前世に思いを馳せて
どうぞよろしくお願いします。
私は可愛いフェンリルを見て、触ってみたくなった。
その欲求を抑えられなくて恐る恐る近づいてみた。
だって、1度襲われたからやっぱり少し警戒心を持ってしまうよね。
そして、やはり恐る恐る手を近づけてみる。
うん。予想通りモッフモッフ。
いや、想像以上に最高。
そんなことを中腰になりながら考えていたはずだった。
そうだったはずなのに、いつの間にか私は体が少し持ち上がった。
私は足を肩幅くらいに開いて中腰になっていたのだけれど、その足と足の間にフェンリルが体をねじ入れてきたからだ。
そうなった、今の私の体勢は。
乗っている。フェンリルに。
跨っているの方が近いかもしれない。
すると、フェンリルはゆっくり歩き、徐々にスピードを上げていった。
怖いっ。と思い、目を閉じたのは一瞬だった。
想像以上にめちゃめちゃ楽しい。
風を切るスピード。
視界からすぐになくなっていき、すぐに次のコマになる風景だとか。
とても清々しい。
そう思い、優先順位を忘れていたけど、今思い出した。
私の逆行前の人生を。
ベスター様と婚約した後の人生は控えめに言っても悲惨なものだった。
前世で彼との婚約をした時とほぼ同じ時に、光魔法を発現させた。
それからは、光魔法を使って魔物と戦い、怪我をした人々を治していく。
人々を助けられる充実していた日々だったけれど、同じくらい大切な仲間を少なからず失った悲しい日々でもあった。
そんな中、私の婚約者ベスター様は、1人の令嬢に夢中だった。夢中といえばまだ聞こえはいいかもしれない。でもそんなものではなかった。
彼女を大切にするために、周りの人々を駒のように使いまくる。
もちろん、私も同じように使われた。
彼女が地位が高くて、立派な人が好きと言えば、彼は婚約者である私にたくさんの実績をつけるように言う。
そして、私は一生懸命頑張り、命を張り魔物と戦う。
仲間と、大切な帝国民を守るため。
だけど、その実績は彼のものとなる。
彼が指示をしたから。
そんな理由で。
そして、彼は彼女のために立派な皇子という肩書を得る。
私が大切な家族、友達、帝国民を守るついでに、親友で幼馴染である彼が自信を持てるなら。
そうして、自分の仕事に責任を持ってくれるなら。
当時は、そう思って頑張っていたのだけれど、現実を知ったのは、ほぼ死ぬ前だった。
あの日は、魔物がたくさん現れた日だった。
今までとは比べ物にならない量の魔物と戦い、私はほとんど魔力がない状態で戦いを終えた。
無事終わったと思い、彼に報告に向かった。
きっと、予想より遅かったから、彼は私が報告に来ないと思っていたのだろう。
彼は今まで私にはあまり見せないようにしていた彼女との時間を楽しんでいた。
ちなみに、私は彼女と過ごしているのは知っていた。
何を知らなかったかというと、彼は私がいない間はずっと彼女といたということ。
それが何を意味するのか。
そう。彼は皇子としての職務を放棄していたということだった。
彼は、責任感のない人ではなかった。
幼馴染として一緒に過ごしてきたから分かる。
彼はそんな人ではなかった。
それが、どこから変わっていったのか。
きっと、彼女と出会ってからだ。
彼は、どんなに好きな人でもあんな風になったりしない気がする。何かが匂う気がした。
そして、私は彼と彼女の時間をうっかり見てしまった時。
だって、廊下で仲良く2人だけの時間を過ごしていたら誰だって見てしまうもの。
見たくて見たわけではないし、決して盗み見した訳ではないことは伝えておきたいわ。
その時が、私の命の終わりの時だった。
それは、倒したはずの魔物がまだいた。
それとも、また別の魔物が現れたのか。
何かがいる気配を感じて、私はベスター様の方に向かった。
やはり幼馴染で友達は守るべきという気持ちがあったし、この国の皇子は、何があっても臣下として守るべきという気持ちがあったから。
私は死ぬ気で戦った。
そして、文字通り戦った末に短い人生にピリオドを打った。
この2つだけは思い出せない。
私を倒した魔物の正体と彼と彼女は生き残ったのか。
ただ、これだけは言える。
私は彼を守って死んだ。
という事は、私も彼も今後は強くならないといけない。
どっち狙われたか分からない上に、今後お互いに死なない為には、共に強くならないといけないから。
もしかしたら、私の死後にこのベリンガム帝国は大変なことになってしまったかもしれないし。
だから婚約はしない。
婚約をしてしまったら、第二皇子妃としての教育で自分を鍛えるーー強くなるために時間を割けなくなる。
きっと、品性を身につけるためにもっとたくさんの授業を受けなくなるに違いないからね。
そして、実はもう既に彼は彼女と出会っている。
彼女の何が彼をあんなに変えたのかわからない。
だけど、これは言える。
彼にも強くなるための覚悟を決めさせて、努力をさせないといけないと思う。
彼が兄に対してコンプレックスを抱え、目を背ける時間はもう終わりにしないといけないのだろう。
幼馴染、さらに友達としての役目、それはきっと彼の目を覚まさせることなのだろう。
やるべきことは決まった。
それなら……
ちょっと降りて、少し光魔法の練習をしないといけないわね。
だって、実は、今は魔力を持っているだけで何も使えはしないもの。
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