話(side入るかもしれないので)で一区切りです。


是非、ブックマークや評価していただけたらモチベーションに繋がるのでよろしくお願いします。


5月は多め更新目指して頑張ります。

ここまで読んでいただきありがとうございます。



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