絶体絶命?!と思ったら才能開花
よろしくお願いします。
目の前に広がる光景。
それは、フェンリルの大きな口の中。
この口の大きさなら、私の頭は一口サイズに違いないわ。
私の人生ここまでなのね。
16年……
短すぎるわ。
私は、自分の死を確信してしまったからか、あるいは、この現状で生き抜く可能性がないからなのか、そんなことを冷静に思っていた。
すると、ある言葉が響いた。
「正常化」
その言葉が聞こえた後、フェンリルの周りは黒い空気のようなもので包まれていた。
そして、また、ある言葉が紡がれる。
「久しぶりにやったからか、少し失敗かしら。この程度の魔法だったら、瘴気は隠すことができないとダメよね」
……は?
……はい?
……え?!
確かに今の状況も驚きだ。
だって、さっきまで私を食べようとしていたフェンリルが私にスリスリして、甘えている。
その姿は可愛いけども!さっきまでは敵だったよね?!
フェンリルは安全そうなので、改めて思考を始める。
いやいや、嘘よね。
私は、さっきの言葉を紡いだ者の存在に気付き、驚愕する。
それは、私だった。
あり得ないことに、私が魔法を発動し、フェンリルの食糧になるという危機を回避したらしい。
普通の魔法だったら、
「やったー。新たな才能ね」
と万々歳で、喜んだかもしれない。
でも、私の魔法は闇魔法だった。
いやいや。
貴族として特に秀でたものがない私にさらにハンデとなる魔法?!せめて、私のあまり褒められることのない品性をカバーできるくらいのアドバンテージとなる普通の魔法をくださいっ!
闇魔法は禁忌魔法なのだ。
うん。これはまずいわね。
だって、闇魔法を使えることがバレたらすぐに、私は処刑されてしまう運命なのだから。
私は昔から闇魔法が大好きだったし、こんなに便利で素晴らしい魔法はない!と思っているのに、どうして闇魔法は禁忌魔法になってしまったのかしら。
何としてでも、闇魔法は使いたいわ
ん?昔っていつかしら?
……。
そう考えていると、数々の私ーーマルティーナが経験したことのない出来事が思い浮かんでくる。
私はどうやら転生したのね。
私が闇魔法を使えるのは、前々世である私の1回目の人生がマーシャだからだ。マーシャは、闇魔法の最高位まで発動できる闇魔法だけが得意な子どもだった。
大体、400年前の話。
マーシャとして生きていた時は、孤児だったから、他の孤児仲間と魔物狩りをしてたわね。
うん。これは、絶対マーシャの力ね。だって、私は魔物狩りの時に、これでもかというくらい闇魔法を使いまくっていたしね。今も、闇魔法ならいくらでも使える気がするし。
でも、そんなことを言っていても、最後は魔物にやられたのよね。
さらに、私は逆行もしていた。
なぜなら、思い浮かんだ映像には未来の出来事が見えたから。
つまり、今のマルティーナ・アクランドとして人生は2度目ということだ。
1度目の前世であるマルティーナの人生、いわば私の2回目の人生は、聖なる魔法と崇められている光魔法を使えるようになっていたわよね。
ということは、もしかしてマルティーナとしての2回目の今も、使えるのかしら?
……ある。ある!あるわ!!!
私は、なんと自分の体の中から光魔法の魔力を感じることができた。闇魔法は自分の体ではなく自然界の力を使うから自然と調和する能力が必要なのに対して、その他の魔法ーー光・水・火・風・土魔法は、自分の体内にその魔法の魔力が必要だ。
どちらも素質がいるのだが、私ーーマルティーナの体には光魔法の魔力があった。そして、もちろん自然と調和する能力も。
世の中は私の味方ね。
これで、闇魔法を使えるわ!
だって、この世界には、禁忌魔法とされた闇魔法のことを知っている人も、文献も全くないのだ。
そして、光魔法が崇められている理由も、同じように光魔法も、この世界で知っている人も見たことがある人も、文献もない。
ということは、光魔法を使いながら闇魔法もバリバリ使えるということ。だって、闇魔法を使っても、光魔法です!なんて主張したら全て通るはずだから。
もちろん、光魔法も鍛えるけど、昔から闇魔法が大好きだもの。
使えるものは、使わなきゃ損よね!
ということで、闇魔法を絶対バレずに使ってみせるわ。
そういえば、1度目のマルティーナの人生を終えた理由も魔物にやられた事が原因よね。
で、さっきもフェンリルに殺されそうになった。
私って魔物に狙われすぎじゃない?
3度目の人生こそ、全うするためには、何にも負けないくらい強くならないといけないわね。
そう思いながら、ふと過去ーー1度目の人生に意識を向けた。
転生したのは、死合わせかしら?
転生は、御伽話の中だと思っていたわ。
でも、大勢の辛さや死が合わさった出来事ってあったのかしら?
思いつかないわね。
それにしても、逆行ってものがあるなんてね。
逆行もどうして私に起きたのか分からないのよね。
まず、分からないものを考えるより、この森から出る方がいいわよね。
うん。でも、帰り道が分からない。
だって、私は、マリッジブルー予備軍で、婚約について考えながら歩いていたのだから。
でも、死を前にしたら婚約の問題なんてちっぽけなものに思えてしまったわ。
早速行動しなくちゃ。
でも、森を抜けないにはどうしようもないわよね。
はぁ。マーシャの弱点である方向音痴が今でも健全なのね。
これは要らなかったわ。
そんなこんなで打開策を考えていると、フェンリルが私を見上げていることに気づいた。
ん?ついて来いって?
何故だか、そう言っているように思う。
うん。この子はとっても可愛いし、お家に連れて帰りたい。
しかも道案内してくれそうだし、着いて行ってみようかしら。
そう思っていると、フェンリルは私に後ろ足を曲げ、お尻をつける可愛らしい格好で上目遣いで見上げていた。
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